logo THE SONGWRITERS 星野 源


■NHK総合「THE SONGWRITERS」
■2012年11月2日・9日放送

今では知らない人のない星野源がゲスト。放送時は星野が31歳、シンガー・ソングライターとして2枚のアルバムを発表し、俳優としてもNHKの朝ドラ「ゲゲゲの女房」にも出演するなど、「出始め」の時期にあたる。

番組では星野の書く詞の特徴について佐野が視点を示しながら星野のコメントを引き出して行くという形で進行した。佐野が事前に星野の楽曲をよく聴きこみ、歌詞の中からポイントを的確に取り上げるのはいつものことだが、それに対する星野の説明が非常に筋が通っていて聞きやすく、思っていることを言葉にするのが上手な人だと思うと同時に、自分の気持ちの中の探ってそこにある答えを過不足なく拾い上げようとする真摯な努力なしにこの受け答えはないなと感心させられた。

「身近なものを題材にした詞が多い」「老人をテーマにした作品が多い」など、彼の作品の顕著な特徴を丁寧に分析し、その奥にある星野の表現に向かう態度や意図、作品の制作過程が彼自身の口から率直に語られるセッションは、知的ななぞ解きをしているようでもありスリリングだった。

特に「老人をテーマにした作品が多い理由」について、「共感を排除したい」「共感以外のそれぞれの気持ちを持ち寄りたい」「その方が共感よりいいもののような気がする」という星野の説明は、表現者として安易な連帯よりはそこにあるそれぞれの「物語」を仲立ちにして、個は個のままで緩やかにリンクし合いたいという星野の姿勢を明確に説明しているようで説得力があり肯かされた。

「物語」という考え方は星野の音楽、詞を理解するうえで重要なものだ。「世界とか平和とか大きなものについて歌おうともしたがことごとく失敗した」「自分自身のことを歌うのは恥ずかしいしおこがましい」「物語を歌うことでよりたくさんの人が自分の気持ちをそこに仮託できる」といった意識は、星野の作家性を強く感じさせるもの。いったん自分を対象化してそこから物語を引き出し、それを作品に仕立てて行くことでより奥行きや広がりのある表現を求める星野の創作態度がはっきりと窺えた。

こうした星野の態度は、彼が不自然なもの、わざとらしいもの、ウソ臭いものを自分の表現から注意深く取り除こうとしていることも印象づけた。「入れ歯」や「禿げ」といったポップ・ソングにはなじみにくい言葉をどう自然に聞かせるかと考えるところから曲ができて行くというエピソードもこうした彼の考え方を裏づけているように思えた。

ワークショップは、星野が作った6小節のメロディに学生が歌詞をつけるというシンプルなものだったが、番組で披露された作品はどれもしっかり自分の言葉で書かれており、それを選んだ星野と佐野の表現観が表れていたと思う。最後に星野が自分でそのメロディにつけた2パターンの歌詞を披露したが、そのいずれもが意表を突きながらも表現というものの奥深さと自由さ、可能性を示すものであったのは驚かされた。

そしてやはり際立つのは星野のトークの、決して流暢という訳ではないが、回転の速さを窺わせる筋の通り方と、人柄を感じさせるチャーミングさの合わさった魅力、面白さである。この後、ミュージシャンとしてだけではなく、俳優として、またタレントとしても「大化け」して行く素地は十分窺えた。

パンクにもあこがれたが「似合わない」と言われ、鋭いことをボソッと歌う方がむしろ深く刺さることもあると考えて今のスタイルになったという説明が納得できる、さまざまな深みや洞察を具えながらも、一方で親しみやすく鷹揚な包容力のある星野源という人の多面的な輝きに触れた1時間だった。

(2021.10.13)



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