silverboy club presents disc review
my shopping bag june 1999




THE MAGICAL WORLD OF THE STRANDS Michael Head

ペイル・ファウンテンズのマイケル・ヘッドが1997年に発表したアルバムである。ペイル・ファウンテンズを解散してから、マイケル・ヘッドはシャック名義で1988年にゲットー・レーベルから「Zilch」というアルバムをリリース、その後91年にレコーディングされた「Waterpistol」はおクラ入りして95年にマリナ・レーベルからようやくリリースされた。このアルバムはその次に来るマテリアルだが、リリースしたメガフォン・レーベルというのはフランスのインディらしい。

何にしてもこれらのアイテムは入手が難しく、マリナからリリースされている「Waterpistol」はまだしも、「Zilch」のCDを僕はいまだに探し続けているし、このアルバムだってこないだロンドンに行ったときにバージン・メガストアでまさかと思いながら習慣的に「SH」の辺りの棚を探したら「シャック」のついたてがあり、「なぬ?」と思って見るとこのアルバムだけが4枚くらい放り込まれてたのである。僕がそのままレジに直行したことは言うまでもない。

それがあなた、6月19日付のNMEに、シャックの新譜のレビューが出てるじゃありませんか。僕は一瞬我が目を疑ったね。マイケル・ヘッドはもうドラッグで終わってると言われていたらしい。それが新譜だよ、新譜。で、図らずもその前哨戦として聴くことになったこのアルバムだが、どうでしょう、マイケル・ヘッドの端正なメロディは健在、サウンド・プロダクションの手際も鮮やかで、いいアルバム聴いたなあという実感が残ることは確実だが地味は地味。8点をつけて新譜の到着を待ちたい。


LOOKING FOR A DAY IN THE NIGHT The Lilac Time

ライラック・タイムの現場復帰第1作である。何年ぶりだったか確認するために旧譜のCDを出してこようと思ったら、日本に置いてきてしまったのだった。資料によれば91年の「アストロノーツ」以来のアルバムだそうだから、もしそうなら8年ぶりか。ご苦労様。なんだかんだ言っても確か日本にはこれまで発売したアルバム全部揃ってるはずだぞ。それなのに音楽的な印象が薄いのはなぜかなあ。アンディ・パートリッジがプロデュースした曲ぐらいしか覚えてないんだよな、これが。

本作もかつて彼らが得意とした(と言うかこれしかなかった)静謐なアコースティック・ワールドが展開されている。一部には彼らをネオアコの文脈で語ろうとする人もあるが、それは明確に違う。彼らにはネオアコを特徴づけていた決然たる少年期の潔癖さへの傾きとか音色のアコースティックさの背後にあるビートの性急さといったものをまったく欠いた単純なアコースティックだったし、年代的にもそうした一連の動きとリンクしていた訳ではなかった。

だから彼らの音楽は美しくてもそれ以上のものを僕たちに訴えかけてはこない。見事なアコースティック・ポップに、エスニックなインストをはさむなど技はそれなりに効いているし、日曜日の午後にゆっくり聴くと気持ちよく眠りに誘われる良質な音楽ではあるが、そこにはこの音楽の良質さを何かとコミットさせようというロック的なモメントはまったくない。それが僕がこのバンド(というかスティーブン・ダフィ)を愛でながらも入れ込めない理由でそれはこれまでと同じ。7点はちょっと無理。6点の松。


MONA LISA OVERDRIVE Trashmonk

ドリーム・アカデミーのニック・レアード=クルーズのソロ・プロジェクトである。長い沈黙の後にリリースされたアルバムで、かつてのエレクトロ・アコースティック・ポップとでもいった作風から、本作ではアコースティックな色彩を生かしながらも実験性を備えた今日的な意匠の音楽を聴かせる。きちんと作り込んだ端正な作品だし、起伏もあり、東洋的なモチーフを織り込んだインストなども交えて見晴らしのいい箱庭のような出来。雌伏の日々を経て再起を期す意気込みは十分伝わってくる。

だけど、僕はドリーム・アカデミーの頃からこの人にはどうも二流のイメージを払拭できないでいた。アコースティック楽器を巧みに配した流麗なオーケストレーションで美しいメロディを聴かせるというバンドにはプリファブ・スプラウトがいるが、プリファブがその音楽の美しさそのものを一種のコミュニケーションにまで昇華させていたことと比べると、ドリーム・アカデミーは結局最初から最後まで何となく美しいという「雰囲気」だけ。で、どうなのよ、という不完全燃焼感がいつも残った。

このアルバムも、もったいぶったSEから始まる導入部を聴いた途端、あ、こいつまた「雰囲気」路線だなとすぐ分かる。曲そのものは決して悪くないが、それを美しいアレンジとか実験的なサウンドとか耳新しいサンプルとかSEとかで幾重にも幾重にも包むうちに、アルバム全体にもやがかかったようになって聴き手の核にまでダイレクトに切り込む力を完全に失っている。こうせずにはいられないのがこの人だとは分かっていても、もっとジャカジャ〜ンとやってみろと言いたくなる。5点はかわいそうなので6点の梅。


ILLUMINATI The Pastels




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