silverboy club presents disc review
my shopping bag nov. & dec. 1999




US AND US ONLY The Charlatans

デビュー直後、初来日したシャーラタンズを大阪のIMPホールで見たことがある。ファースト・アルバムはきちんとチェックして出かけたのだが、ステージではどの曲もまったく同じに聞こえて笑ってしまった。もちろんカッコいいことに間違いはないし、グルービーであることも確かなのだが、あのオルガンの響きと執拗に繰り返されるマンチェ系リズム・パターンに僕たちは少しばかり脳みそをやられていたのだろうと思う。あれでアシッドでもあればよかったのかもしれないが。

で、この芸風の単純さはいずれ壁にぶち当たるだろう、このバンドは遠からず消えて行くだろうと思っていたのだが、シャーラタンズはオルガンのロブを事故で失いながらも生き残っているどころか押しも押されぬヒット・バンドであり続けている。なぜか。それはこのアルバムを聴けば分かる。芸の幅はいつの間にか格段に広がっている。あの特徴ある節回しはそのままだが、曲調にはきちんとメリハリがつき、音には奥行きができている。これは紛れもないロックである。

オーソドックスなロックのフォーマットには時代を超えて通用する普遍性がある。しかしそれを手にできるのは時代に選ばれたバンドだけだ。シャーラタンズというバンドがそこまでの傑出したバンドかどうかということはまだ分からないが、アルバム毎にある意味でどんどんオーソドックスになりながら、それに比例して確かな説得力を身につけてきたことを考えれば、意外な本格派として残って行く予感は十分ある。「インポシブル」がベスト・トラック。ところで「ミッシェル」って何? 過不足ない8点。


LOVE AND THE RUSSIAN WINTER Simply Red

よくできている。ウェル・プロデュースというのはこういうことを言うんだろうと思わせる文句のない仕上がり。ソフィストケートされたサウンド・プロダクション、耳馴染みのいいメロディとフック、無理なく計算されつくした曲構成、音楽産業の製品として大変高い品質を誇っている。最近のシンプリー・レッドのセールスがどんなふうに推移しているのか知らないが、これもまあ問題なくシンプリー・レッドとして売るべき枚数はきちんと売れるのではないだろうか。

もちろんこれがそれだけ、つまりよくできたマス・プロダクトだというだけなら僕はわざわざ買わないしこんなところでレビューしたりもしない。これだけ産業ロックに近いところにいながら、そして現実にメガ・セールス・バンドでありながら、シンプリー・レッドを聴くということはたとえばマライア・キャリーやホイットニー・ヒューストンを聴くということとは質的に違う。それを決定づけているのはおそらくミック・ハックネルが抱えたある種の過剰さだ。

ウェル・プロデュースされたコンテンポラリー・ソウルに乗せて流れてくるミック・ハックネルのボーカルだけが荒々しく、生々しく違和感を放っている。以前にも書いたがそれは白人である彼が黒人以上に黒人音楽を愛したいという過剰な思い入れに他ならない。だが、そういう意味でいえばこのアルバムは随分食い足りない。ミック・ハックネルのボーカルが自在に跳ねまわるための十分なグラウンドを提供できていないような気がする。もっと黒っぽく、もっと生っぽくていい。5点。


FIRE & SKILL - THE SONGS OF THE JAM V.A.

ザ・ジャムの曲を11組のアーティストがカバーしたトリビュートである。オアシスのギャラガー兄弟がそれぞれ別の曲をカバーしている他、オーシャン・カラー・シーンのスティーブ・クレイドックやビースティ・ボーイズ(チボ・マットの羽鳥ミホがゲスト参加)、リーフ、ジーン、シルバーサン、ガービッジなどが名を連ね、おまけにポール・ウェラー自身によるシークレット・トラックまであるという豪華版である。これは買っておいて損のないCDでしょう。

で、肝心のカバーの出来の方だが、なんといっても元の曲がいいのでどうやったってそれなりに聴けてしまうというのが正直なところ。リーフの「That's Entertainment」は面白いし(店頭で聴いてスーパーグラスかと思った)、初期のオアシスのシングルのカップリング曲みたいなギャラガー兄の弾き語りもいい。ザ・ジャムを知らないひとが聴いたらこれは兄のオリジナルだと思うだろう。しかし、なんといってもこのアルバムの圧巻はEBTGの「English Rose」だ。

ほとんどベン・ワットのギター1本に乗せて切々と歌い上げるトレイシー・ソーンのボーカルは、このバンドがどこから来たのかということをあらためて明らかにするだけの力を持ち続けている。トレイシー・ソーンが歌うとき、この曲はまるで初めから彼女のために書かれたかのようにすら思えるほどだ。この緊張感、この潔癖さこそポール・ウェラーがザ・ジャムで探し続けたもの。カバーするというのはこういうことだという見本のようなトラックである。採点対象外だが必携。


TILT The Lightening Seeds

エコバニ、ペイル・ファウンテンズなど数々の名バンドのプロデューサーをつとめたイアン・ブローディのソロ・プロジェクト、ライトニング・シーズの新作である。そういう流れから行くとカッコいいギター・ポップでも悪くなさそうな気はするんだがさにあらず、彼がこのプロジェクトでやり続けているのはエレクトリック・ポップとでも言おうか、実にファンシーでキラキラしたポップ・マジックみたいなものを、長年の手管で聴かせるのである。

しかし、この見事なまでの箱庭感はいったい何なんだ。いったい今は西暦何年なんだと思わせる、同時代性も批評性もまったくない、何の脈絡もない自己完結したポップ。しかもそれは買う前から分かっていて、聴いてみるとやっぱりそうだったという進歩のなさ。職人芸としてはかなり洗練されたものがあるが、この人にとって切実なポップというのはこれなのか。執拗に同じレコードを作り続けるところをみるとそうなのだろう。恐ろしい。

一度MTVでライトニング・シーズのライブを見たことがある。CDではほとんど聞こえてこないギター・パートを核に、シーケンサーのピコピコもほどよく配されたアレンジの中で、ギターをぶら下げて歌うおたく顔のイアン・ブローディはしかしカッコよかった。それがアルバムになるとどうしてこんなに過剰なまでのシュガー・コーティングを施してしまうのか。曲はいいのにもったいない。もっと直接性が欲しい。5点。


PREMIERS SYMPTOMES Air
GIRLS! GIRLS! GIRLS! Elvis Costello
THE COMPLETE ADVENTURES The Style Council
MUTATIONS Beck
ODELAY Beck




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