logo THE SONGWRITERS 山口 隆(サンボマスター)


ちょうど4年前、僕は新宿コマ劇場でサンボマスターが佐野元春をゲストに迎えたライブを見た。その日僕は仕事の都合で開演に遅れ、結局目当ての佐野のライブはほとんど見られずに、その日が初めてだったサンボマスターの演奏を聴いたのだ。そのときのライブ・レビューがある。

その日の演奏でこのバンドに相当な衝撃を受けたにも関わらず、僕はその後、彼らの作品をきちんと聴くことはなかった。それは、彼らの作品にぶち込まれた熱量、情報量の圧倒的な威力を受け止めるだけの自信が僕になかったからだ。

今回の番組を見て、改めて山口隆という人の表現に向かう基本的な考え方とか、その強度というものを目の当たりにした気がした。まるでコメディアンのような風貌と語り口の向こうには、ロックが自分の表現として現代に鳴らされることの意味を誰よりも真摯に考えている生真面目で純粋な少年の姿があった。

まず興味深かったのは、山口の音楽的なルーツである。イギー・ポップとカーティス・メイフィールドから影響を受けたという音楽的出自は、美しいメロディと繊細なコード進行を爆音とスピードでドライブする、彼らの特徴的な音楽スタイルをよく説明していて腑に落ちるエピソードだった。

だが、それ以上に印象的だったのは、山口が自分の表現から「ウソ臭いもの」を排除しようとするその愚直なまでに真摯な態度である。学生から「何が本当か分からなくなったときにはどうすればよいか」と問われたときの「初期衝動を信じる」という答えには正直感動した。ロックというものの本質についてこれほど的確に言い表すことのできるアーティストは他にいないのではないだろうか。

同じく学生からの質問に対して、「爆音で日本中の闇を食い尽くしてやりたい」と言い切ったときにもこみ上げてくるものがあった。それは音楽というものの可能性とその限界の両方を知る者だけが、その両方を引き受ける覚悟の上で言えることだ。

ワークショップも面白かった。学生の詞をチョイスする着眼点やそれをバンドで曲に仕上げて行くプロセスも非常にスリリングだったが、今回に限っていえば、彼らが実際にそれを演奏するシーンの迫力に圧倒された。

あらゆるステロタイプを破棄し、自分の感情の核に最も近いところから赤ん坊の産声のような原初的な叫びを届けることこそがロックであるとしたら、山口がこの日、番組の中で語ったのはまさにそのことである。しかし、一方で、ロックは強固なフォーマットを持った音楽であり、スリーピースというシンプルな構成で彼らがたたき出す音楽もまた、そのフォーマット自体からまったく自由になることはできない。

そのような自家撞着、ロックという音楽が本質的に抱え込んだ矛盾の中で、山口はどのようにすれば原初の叫びの初速を落とさずにパッケージし、新しいロックとしてリスナーに響かせることができるかを常に考え続けているはずだ。この日の番組を見て、僕はそのことを、そして山口という人、サンボマスターというアーティストは信頼に値するということを確信した。

告白すれば、今回の番組を2回分まとめて見ながら、僕は1時間ほぼずっと泣きっ放しだった。この番組で感動して泣いたのは初めてだ。サンボマスターの作品を、今度こそきちんと聴いてみようと思った。



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