logo 99年2・3月の買い物


13 Blur

各方面で絶賛を浴びているブラーの新譜である。ドイツ版「ローリング・ストーン」誌までが異例の5つ星つまり満点をつけている。端整なポップ・チューンを捨て去り、内面の葛藤をそのまま吐露したかのようなヘビーでノイジーなサイケデリック・サウンドを延々と70分間にわたって繰り広げるこの混沌としたアルバムを、「ロッキング・オン」誌では「ロックを奪還」したものだと評価しているのだ。

でもなあ、内面の葛藤を吐露と言い、生の断片と言い、一人の人間の赤裸々な苦悩と言い、それって結局デーモンがジャスティーンにフラれたっていうことでしょ? そりゃ赤裸々な苦悩には違いないだろうけど、それだけでアルバムの方向性がここまで大胆に転換してしまうというのはちょっと本当にそれでいいんですかという感じ。じゃ、そこにおけるデーモンの時代と切り結ぶ意志とはいったい何? このアルバムの現代性とはいったい何? 要はデーモンの世界観がジャスティーンにフラれることでここまで劇的に変わっちゃうような程度のものだったってこと?

もちろんアーティストの個人的な問題が作品に有形無形の影響を与えること自体は珍しくもないし、彼の気持ちは分からなくもない(いや、よく分かる気がする)。でもこれは職業として制作し、発表し、相応の対価を取って販売するプロとしての作品だろう。そんなところに自分の個人的な女性関係の事情をドロドロぶち込まれても困る。ノエルならいくら嫁さんと別れても絶対にこんなアルバム作らない。そこには自分の音楽に対する確信と責任の自覚があるからだ。高尚ぶったアバンギャルド・アルバムを作るより、ここで敢えてポップのフィールドにとどまることの方が才能も勇気も必要だったはず。正直言って退屈。「COFFEE & TV」みたいな曲も作れるのに。5点。


APPLE VENUS VOLUME 1 XTC

長年在籍したバージンを離れ自ら設立したアイデア・レーベル第一作となる7年ぶりの新作である。で、その7年で何が変わったかというと要は何も変わっていない訳だ。皮肉屋の偏屈オヤジはまたしても同じ手口で、しかしやはり見事に7年分の期待に応えて見せた。まるで当たり前のように「次」を作ることで、7年という時間が決して空白としてあるのではなく、その間も世界は、そしてXTCという宇宙はきちんと続いていたということをアンディ・パートリッジは示した。

秋にリリース予定の「エレクトリック編」となる「VOLUME 2」と対をなすというふれこみで、本作ではアコースティックな曲ばかり11曲を収録。静かだが決して緩くない張りつめた緊張感が続いて行く。アンディ・パートリッジの手癖は相変わらずで、それはつまり独特のひねくれた節回しの中に僕たちの耳を捉えずにはおかない快感をしのばせる手管が健在だということ。「スカイラーキング」を思わせる鮮やかなポップが随所に顔をのぞかせる。

おそらく世界が続いて行く限り、アンディ・パートリッジはこんなポップを作り続けて行くのだろう。ステージを降り、メジャー・レーベルを離れ、メンバーを切り、「ロック的なるもの」からどんどん遠ざかりながら、密室で自分の内側に潜む刃のような才能と向かい合ってひたすらそれを先鋭化すること。それこそがアンディ・パートリッジにとっての「ロック」に他ならないからであり、彼の復讐であるからだ。8点。


PEASANTS, PIGS & ASTRONAUTS Kula-Shaker

こちらは3年ぶりの第2作になるクーラ・シェイカー。先祖帰りしたかのような60〜70年代テイストのサイケデリック、それもインド系というまったく脈絡を欠いた突出のしかたが話題を呼んだデビュー作に比べると、クリスピアン・ミルズの右翼・ナチ騒動や何度かの発売延期を経てリリースされた今作では、そうした特異性をもはや動かし難いクーラ・シェイカーの個性として主張しながら、結構すんなりと自身の位置をシーンの中に確保できたような気がする。

僕は彼らがこうした音楽を通じて訴えかけようとする深遠な主張にはまったく主体的な興味がない訳で、もちろんインド文化プロパーにも何か思うところがあるはずもない。ただ、60〜70年代にロックが発見したインド・サイケのエッセンスを、極めて今日的なロック・グルーブの中に再構築して行こうとする彼らの手法の面白さと、そこから他のバンドにはない独自のドライブ感を獲得して行くバンドとしての力の確かさを評価したいと思うだけだ。

今作でもそのインド趣味は全開だが、それがきちんとロックの文脈に翻訳されているために、ありがちな収奪性を感じさせない。所詮東洋かぶれのイギリス人の思想に見るべきものがあるはずもなく、そんな能書きよりこのグルーブの直接性の方をこそ僕たちは信用するべきだしクーラ・シェイカーはそのように論じられるべきだ。だって例えばショーン・ライダーやボビー・ギレスピーの思想性を論じるバカはいない訳で。純粋にグルーブとして優秀。8点。


XO Elliott Smith

これはすごく私的な音楽。不細工で冴えない男が一人テレコに向かってささやき続けた物語だ。だがそれがそうした私的な場所に自閉することなく、世界と向かい合う場所へと迎え入れられたのは、彼がそこから紡ぎだしたメロディが彼自身の私的な物語を超える普遍性を備えていたからであり、それが彼の私的な物語を世界に届けたのだ。だから彼の音楽は限りなく私的なのにそこに閉じこもらず、古い友達の手紙のように僕たちのもとに届いたのだ。

これまで地元のインディー・レーベルから3枚のソロ・アルバムをリリースしていたが、今作が初めてのメジャー配給。大半の曲はバンド・アレンジで、ストリングス、ホーンも導入したサウンド・プロダクションではあるが、アレンジは抑制的で彼の持つシンガー・ソングライター的な持ち味が過不足なく生かされている。淡々と続いて行くグッド・メロディとグッド・ソングの中に、このエリオット・スミスという人の生が見えてくるかのようだ。

コンテンポラリーなロック表現の前線があちこちの方面に拡張している現代において、それでもこうして語られた私的な音楽が聴く者の深いところを揺さぶることがあるということ、いや、それこそが音楽から立ち上がる感動の根源であるということを思い出させるアルバム。僕自身としてはちょっと守備範囲が違うので点は付けたくないが、繰り返して聴くに足る作品である。


IF YOU'RE FEELING SINISTER Belle & Sebastian

TRANSISTOR BLAST XTC




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