logo 98年1月の買い物


STUPID STUPID STUPID Black Grape

さすがというか何というか、とにかくかっこいい。最盛期のハッピー・マンデーズのボーカルをバラして代わりにラップを乗せたという感じだが、とにかくロックかダンスか、白か黒か、生かサンプルかなどといった小難しい問題なんかどうでもよくなってしまう圧倒的な直接性と肉体性に基づいた快感がアルバム全体を支配している。あえて言えばこれはあくまでロックであり白人音楽だが、そんなことを考えるだけバカらしい。

こうした態度はもちろんレイブという概念(そんな概念あるのか?)の根幹をなすものであり、その辺を実感したい人は鶴見済の「すばらしいレイブ紀行」でも読んでくれ(「クイック・ジャパン」16号から18号に連載)。でも東大も出てないのに、現代社会と向かい合う観念の方向からではなく、高邁な理想も切実な問題意識もない単純な下半身的欲求だけをバネにこれだけの共通言語を獲得できるというのはやはり一つの才能としか言いようがない。

ブラック・グレープは結局解散したらしいけど、僕にとってそんなことはどうでもいい。要はショーン・ライダーが率いるプロジェクトならハッピー・マンデーズでもブラック・グレープでも何でも構わないということがはっきりしたからだ。ファースト・アルバムの方がストレートだったような気もするが、本作もかっこよく景気よく踊れるものの目利きとしてのショーン・ライダーはどこまでも不滅と感じさせるタフなアルバムに仕上がった。8点。


STRANGELOVE Strangelove

正直に書くが、僕はこの人たちが何者かまったく知らない。どれくらいのキャリアを持つ人たちで本国ではどんな評価を受けているのか、これまでにどんな作品を発表しているのか、どのような音楽的文脈に連なる人たちなのか、そうした予備知識は一切ない。僕は毎週NMEを読んでいるし(流し読みのときもあるけど)、「ロッキング・オン」も「クロスビート」も毎月日本から取り寄せているけど、彼らの名前を目にすることはほとんどまったくないと言っていい。

ブラーと同じフード・レーベルからリリースされた97年発表のアルバム。98年の正月にロンドンへ1泊で紅茶の買い出しにいったときに、ピカデリーのタワー・レコードで見つけて買ったアルバムだが、結論としては悪くない。妙にドラマチックな曲調を、オーソドックスなサウンド・プロダクションできちんと支えて行く手際はなかなかのもので、通して聴いても破綻を感じさせないポップとしてのバランスの良さは評価できる。

もちろん、それならブラーを聴いていればいいじゃないかという話もある訳だが、そうした陰口を封じるにはやはりアルバムの核となるこれという名曲が欲しいところ。ラジオから流れてきた瞬間にそれまでやっていた作業の手を止めて、「これ、だれ?」と聞き入ってしまうような美しい、文句のつけようのない1曲。それは両刃の剣ではあるが、残って行くバンドの多くはそうした決め球を持っているものだ。要フォロー。7点。


ECHO DEK Primal Scream

プライマル・スクリームのアルバム「バニシング・ポイント」のダブ・アルバム。まあ、もうボビーがダブをやってしまえばそれだけでカッコいいという判断停止的な情況としての「合格」感は確かにあるが、僕個人としてやはりダブだのリミックスの類は聴いて楽しめない。本当は近所迷惑な大音量で聴いてみるべきなんだろうが、かえって日曜日の午後かなんかに、音量を絞って聴きながら本でも読んでる方が使えるかもしれない。

もちろん音楽を作っている側にしてみれば、自分がいったん作り上げたアルバムが再び解体され、そこから別の、しかしあくまでもとのアルバムとの関係を保った新しい可能性が紡ぎ出されるという作業はある種スリリングでクリエイティブな悦びをもたらすものかもしれない。しかし僕のようにお部屋でドラッグもなく真面目にアルバムを聴いているリスナーにはそういうアーティスト・エゴにつき合わされるのはいかにもしんどい。

そういう訳で、申し訳ないがやっぱりこういうのは僕はダメ。でも、初めからこういうアルバムだと分かっていても、それがプライマル・スクリームの作品であるということだけで買わせてしまうボビー・ギレスピーのアーティストとしての存在感は否定のしようもない。他のアーティストならとっくにあきらめてしまうところだが、プライマルズなら何か見えるまでもう一回みようかなという気になってしまうのが弱いところ。批評になってないが、ま、いいや、採点対象外ということで。


FRANKS WILD YEARS Tom Waits

HERE'S SOME THAT GOT AWAY The Style Council



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