logo THE SONGWRITERS 山崎 まさよし


■NHK総合「THE SONGWRITERS」
■2012年11月16日・23日放送

シンガーソングライターで俳優でもある山崎まさよしをゲストに迎えた。山崎はこの時点で既にヒット曲もあり実績のあるミュージシャンである。

まず印象に残ったのは率直で飾らない人柄と、表現に向かう真摯な姿勢である。自らの音楽表現の奥に横たわるものについて、時に自分自身に問いかけるように言葉を探しながら説明しようとする態度は好感の持てるものであった。

基本的にはメロディが先にあり、多くの場合、歌詞はさんざん悩んで書くと山崎自身は説明しているが、ワークショップなどを見ても、歌いたいこと自体はそこにあり、ただそれを然るべき手順を踏んで本来それがあるべき場所まで引っ張り出してくるというような創作過程なのではないかと感じた。

「曲が『降りてくる』こともあるが、それは自分でも気づかないところで時間をかけて用意されていたのだと思う」という説明からも、こじつけやひねり出しというよりは、自分の中のどこかにある表現を実体化する作業がこの人にとってのソングライティングなのだろう。

山崎はブルースから強い影響を受けたミュージシャンであり、人気アーティストとしての活動から想像されるよりはずっと泥臭く、シニカルな一面をその作品の背後に抱えている。それをポップでコマーシャルな作品に昇華することのできる力がこの人のアーティストとしての本領であり、その一端が番組でも紹介されたと思う。

しかし、それは資質としかいいようのない部分でもあり、彼がその自分の中の深い沼と具体的な手ざわりのある世界の間をどうやって往来しているのかということは、必ずしも明確には話されなかったし、山崎自身もそれを自覚的にやっている訳ではないのだろうと思った。

学生から創作に向かうモチベーションを問われ「とにかく音楽が好きだから」と答えたところにこの人の表現者としての業と、それを生業として、あるいは天職として引き受ける覚悟のようなものを垣間見た気がした。

ワークショップは、AABと進行する12小節のブルースに佐野と山崎がAのフレーズを提案し、それを受けたBの部分を学生が即興で応えるという、連歌のようなセッションであった。山崎のブルースマンとしての表現力がハンパなく(ギターが抜群に上手い)、どんなフレーズであれ説得力をもたせてしまうのがすごいと思った。これまでにないスタイルのワークショップであり興味深かった。

全体として、山崎まさよしという人の存在感を軸に番組が進行してしまい、創作論としての突っこみがやや足りなかった感は否めないが、対談としては十分に興味深かった。ブルースについてはもっと突っこんだ議論があってもいいと思った。

(2021.10.30)



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