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URBAN HYMNS The Verve

ヴァーヴをきちんと聴いたのはこれが初めてだが、リチャード・アシュクロフトというのがこんなにきちんとしたメロディを書ける男だとは知らなかった。少しばかり大仰でストリングスなんかも入ってメロウ過ぎる感は否めないが、堂々たるメロディがロックとしてのやむにやまれなさという本質的な衝動を内包しながら本当に力強く鳴っている。そしてそれが単なる「曲」ではなく「うた」としての力を獲得している。

ロック的な衝動がメロディの助けを得て歌として結実して行くさま、そのダイナミズムを僕たちはビートルズ以来何度も目にしてきた。そしてブリット・ポップというムーブメント(あえてそれをムーブメントと呼ぶのなら、だが)は、例えばダンス・ビートやらフィードバック・ノイズやらサンプルやらの直接性や暴力性や観念性によってロックを活性化しようとする動きに対して、そうしたある意味でより卑近なダイナミズムをロック表現の中心軸に取り戻そうとする目論見だったと評していいだろう。

そうしたブリット・ポップのブーム化の中で、逆に、ロック的な初期衝動を欠いた単なる「メロディに泣き入ってます」系のバンドがもてはやされてきた部分もあった。しかし、不遇の時代(その時代のことはよく知らないんだが)を経てきたヴァーヴが、今、こうした感動的な「うた」をひっさげて戻ってきたということは、そうしたダイナミズムが決してブームとしてではなく、ロック表現の本質的な属性の一つとしてあらためて認知された証かもしれない。もうちょっとガツンという曲も欲しかったところだがぜいたくは言うまい。8点に近い7点。


ILLUMINATION The Pastels

パステルズの「新譜」と聞いて耳を疑ったのは僕だけではあるまい。これが発売間もなくドイツでちゃんと手に入ったことも今考えると奇跡みたいなできごとであった。ドイツの一般のレコード屋ってこういうインディー系統にはまるっきり冷淡なんだから。だが、僕が手にしたのは確かにパステルズの新譜であった。この「感慨」は分かる人には分かるけど分からない人にはたぶんまったく分かってもらえないんだろうな。ともかくパステルズというのはそういう偏愛を受ける特殊なバンドだということだ。

ガレージ系のシンプルなロックン・ロールに時として陶酔するほどの甘いメロディが乗って行くのだが、あと一工程仕上げれば完成というところで無理矢理放り出したような欠落感、あるいは気狂いが丁寧に丁寧に偏執的な細かさで仕上げた美術作品が細部において常人にはなし得ない細密さを表現しているのに全体としてはどうしようもない歪みを包含していて見ているだけで何かぐるぐる目眩がして気分が悪くなるような感じ、ひとことでいえば(どこがひとことなんだよ)それがパステルズである。

このアルバムではかなり音が整理され、現代的なノイズの意匠も取り込まれているので、一聴するとパステルズも随分しっかりしちゃったんだなという印象を受ける。やんちゃぶりというか奔放さという意味では時の経過を感じてしまうということだ。しかし、パステルズが決してメイン・ストリームのバンドにはなり得ないという根拠のようなものはこのアルバムでも健在だし、それはその欠落感や歪みに他ならない。これがパステルズの心意気。7点。


HATE ROCK'N'ROLL The Jesus And Mary Chain
THE SOUND OF SPEED The Jesus And Mary Chain

前作「Stoned & Dithroned」以降に発表されたシングル曲を中心にアメリカで編集されたコンピレーションと、「Barbed Wire Kisses」以降のB面曲、レア・トラックスを集めたコンピレーション。「The Sound Of Speed」の方は日本国内盤で同名で発売されたコンピレーションとは若干曲目が異なっているので注意(両方買ったよ、結局)。

問題は「Hate Rock'n'Roll」の方で、これがとにかくカッコよすぎ。このレビューは現在のところ彼らの最新アルバムである「Munki」を聴いてそのレビューも書いた上で書いている訳だが、あのアルバムよりはるかにカッコいい。JAMCがもともと高いソング・ライティング能力を持ったロックン・ロール・バンドであるという事実と、その精神性において常に現代の虚無に向かい合ってきた先鋭さとが、突出した形で壊れたロックン・ロールに結実している。

コンピレーションだがもうどうしようもなくJAMCの作品として認めるしかないほどの完成度。「Munki」ではなくこれが最後のアルバムだったらよかった。頭の「I Hate Rock'n'Roll」からアコースティックなB面曲をはさんでラストの「The Perfect Crime」まで、まるで初めからこれしかなかったかのようなはまり具合。コンピレーションなので採点対象外だが、参考記録9点。


WILLY AND THE POORBOYS Creedence Clearwater Revival

なんでCCRかと言われても困るのだが、要は「ミッドナイト・スペシャル」が聴きたかったんだよね。映画「トワイライト・ゾーン」で効果的に使われていたあの曲。僕にとってCCRとは「雨を見たかい」でも「プラウド・メアリー」でもなく「ミッドナイト・スペシャル」なんだな、これが。

もうとにかく自分では決して住みたくないアメリカの片田舎の、汗とほこりにまみれて農作業だの工場労働だのに明け暮れるプア・ホワイト的ライフ・スタイル。だがそこから奏でられるアホみたいに「そのまま」のロックン・ロールが、今の僕にも心地よく響くのはなぜなんだろう。ある種の表現はそれが生み出された文化的背景とは無縁の人間にもなにごとかを感じさせる伝播力を持つ。もちろん、優れたロックン・ロールも。採点対象外。


MIAOW The Beautiful South

ELIGIBLE BACHELORS Monochrome Set



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