logo THE SONGWRITERS VOL.7 / VOL.8 スガシカオ


スガシカオの曲は聴いたことがないのだが、それでも十分楽しめた。それどころかスガのCDを買ってみてもいいなと思わせる充実した内容だったと思う。

スガは1997年にデビューしたシンガー・ソングライターである。今回のオンエアを見て印象に残ったのは、スガが一貫して強い言葉を焼きつけようとする姿勢である。番組ではデビュー後に歌詞にリアリティがなくなるのが怖くて喫茶店でアルバイトをしていたエピソードが紹介されたし、また写真を見て実際に4行の詞を書き起こすワークショップでも、ありきたりのイメージでは写真に勝てないとコメントしている。言葉自体の強さ、喚起するイメージのリアリティにスガが強いこだわりを持っていることが窺える。

それは「ラブ・ソングばかり歌ってる人を見ると『どんだけラブなんだ』と思う」、「僕たちの日常は円グラフ的にいろんな要素からできていて、自分はその円グラフをそのままアルバムにしたいと思った」といったコメントにも端的に表れている。また、それに佐野が深く肯いていたのも印象的だった。音楽における言葉は、何か僕たちの実状とか実感に近いものをできるだけ的確にすくい取るものであるべきだというスガの、そして佐野の考え方がこのとき目に見えて同期したように思えた。

上述のワークショップでは渋谷駅前のスクランブル交差点を鳥瞰した写真を学生に示し、これを見て詞を書かせるもので、その中からいくつかの作品をピックアップして佐野とスガがコメントを述べた。スガ自身の作品も披露されたが、そこにスガと学生との間の「渡り合い」はなく、単なる佳作の発表会とその選評に終わったのはやや食い足りなかった。もう少し詞作の過程をインタラクティブに共有するような工夫があってもよかったではないかと思う。また、ホストという立場からは難しいのだろうが、佐野がこの写真を見てどのような詞を書くかも見てみたかった。

それに比べると学生との質疑応答は見応えがあった。特にスガの特徴あるタイトルの付け方についての質問や、歌詞の一部を敢えてカタカナで表記することの意味を訊いた質問などは、スガの言葉に対する姿勢を知る上でも興味深かった。カタカナで表記するのは言葉のにおい消しであり、漢字、ひらがなで表記されるその言葉に染みついた「におい」を無効化するものだというというスガの説明には説得力があったし、このアーティストが言葉というものに極めて自覚的に向かい合っていることを強く感じさせた。

全体として感じたのは、スガの、アーティストとしての誠実な姿勢である。自分の詞作のプロセスを自ら的確に説明するスガの語り口は、こなれてはいるが極めて率直なものであり、そこには自分の創作スタンスに対する確信、自信の深さと、それを平易に語ろうとする真摯な姿勢が感じられた。

また、セッション後に「自分でもいろんなことに気づいた」とコメントしているとおり、スガ自身もふだん意識していないような、詞作の背景に横たわる考え方とか感じ方を、このような形で対象化して取り出し、それを自分自身で分析してみるというプロセスが彼にとって新鮮なものであったことは想像に難くないし、それを媒介して引き出した佐野の的確な進行はインテリジェントなものだった。これはある種のプロデュースに近いと僕は感じた。

最初に書いたとおり、僕はスガの音楽をきちんと聴いたことがない訳だが、このセッションはそのような視聴者にもスガシカオというアーティストに対する興味を抱かせるものだったと思う。スガと佐野のバイブレーションが強く共振した瞬間を目の当たりにする思いだった。



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