silverboy club presents disc review
my shopping bag july 1999




STEREO TYPE A Cibo Matto

こっちに住んでて思うことは日本人の女の子って結構みんなたくましいんだなってこと。いろんな事情や考えから日本を飛び出してこっちの日系企業で現地採用の事務職なんかしながらそれなりに生活を楽しんでたりして、それはもちろん日本で彼女たちのために用意された物語が例えば同年代の男の子に比べても格段に曖昧で不安定で魅力に欠けるものだからだし、彼女たちだってそれなりのリスク・テイクをして胃が痛くなるほど悩んでたりもするんだろうけど。

でも彼女たちのフットワークのよさ、ある意味でのオプティミズム、自由さを僕は時としてうらやましいと思う。危なげだし、今はよくても将来どうすんのよって感じもするし、オマエそれは日本人として恥ずかしいよ日本の普通の社会じゃ通用しないよってときもあるけど、それでもともかく自分の意志で飛行機に乗っちゃう行動力やなんとか外国で生きのびている生活力には一定の敬意を払わざるを得ない。こっちの人と結婚して幸福な家庭を築いてる女性もいるしね。

そんなことをふと考えてしまったチボ・マットのセカンド。コンテンポラリーなファンクをベースにしながらも雑食性のたくましさでタフに仕上がった快作。ショーン・レノンもメンバーとしてクレジットされている。宇多田ヒカルで騒いでる暇があったらこっちを聴いたらどうか。ピチカート・ファイブやコーネリアスとは違って木馬のお腹に潜んで敵の門の中に入りこむトロイの木馬のような海外進出とでも言えばいいか。本田ユカの作曲家としての才能にも注目すべき。7点の松。


THE FIDELITY WARS Hefner

例えば16歳の頃に戻ってみたいと思うことはあるだろうか。僕はない。いや、もちろん漠然とあの頃は楽しかったよなあなんて思うことはあるけども、でも実際もう一度16歳に戻してやろうかと言われたら僕はきっぱりと断る。まあ、僕はいつでも今の自分が自分の最先端だと思っているから、16歳といわず22歳でも30歳でもともかく戻してくれとは基本的に思わないんだが、特にあの気恥ずかしい、青臭い、みっともなく情けない時代に戻ろうとは絶対に思わない。

や、それは僕があの時代を嫌いだとか思い出したくもないということではもちろんない。それは僕の輝かしい時代であり、そこで起こったことの個々についてさまざまな思いはあっても全体として僕はそれを肯定する。それは当たり前のことだ。だがあの思い出すだけでも赤面してしまう若気の至りをもう一度生きろと言われたらそれは勘弁してくれと答えるしかない。だからあの頃に帰りたいなんて言う人がいたら、その人はきちんと成長し損ねた人なんだろうなと思うことにしているのだ。

大滝詠一の「我が心のピンボール」はそんな微妙な心の動きを看破した名作だが(作詞は松本隆。「思い出せば苦笑い」と言いながら「心がカタカタ泣いてるよ」と閉じるところが秀逸)、ヘフナーのこの新譜も青春をテーマにしながら、それをいたずらに美化したり記号化することなく、みっともなく情けない時期の、それだからこそかけがえのない個別性、記名性を丹念に拾い上げる。歌詞が分からなくてどうしてそんなことが分かるかって? そんなの音聴けば分かるじゃん。8点。


LEISURE NOISE Gay Dad

いやあ、もう、バンド名だけで10点つけたくなっちゃうね。この「ゲイ・ダッド」というそれ自体語義矛盾でさえあるかのような名前にこめられた渾身の悪意。それはおそらくゲイを取り巻くごく一般的な差別意識を嗤うだけでなく、逆にゲイに理解があるスタンスを気取るスノッブや、ゲイ自身の中にあるだろう逆説的な選民意識、特権意識をも軽々と笑い飛ばしているのだ。それは「ゲイ」という単語を「ダッド」とくっつけた瞬間に、もう笑うしかないおかしみがこみ上げてくることを見越した確信犯的な所為以外にあり得ない。

そうしたすべての対立をいきなり無化してしまう強力な底意地の悪さ、圧倒的な確信と絶望、しかし、このアルバムはそういう意味ではあまりにまともだ。繰り出されるあまりにオーソドックスで正攻法の「歌」「歌」そしてまた「歌」。だがそれは、彼らの音楽的センスがそのバンドの「名付け」に比べて稚拙なまでに凡庸であるということを意味しない。その「ゲイ・ダッド」という名前自体が革新的に批評的であるように、このアルバムのスタイルそのものが新人としての彼らの批評性なのだ。

女にフラれたくらいで簡単に「心情吐露型ゴスペル」や「自己破壊型アバンギャルド」に走ってしまったどこかのバンドと違って、このバンドには今なぜこの音をやるのかという明快な自覚と時代意識、目的意識がある。すべてのポップが奏でられ終わったかのような殺伐としたシーンで、それでもなお歌われなかったいちばん大切な「歌」がまだ残されていたことを彼らはだれよりもよく知っているのだろう。OK、僕はこのバンドの覚醒したリリシズムにつきあいたい。内容的には7点の松だがバンド名も勘案して8点の梅。


TIGERMILK Belle And Sebastian
IN UTERO Nirvana




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