silverboy club presents disc review
my shopping bag april 1999




DOMINO Squeeze

僕が本当に一番好きなスクィーズのアルバムは実は「バビロン・アンド・オン」なんだけど、ずっと昔にアナログで買っちゃったからこれだけCDが手許にないんだよね。そういうのって結構多くて、最近の新譜はCDであるのに、一番気に入ってるアルバムだけが古いカセットしかないとか。もちろんCDで買おうと思って探してるんだけどなかなか見つからなくて、だから僕は長い間スクィーズの原体験から遠ざかっている訳だ。

で、今作はA&Mを離れて3年ぶりに世に問う移籍第一弾。メンバーはまたもや入れ替わり、もはやスクィーズとはディフォード&ティルブルックのことだと開き直った感じで、ポップとしか言いようのない曲が並んでいる。腕のいい職人みたいだ。でも、僕としてはあの「バビロン・アンド・オン」の小気味よいパワー・ポップを期待し続けてこれまでずっとつきあい続けてきた訳で、そういう意味ではちょっと曲がこもり気味というか抜けが弱いんじゃないかと思う。

むしろ彼らとしてはこういうちょっと陰影のある曲の方が得意なんだろうし、それとて文句のつけようのないクォリティを誇っている訳で、買ってもまったく惜しくないアルバムではあるんだけど、逆に「これは今回はちょっと大変なことになってるぞ」という新鮮な驚きはない。最近聴いてないのでほとんど幻の原体験と化してきた「バビロン・アンド・オン」がますます恋しくなった。余談だけど野球のスクイズと単語は同じ。聴いて損なし。7点です。


MULE VARIATIONS Tom Waits

今これを書こうとしてトム・ウェイツの「レイン・ドッグス」のレビューを読み返してみたら、自分で言うのも何だがこれが結構よく書けていてもう書くことがなくなっちゃったよ。ははは。という訳にも行かないので今作だが、期待以上のできでいずれにしても言うことないんだよな、やっぱり。あまりにトム・ウェイツ。久しぶりに音楽を聴いて心が洗われる思いがした。これはもうワン・アンド・オンリーの「芸」の世界。

アイランドからエピタフに移って5年ぶりの新作。僕は何を隠そう生まれて初めて買った洋楽のアルバムがトム・ウェイツの「レイン・ドッグス」だったというのが自慢なのだが、今作はその「レイン・ドッグス」と比肩されるべき傑作だ。都会に住む者にしか分かり得ない本質的な孤独、それを足場に自分というものを自分で形作って行く作業のタフさ、そうしたものを時に異形のアバンギャルドで、時に泣けるようなピアノで歌うしわがれ声のバランスが絶妙。

収録曲の多くは嫁さんであるキャスリーン・ブレナンとの共作でプロデュースも共同名義、ギターをマーク・リボーが担当している。ブルースやロック、バラードやフォークなどともかく何でも引っ張ってきて解体し、すべてをあの声でトム・ウェイツ印に仕立ててしまう磁場の強さは尋常じゃない。初めての人はとっつきにくいかもしれないが、イヤなら聴かなくていい。分からない人に説明して分かってもらおうとは思わない、そういうアルバム。9点。


THE YOUNG PICNICKERS The Pearlfishers

ドイツが誇るマリナ・レーベル。このレーベルは日本ではおそらくペイル・ファウンテンズやジョセフ・Kのレア・トラックスを発掘したり、ペイル・ファウンテンズのマイケル・ヘッドがファウンテンズ解散後に結成したシャックの幻のアルバムをリリースしたりする謎のネオアコ系レーベルとして認知されているのだろうが(いずれにしてもごく限られた人にだが)、そのレーベルが擁するパールフィッシャーズの僕が知る限り2枚目のアルバムである。

僕がクリエーションに次いでレーベル買いしてしまうマリナだが、このパールフィッシャーズはそんな期待というか思い入れを決して裏切らない爽やかとしか形容のしようのないアコースティック・ポップ・バンド。いとこの来る日、自転車、新しい靴、バッジのついたアノラック、夜ふかし、天体望遠鏡、芝生、冷たいオレンジ・ジュース。そんな手つかずの夏休みの遠い憧れみたいなものがまるで奇跡みたいに今ここにある。この無防備さは知らずに身についた大人としてのバランス感覚のようなものを狂わせて結構ヤバい。

人が発狂するとき、あるいは人が死ぬとき、その直前に見るビジョンは、例えばこんな懐かしい、でも本当はどこにも存在しなかったイメージとしての夏休みだったりするのではないか。こんな美しく、静かで破綻のない音楽が、実は最もアナーキーで死に近いというパラドックス。僕たちをなぐさめるよりは心の深いところ、無理矢理眠らせてしまった部分を泡立たせるこの危険さこそネオ・アコースティックの真髄。8点に近い7点。ティーンエイジ・ファンクラブのノーマン・ブレイクがコーラスで参加。


REVOLT 3 Colors Red

アラン・マッギー一押しのスリー・カラーズ・レッドだが、僕はどういう訳かデビュー・アルバムには手が出ず、セカンドになるこのアルバムで初めて彼らの音楽を聴いた。ジーザス&メリー・チェインがついに解散し、ブー・ラドリーズも解散し、ベルベット・クラッシュはレーベルを離れた。マイ・ブラディ・バレンタインももはやクリエーションにはいない。そんな中で、彼らはオアシス、プライマル・スクリームと並んで2000年代のクリエーションの顔になり得るのだろうか。

ここで聴けるのは王道のギター・ロックである。曲調にはきちんとメリハリがついているし、グランジ以後を感じさせる金属的なノイズが英ギター・ロックのこれからを予感させる。申し分のないまとまり具合ではある。でも、クリエーションってこんなに破綻のない優等生をデビューさせるためにあるレーベルなのだろうか。システム化したメジャー・レーベルではリスキー過ぎて抱え込めないような特徴のあるバンドを丹念に発掘し、市場を掘り起こして一発当て、メジャーに一泡吹かせるのがアラン・マッギーの生き甲斐なんじゃないの?

オアシスですらそのたたずまいにはクリエーションでなければ引き受けられないような種類の過剰さがあった。このバンドには酷な話だが、僕としてはどうもクリエーションのアーティストだという愛着のようなものが持てないな。あるいは、今、このような王道ロックこそクリエーションが掘り起こさねばならない困難な市場になりつつあるということなのだろうか。アルバム自体のできは悪くないし、今後の動きをフォローしておきたいバンドの一つだが、どうも存在感が薄いんだよな。6点では可哀想なので7点はあげておきたい。


花鳥風月 スピッツ

スピッツのアルバム未収録曲ベスト。今やとてつもない高値を呼んでいるらしいインディーズ盤からの2曲を始め、シングルのB面、アウト・テイク、そしてパフィーに提供した曲の新録など美味しい内容が盛りだくさんのお買い得盤である。新録の2曲は白井良明のアレンジ、プロデュースだが、特にパフィーでヒットした「愛のしるし」はもともと曲がいい上にベスト向けの新録という制約の少なさや既に知られた曲であることのメリットを生かした絶妙の仕上がり。

10年ぶりに日の目を見た「おっぱい」も涙ものだが(あの時買っときゃよかったんだよなあ)、やはりこれだけのクォリティの曲がこれまで無造作にB面に突っ込まれてきたことが驚き。「旅人」「コスモス」「猫になりたい」など僕がこれまで宝物のように聴き続けてきた曲が大きくフィーチャーされてしまうのはちょっと寂しい気もするけれど、やっぱり「猫になりたい」はきちんと発表されて愛されるべき曲だから仕方ないか。

その「猫になりたい」の「目を閉じて浮かべた密やかな逃げ場所は/シチリアの浜辺の絵ハガキとよく似てた」はマサムネの詩の中でもベストに近いライン。最初から最後まで文句のつけようのないできで、やはり会心の「青い車」とのカップリングは今思えば奇跡のような組み合わせだった。きちんとスピッツを聴いてきた人には非常に良心的な企画だが、これからスピッツを本格的に聴きたいという人はここから入ってはいけません。ベストにつき採点対象外。


BEAT SYMPHONY The Collectors

ザ・コレクターズ11枚目のアルバム。ブレイク寸前とか実力派中堅バンドなんて言われ続けてもう何年たつだろう。初期の闇雲さが陰をひそめた7、8枚目辺りから僕個人的には印象の薄いアルバムが続いていたが、それはつまりこのバンドの生命線ともいうべき直接性や過剰さがうまくアルバムに定着できなかったからだと思う。バンドの成長を意識するあまり楽曲の完成度やアルバムのトータリティに目を奪われ、その核になる表現衝動の本質への眼差しが曖昧になっていたのではないか。

ザ・コレクターズというバンドの本質が加藤ひさしの過剰さにあることは間違いない。音域いっぱいで白目をむいて歌う加藤ひさしの存在の「行き過ぎ感」、青春のルサンチマンをこれでもかとたたきつける「限度を超えてる感じ」や「どこまでやるつもりなのか分からない怖さ」といったものこそが彼らを凡百のビート・バンドからぬきんでた存在にしていたのだとすれば、こぎれいでポップにまとまったザ・コレクターズなんてものが単なる語義矛盾に過ぎないことは明らかだ。

で、今作では、ライブでは健在のそうした彼らの過剰さがかなりの程度レコードにも戻ってきていると評していいと思う。曲調はバラエティに富んでいるが、作りこみすぎず、演奏の勢いを生かしたプロデュースは悪くない。「QUIET HAPPY...」は涙が出る。だが、肝心の曲そのものがまだ凝りすぎ。もっとプリミティブでいい、もっと裏声でいい、もっと白目でいい、初めて聴いた人間が思わず引いてしまうくらい直接的で過剰なビートとメロディの魔法を加藤ひさしはもっと自信を持ってたたきつけるべきだ。7点。



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