logo THE SONGWRITERS 2nd Season 山口一郎


今回も例によってサカナクションというバンドのことはほぼまったく知らない。名前すらほとんど認識がなかった。もちろん彼らの作品を知ることもなく、まっさらの状態で番組を見た。

強い印象を受けたのは、山口という人の微妙なバランスである。特に、口の端を引いて見せる笑顔は時として非常にチャーミングなのに、その笑顔から突然真顔に戻るギャップ、感情とは別にその表情だけが一瞬顔に貼りついたような特異な笑い方には、何か独特のものを感じた。

そうしたたたずまいからは、神経質でアーティスティックな気質の人なのではないかと想像したのだが、そしてまた実際にそう感じられる挙動や発言もいろいろあったのだが、意外にも「表現をどうやって届けるかを戦略的に考える」とか「歌詞にはフックが必要」とかいった、怜悧で論理的な説明もあった。

フォーマットを壊したいとか、表現は自分のためにやっているとかいった発言も興味深かったが、特に、「ロック」という言葉が単なる音楽のスタイルを超えて、ひとつのジャンルやアティチュードのことを指している状況を踏まえた上で、だからこそこれを壊すのは難しいと指摘したのには肯かされた。

ロックという言葉がグニャグニャした不定型な概念として、局面や語り手によって多義的に使われているのは紛れもない事実だが、アーティストの側からそのロックという概念とどう取り組み合うのかということがストレートに語られたのは今回の番組のひとつの成果であったとすら言えるのではないだろうか。

僕自身、ロックという術語をその時々の文脈で便宜的に使うことは少なくない。もちろん、その裏側には常に「ロックとは何か」という不断の自問がある訳だが、結局のところ循環論法に近い自家撞着に囚われているだけのようにも思える。この点については佐野のコメントも聴きたかったところだ。

数人の学生の歌詞を一行ずつ合わせ、バックトラックに乗せてリーディングするワークショップの試みもそれなりに面白かった。異なるイメージのラインを合成し、音楽に乗せることで、意外なストーリーを浮かび上がらせるという目論見は成功していたと思う。もっとも、バックトラックがもう少しポップであったり、リズミカルなものであったりしてもよかったような気はする。

全体として、山口一郎という人の、生真面目で真摯な表現への眼差しが素直に表れる番組になったように思う。彼の詞の特徴について投げかけられた学生からの質問もどれも的確で、失礼ながら感心した。彼の口から語られた回答は、おそらくサカナクションのファンであろう彼らにとって大きな意味を持つものであっただろう。



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