logo THE SONGWRITERS 七尾 旅人


1999年にデビューしたソロ・アーティスト、七尾旅人が番組第3シーズンの最終回の出演者となった。

七尾はもっと不思議くん的な人かと思っていたが、意外と受け答えもまともで、それなりに会話の成り立つ人のようだったので少し安心した。とはいえ、独特の感覚を持つ天然系のアーティストであることは間違いなく、その発言が少なくとも方法論としては一般人の参考にならないという点で矢野顕子と通じるものはあった(才能の質、量はともかくとして)。

そうした事情を考えてか、佐野も七尾に対してはソングライティングの具体論や技術論よりも、アーティストとして表現に向かう態度のようなものを中心に問いかけていたように思うし、実際番組の最後に佐野自身からもそのような総括があった。「歌の言葉」というこの番組のメイン・コンセプトからは少しばかり外れるが、より「ソングライティング」というものの核心に迫るという意味では理解のできるアプローチかもしれない。

もっとも、そうなってしまうと後は番組の出来がアーティストの好き嫌いやその表現が受け入れられるかどうかという問題に帰着してしまうリスクはある。実際、僕のように七尾やその作品に特に思い入れのない視聴者にとっては、七尾が得々と語る創作論に退屈な部分は少なからずあったのではないだろうか。

その中では、CDメディアを中心とする既存の音楽産業の衰退と、それに代わるように台頭しているネット配信などの新しい流通チャネルについての七尾の説明は、それが具体的である分説得力があり面白かった。だが、ここでも、ではネット配信でこそ有効に流通し得る表現というのがどのようなものかという肝心の部分ははっきりとは語られなかったのではないかと思う。

僕は「アンダーグラウンドやグラス・ルーツにこそ宝がある」とは考えないので、むしろ、優れた表現であるならあるほど、それをどのようにしてマスに流通させ、多くの人の許に届けるかということをきちんと考えるべきだと発想する。テレビのアナログ放送が終わり、みんなで同じ番組を見る時代からよりパーソナルな趣味性に自閉しがちな時代への転換点にあって、七尾のアプローチは表現そのものの更新やロック表現における開放性、一般性の維持という意味からどれほど有効なのか。僕には評価の難しい点だ。

ワークショップは興味深かった。ふだんポップで定型的な表現に慣れている僕たちにとって、佐野と七尾が実演したような、スポンテイニアスでフリー・フォームのパフォーマンスは「異形」のものだ。しかし、この日のパフォーマンスでは、そうした形態で実演されることで強い喚起力、説得力を獲得し得る表現があるということがテレビを通じて伝わってきた。現場ではもっと高い緊張感をはらんだ実演だったのだと思うが、そうした表現の「必然性」は学生たちにも実感できたのではないか。

番組としては興味深いエピソードも多かったが、全体に七尾の「ご高説を拝聴する」部分が多かったのは正直この番組の最終回としていかがかと思った。



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