logo THE SONGWRITERS 大木 伸夫


現在も活躍する3ピース・バンド、ACIDMANのフロントマンでありソングライターである大木伸夫をゲストに迎えた。この番組が放送された2012年当時も今もほぼ聴いたことがないバンドである。

番組で紹介された通り、大木が書くACIDMANの曲は「宇宙」とか「生命」とか「宗教」のような大きなテーマを扱うことが多く、大木自身「ラブソングは書けない」「書くことがない」とコメントしている。また、大木が薬剤師免許を持つこともあってか科学的な知識を背景とした言葉の選び方にも特徴があるようである。

この番組を見ても、大木は自分の中から訴えかけたいことが自然にあふれ出てそれを汲み出すというタイプであるよりは、先に曲、音楽があって、それにハメこむ詞を考える中で、最も自然に書けるテーマが先に挙げた「宇宙」や「生命」などであるという印象をもった。

トークを見てもアーティストらしい才気走ったエキセントリシティは窺えず、普通のスピードで話し、考えるどちらかといえばロジカルな人のように見え、タイプは違うが小田和正のような知識、論理主導型の構築的な曲作りを得意としているのではないかと思った。

彼にとって作詞とは、おそらくはインプットとアウトプットからなる学習のプロセスであり、やむにやまれぬ表現衝動よりは必要に迫られて「作る」営為なのだろう。「宇宙にあるすべての物質は137億年前のビッグバンで生まれたもの。そういう話を居酒屋でしても誰も聞いてくれないが、それを曲にすると聞かせることができる」というコメントにも、彼の題材の取り方や表現の動機のありかが窺える気がした。

また、ワークショップで学生の書いた詞について、それが三原色を含んでいることを指摘した場面も、「知」への興味が表現と結びついていることが示唆されたようで興味深かった。

ワークショップはACIDMANのMV「彩」を見てのインスピレーションを「鳥の視点から」というテーマで詩にするというもので、学生から提出された作品を「彩」に乗せて大木と佐野が朗読した。学生らの詩はどれもレベルが高くもとになったMVとも呼応していたが、大木の詩作の源を解き明かすような何かのマジックが垣間見られた訳ではなかったのが少し残念だった。

語弊を怖れずにいうなら「理系ロック」とでもいうような言語表現であり、個としての生のリアルさへのアプローチに興味のある僕としては、客体と対峙する大木の個としての思いのようなものが見えなかったし、佐野もそこには迫りきれていないような気がして食い足りなかった。

(2021.10.5)



Copyright Reserved
2021 Silverboy & Co.
e-Mail address : silverboy@silverboy.com