logo THE SONGWRITERS 曽我部恵一


サニーデイ・サービスのフロントマンであり、ソロ・アーティストでもある曽我部恵一がゲスト。サニーデイも曽我部も名前は知っていたが音はほとんど聴いたことがなかった。

正直僕はどうもこの人の佇まいには違和感を覚える。それは僕が中央線の沿線とか下北沢とか、そういう古き良きロック村的なメンタリティに対して抱く違和感と同じ種類のものだ。

そこには70年代的サブ・カルチャー、ヒッピー・カルチャーの香りが拭い難く残っており、左翼夢想主義的な疑似ロマン主義とでもいったもののイヤな感じが色濃く感じられるからだ。いい年をして髪をポニーテールにした小汚いオヤジがマスターと呼ばれる、自家製のカレーを出して夜は居酒屋になるような喫茶店の、自己満足的で閉鎖的な敗北主義を連想するからだ。

そんな訳で、偏見を持って見た番組ではやはり気に入らないところばかりが目についた。例えば佐野が「言葉を取捨選択した結果、ステロタイプな言葉に戻るということはないか」と訊いた場面で、曽我部の答えは質問の趣旨に添わない、的の外れたものだった。あるいは学生からの「最も印象的だった経験とそれが詩作に与えた影響は」との質問に対しても端的な答えは聞けなかった。

結局、この人は自分の領域の中でだけ勝負をする人であり、そこから踏み出して、アウェイで何かと丁々発止でやり合うことが苦手なのではないかと僕は思った。ある種の小さな、よそ者のいないサークルの中でしか有効に機能しないようなタイプの才能を抱えた人なのではないかと。そのデタッチメントが僕には気になる。

リスクを背負った真剣勝負の中からしかリアリティや説得力のある表現は生まれてこないのではないかと僕は思っている。「ステロタイプな言葉を使ってしまうと簡単に分かり合えた気になるからイヤだ」という曽我部の言葉は表現論としては面白いものだが、むしろステロタイプな言葉にこそどれだけの新しいリアリティを盛り込めるかという発想が聴けなかったのは残念だ(先の佐野の質問はまさにそれを意識してのものだったろう)。

音楽的バックボーンやあるいは作詞・作曲の素養にはおそらく見るべきものがあるのだろうが、それがスケール感のある表現につながらず、箱庭のような小さく完結した世界にとどまっているように見えた。



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