logo THE SONGWRITERS トータス松本


ウルフルズのフロント・マンであるトータス松本をゲストに迎えての1時間。ウルフルズといえば、『ガッツだぜ!!』や『バンザイ』といった代表曲に顕著に見られるように、ストレートで前向きな、人生応援歌的なポジティブ・ソングを得意とするバンドだと思われているのではないだろうか。また、トータス松本自身も巧みな話術とユーモアでテレビ映えのする芸能人と見られているように思う。

しかし、この日の番組からも窺い知れるように、トータス松本は実は非常に繊細で表現にも真摯に向かい合っているアーティストではないかと僕は思っている。彼の抱える資質は実際には内向的、内省的なもので、逡巡したり、躊躇したり、くじけたり、迷ったり、諦めたりしながら何とか歌を紡ぎ出している人間くさい関西の兄ちゃんなのではないかと。

彼の歌がことさらにハッピーに、ポジティブに響くのは、彼が敢えてそのように歌っているからである。いろいろな迷い、戸惑い、悲しみ、絶望といったものをその内側に抱えているからこそ、トータス松本はポジティブな歌を歌おうとするのではないか。そこにあるのは100%の自信などではなく、頼りない自分を自分で叱咤し、激励しながら、自分がポジティブで、ハッピーであること、大きな声で歌うことへの希求ではないか。

その意味で『ええねん』を巡るエピソードは印象深かった。この曲ですべてを肯定することから始めようとするトータス松本の態度は哲学めいた深遠さをすら感じさせる。そこにあるものをすべてそこにあるが故に肯定すること。そうした宗教的な諦念や赦免にも似た受容を「ええねん」という関西弁の一言に凝縮して通用させてしまう説得力はこの人ならではのものだ。

それは学生に「今いちばん叫びたいこと」というテーマでワンフレーズを出させるワークショップでも顕著に窺えた。トータスの場合、詩作のポイントは、佐野が「動詞をポンと提示する例が多い」と看破したように、最も力のあるフレーズを端的に言いきることにあると思う。それをこのワークショップという形にした佐野も素晴らしいが、学生の提示したフレーズを即興で叫び、コール&レスポンスに仕立てたトータスの力も目を見張るものがあった。

「聴いた人が暗い気持ちになるような歌は作らない」「明るい歌を作れと言われれば喜んで作る」といった発言にも、この人が音楽に敢えて何を求めているかが表れている。それは、つらい労働の中で互いを励ますために、あるいは慰めるために、心のきしみを吐き出すために、アメリカの黒人たちの間で生まれたというブルースの成り立ちに似ている。ワークショップでトータスが学生の「今いちばん叫びたいこと」をリズムに乗せてシャウトした瞬間、それはブルースが最初に生まれた瞬間の再現だったのかもしれない。

細かい詩作のテクニックや考え方よりも、トータスの、ネガティブなものを知るが故に敢えてそれを笑い飛ばし、歌い飛ばしてポジティブであろうとする姿勢を浮き彫りにしたという点で今回の番組は成功だったと思う。サンボマスターの山口と並んで強く印象に残った回だった。



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