logo やかましい国


これは自分の買ったマンションの空室がその後値下げして販売されたことを理由に、その値下げ分を自分たちにも補填するよう求めた人たちの裁判のニュースを見て書いたものだが、一番言いたかったことは結局「自己責任」というものが日本という国に決定的に欠けていること、そんなことじゃ構造改革もメガ・コンペティションもないということだったのだと思う。(2001.6.10)


公団の分譲マンションを買った人たちが、自分たちの購入後に公団が売れ残りの部屋の価格を引き下げて販売したのは不当だとして、補償を求めて提訴したというニュースを見た。僕はもう本当にがっかりしてしまって、この国の人たちはやっぱり今自分たちがどこにいるかまったく見えていないんじゃないかということを強く感じざるを得なかった。

もちろん分譲マンションを買うということは普通一生に1回か2回の一大事である。時間をかけて悩み、決断し、巨額のローンを組んで買った物件が値下がりすれば不愉快なのは当たり前だ。いずれ転売して住み替えをと考えていたのであれば心穏やかならぬものがあるのも理解はできる。だからだれかに文句を言いたい、できるものなら値下がりした分を返して欲しいという素朴な気持ちそのものは分からないでもない。

しかし、ものの価格が高騰したり下落したりするのは当たり前のことである。例えば僕が昨日1ドルを127円で買ったとしよう。今日それが126円に値下がりしたからといって、昨日ドルを買った取引相手の銀行に差額の1円を返してくれと言ったら、彼らは腹を抱えて笑うだろう。僕たちは一瞬ごとに判断をして取引する。買ったものが値下がりすることも、売ったものが値上がりすることももちろんある。でもそれは僕が僕自身の責任で行ったことだ。見込み違いの責任は自分でとるしかない。

それは分譲マンションだって同じことなのではないか。例えば瑕疵のある物件をだまして売りつけられたとか、縁故のある者にだけ不当な安値で販売していたと言うのであれば補償を求める余地はあるかもしれない。しかし市場における価格の変動を理由にいちいち値下がり分の補償を求められたのでは商売は成り立たない。買うときにこの価格でよいと思ったからこそ彼らはそのマンションを購入したのではなかったのか。その自分の判断に対する自分の責任はいったいどこにあるのか。

今回一時帰国して感じたのは、日本は本当にうるさいということだった。電車に乗ったら「開きます」「閉まります」「次は新宿です」はまだしも、「電車とホームの間が広く開いておりますので」だの「リュックは背負わないで胸の前でお持ちください」だのとのべつまくなしにアナウンスがあるし、エレベーターは「上に参ります」「18階でございます」と教えてくれる。トラックは「左に曲がります」「バックします」としゃべっているし、自動販売機はお礼を言ってくれる。これはもちろん僕が2年半前に日本を出たときから既に始まっていたことなのだが、ヨーロッパから帰ってきて、あらためて本当にうんざりしてしまった。

これにはそれぞれいろいろ理由があるのだろう。しかしその背景にあるのは、だれも自分の頭で物事を判断しようとしない、自分のしたことの責任をとろうとしないということなのではないかと僕は思う。声の大きいだれかの尻馬に乗っかるだけで、風向きが変わると顔つきまで変わってしまうような、下劣で品性の卑しい連中がこの国では大多数なのだと僕は考えざるを得ない。それは新聞が言うように官僚や政治家、大企業の偉い人のことではない(もちろん彼らの中にもそういう奴らはたくさんいるのだが)。僕が言いたいのは、何もかもをそういう人たちのせいにして、自分は何の関係もないような顔をしているテレビの前のバカどものことだ。

何が日本をこうしてしまったのか、日本がこれからどうすればいいのか、僕なりの考えもあるにはあるが、それは別の機会に書きたいと思う。でも今僕がともかく思うのは、明日からでもペイ・オフを実施して、自分のお金に対する危機感をすべての日本人にたたき込むべきだということ。カスみたいなオヤジが山一証券の前でインタビューされ、「何を信じて投資していいのかもう分かりませんね」なんてエラそうに答えているのを見て、僕は本当に吐きそうになった。そんなもの、自分のアタマに決まっているだろう、バカ。



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