logo 98年10月の買い物


THE NORTH STAR Roddy Frame

ロディ・フレームが初めてソロ名義で発表したアルバム。アズテック・カメラは初期を除いて最近ではずっとロディ・フレームのソロ・プロジェクトだったから、やっていること自体は変わらないはずだが、それでも名義を変え、レーベルを変えて発表したこの作品には彼の何らかの決意とか思い入れがこめられているはずだ。そんな期待と最近のアルバムの煮えきらなさを思う不安がミックスされた状態でこのアルバムを聴いた

正直に言おう。僕は泣いた。このアルバムを聴いて僕は泣いた。そこにはあまりに無防備で痛々しい生身のロディ・フレームがいた。「LOVE」からこっちの何枚かのアルバムがまるで幻だったかのような、くっきりと鮮やかなメロディとギター、音楽に対する愛情と信頼があった。だが僕が泣いたのはそれらのためではない。彼がここにたどり着くまでに費やさなければならなかった長い時間と、その間に損なわれ、失われてしまったもののために僕は泣いたのだ。

これは僕がずっとアズテック・カメラに期待していたアルバムだ。「KNIFE」の次に発表されなければならなかったアルバムだ。だが、同時に、この作品はまた14年の歳月を経なければ作られ得なかったアルバムでもあるのだ。その間にロディ・フレームは歳をとり僕も歳をとった。今、このアルバムを前にして僕は何を語ればいいと言うのか。過ぎた日への悔恨と、それでもここから始めようという意志のために。10点。


QUENCH The Beautiful South

リズム・コンサルタントにノーマン・クックの名前が。そのせいかいつになくロックっぽい。曲調にもこれまでにないバラエティが見られ、表現の幅がグッと広がったような印象を受ける。特にベース・ラインが生き生きと自己主張しており、曲にメリハリをつけている。グルービーになったと言ってもよい。これがもしノーマン・クックの功績だとすれば、それは単にハウスマーティンズ再結成的なノスタルジーを超えた具体的な成果だと言える。

他のところにも書いたように、かつてハウスマーティンズというバンドは突っかかって来るような前のめりの特異なビート感を持つ若いバンドであった。その性急さは結局バンドの解散によってたった2枚のオリジナル・アルバムと1枚のコンピレーション・アルバムに封印されてしまった訳だが、今、ポール・ヒートン、デイブ・ヘミングウェイ、ノーマン・クックという解散時のメンバーの3人が揃って新たに作り上げたものを聴くと彼らがその間に遂げた成長がよく分かる。そして彼らがそのまま活動を続けていたらと思ってしまう。

もちろんそれは意味のない議論だし、もしそうであれば僕たちはビューティフル・サウスを聞かなかった訳なのだが。彼らの特質を損なわずにこれだけの展開が可能であるという意味でも重要なアルバムになるだろう。でもポール・ヒートンちょっと声変わってない? あと、リズム・コンサルタントっていったい何する人? 8点。


PAINTED FROM MEMORY Elvis Costello with Burt Bacharach

コステロのポリグラム移籍第1弾は御大バート・バカラックとのコラボレーション。もちろんこの組み合わせで出来が悪かろうはずはない訳だが、はっきり言ってコステロのボーカルが暑苦しすぎ。まあ、コステロにしてみれば夢の共演で力が入るのは当たり前だし、これでも随分押さえてる方なんだと思うけど、その過剰さがもはやロック的な破壊に向かわずディナー・ショー系の予定調和になりつつあるのは歓迎できない。

思えばワーナーへの移籍以来、この人の音楽遍歴には随分と無駄な買い物をさせられてきた。中でも弦楽四重奏との共演「ジュリエット・レターズ」なんかは究極のはずれだった(もっとも本人は今でもそうは思っていないに違いないのだが)。コステロを聴くということは、今やそのような玉石混淆の作品群の中に、時折ウソみたいに輝くロックの初期衝動、ロックがロックである瞬間の強さが顔をのぞかせているのを探し当てる精神修養のようなものになったと言っていい。

それでも僕はコステロを聴くだろう。はずれと分かっていながら何枚ものアルバムを買うだろう。だが、本作プロパーの話をすれば、とにかく高尚にまとまりすぎて、僕たちのみっともない日常との接点が見出せない。それがバカラックだと言ってしまえばそれまでだが、何か工夫のしようはあったのではないかと思う。5点は失礼だろうから6点。


KINGSIZE The Boo Radleys

「Wake Up Boo!」は本当によかった。もちろん曲がいい。元気がいい。力強い。分かりやすい。ポップ。これ以上言うことないっていうくらいポップだった。お手本みたいなポップだった。だけどそこにあふれているのは本当は崖っぷちのオプティミズムだ。崖っぷちに立って初めて気づいた世界の美しさなのだ。だからこそマーチン・カーは歌わざるを得なかった。「起きろよ、世界はこんなに美しかったんだ、眠ってなんかいられる訳ないだろ」と。

そのブー・ラドリーズの新譜。相変わらず曲がいい。シンプルなロックのフォーマットから、彼ら自身のロックに向かわずにはいられない衝動がきちんと伝わってくる。クリエーション・レーベルというのはもともとこういうバンドを発掘しては世に出すところだったんだよなと感慨にふけりたくなる。「Wake Up Boo!」のときのようなやみくもな性急さはないけど、確かに地に足のついた等身大のロックが息づいている。

あらためて周りを見渡してみたら世界は美しかった。少なくとも自分で勝手に思いこんでいたほど悪くはなかった。そんなふうに少しずつ何かに気づきながら毎日をロール・オーバーして行く推進力のようなもののことをブーは歌っている。そしてまたそこにおいて毎日こぼれ落ちて行くもののことも。M12が秀逸。7点。


20 MOTHERS Julian Cope

最新譜「Interpreter」に先立つ1995年に発売されたジュリアン・コープのアルバム。ディスク・レビューのコーナーでジュリアン・コープをレビューしたのに合わせて買ってみたのだが。ものの本によると「Saint Julian」の頃のポップなジュリアンが帰ってきたということで、確かに「Try Try Try」のようにおおっと思わせるポップ・チューンもあるにはあるのだが、聴き進めていくうちに妙な宇宙趣味や大仰さが気になってくる。

才能のある人なのでがんばって欲しいのだが、ジャケットの写真を見ても分かる通り今ではすっかり「変な人」になってしまった。ところどころに光るものがあり、上述のように「当たり」も潜んでいるのだが、20曲通して聴くには正直言って「しんどい」アルバムだ。本人は大真面目でコンセプトを組み立てているのだろうが、普通の人はこのアルバムと「Interpreter」から「当たり」だけ集めてテープでも編集することをお勧めする。

まあ、そうは言っても、一時期インディー発売した一部のアルバムほど無茶という訳ではない。こんなにロック・アーティストとして力のある人なのになあ。惜しいなあ、ほんと。でも僕がアイランドの社長だったらやっぱり契約切るかもしれない。過去の業績の評価と今後への期待と一部のよくできた楽曲に免じて6点。


WORLDWIDE Everything But The Girl

LOVE NOT MONEY Everything But The Girl

ENDLESS SOUL Josef K

EXTERME HONEY Elvis Costello

EDEN Everything But The Girl

BABY, THE STARS SHINE BRIGHT Everything But The Girl



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