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CORAL ISLAND
The Coral
★★★★☆

Run On (2021)
RO-001-CD

■ Welcome To Coral Island
■ Lover Undiscovered
■ Change Your Mind
■ Mist On The River
■ Pavillions Of The Mind
■ Vacancy
■ My Best Friend
■ Arcade Hallucinations
■ The Game She Plays
■ Autumn Has Come
■ End Of The Pier

■ The Ghost Of Coral Island
■ Golden Age
■ Faceless Angel
■ The Great Lafayette
■ Strange Illusions
■ Take Me Back To The Summertime
■ Telepathic Waltz
■ Old Photographs
■ Watch You Disappear
■ Late Night At The Borders
■ Land Of The Lost
■ The Calico Girl
■ The Last Entertainer
3年ぶり10作目となるオリジナル・アルバム。配信で曲単位の「切り売り」が音楽流通の主流になりつつある中で、アルバムというフォーマットへのこだわりを示した2枚組のコンセプト・アルバム。曲間にナレーションをはさみながら15曲55分、リゾートであるコーラル島を舞台に、夏の賑わいを描いた1枚目「Welcomt To Coral Island」と、そこに住む者たちの冬の姿をモチーフにした2枚目「The Ghost Of Coral Island」という二部構成だ。

正直ナレーションもよく分からず、夏と冬の対比というコンセプトも知らないまま聴いていても、ツボを突いたメロディがグイグイと繰り出されてくる多幸感であっという間に終わってしまう。確かに前半の方がポップだしこっちが夏のサイドと言われるとそうかもなくらいの雑な感想はあるものの、結局はすべて曲そのものの完成度の高さに集約されて行くのが心地よい。コンセプトを明確にした分、曲の作りこみがむしろ容易になったのか。

全体の印象がどこか懐かしく、ノスタルジックに聞こえるのは、曲調やアレンジがレトロスペクティブだからというだけではなく、アルバム全体がこの2021年の不安に閉塞した世界とは別の、どこかにあり得たかもしれない世界線を提示しているからで、僕たちが「コロナ前の世界」を「もう戻ってこないかもしれない」と感じていることと通じているのかもしれない。ポップ・ソングで世界のありようを露わにする力のあるバンドは他にない。




HALF DRUNK UNDER A FULL MOON
The Fratellis
★★☆

Cooking Vinyl (2021)
COOKCD767

■ Half Drunk Under A Full Moon
■ Need A Little Love
■ Lay Your Body Down
■ The Last Songbird
■ Strangers In The Street
■ Living In The Dark
■ Action Replay
■ Six Days In June
■ Oh Roxy!
■ Hello Stranger
前作から3年のインターバルでリリースされた通算6枚目のオリジナル・アルバム。一時活動を休止し、フロント・マンのジョン・フラテリはソロ・アルバムやサイド・プロジェクトであるコデイン・ヴェルヴェット・クラブなどの活動を行っていたが、活動再開後は比較的短いインターバルで作品を発表し続けている。デビュー以来そうした関連音源までマメに押さえながらつきあってきたが、今作は正直言ってちょっと聴くのがしんどかった。

デビュー直後にブレイクした時はそのストレートでスピード感のある3ピースのロックンロールが評価された訳だが、その時ですら彼らのソングライティングの確かさは際立っていたし、そのポピュラー・ミュージックの歴史を正統に継承した音楽的背景の豊かさは、その後のジョン・フラテリの一連のソロ・プロジェクトでも十分窺い知れた。そして本作はまさにそうした音楽そのものの充実を中心に組み立てられており、レベルは十分高い。

しかし、大々的に導入されたストリングスやブラスのオーケストレーション、分厚いコーラスなどのきらびやかさが彼らの音楽を支持するベクトルで作用しているかといえばそれは正直疑問である。音楽的な素養に裏打ちされながら、それをシンプルな構成で速いロックンロールとして鳴らしていたからこそ、彼らは21世紀の初めにあって聴くべき存在として認知されたのではなかったか。よくできているがあまり繰り返しては聴かない作品だ。




LOVE IS THE KING
Jeff Tweedy
★★★

dBpm (2021)
DBPM 005-20 CD

■ Love Is The King
■ Opaline
■ A Robin Or A Wren
■ Gwendolyn
■ Bad Day Lately
■ Even I Can See
■ Natural Disaster
■ Save It For Me
■ Guess Again
■ Troubled
■ Half-Asleep
ウィルコのフロントマンでありソングライターでもあるジェフ・トゥイーディのソロ・アルバム。息子のスペンサー・トゥイーディがドラムを演奏しているほかはジェフが自らギター、ベースを担当し実質ひとりで作りあげた作品だ。その事実から想像されるとおり、カントリーをベースにした静かで内省的なフォーク・ソング集になった。ウィルコのプロデューサーでもあるトム・シックが共同プロデューサーとしてクレジットされている。

コロナ禍で思うように活動ができず、家に引きこもることの多いなかで、率直な思いを曲にしたものだというが、確かにバンドのときのような実験的、挑戦的なところはほぼなく、「家ではだいたいこんな感じなんですわ」といったようなすっきりした手ざわりがよけいなフィルタを通さずに伝わってくる印象がある。しかし、だからといってこのアルバムは2020年代の世界の抱える諸問題と無関係に存在するのどかなオヤジの余芸ではない。

ひとつには、コロナ禍で多くの人が迷い、疑い、疲れ、そして傷ついている現在の世界のありようをそのまま遠景としてこのアルバム自体が作られていること。そしてもうひとつ、そうした世界のありようを前提にしながら、それにもかかわらず我々がままならぬものとこそ共に生きなければならないという強い生への欲求がここにあること。いざとなればギターだけでも曲をつむぎ歌を歌うことはできる。こうやって音楽は続いて行くのだ。




UTOPIAN ASHES
Bobby Gillespie and Jehnny Beth
★★☆

Silvertone (2021)
19439859342

■ Chase It Down
■ English Town
■ Remember We Were Lovers
■ Your Heart Will Always Be Broken
■ Stones Of Silence
■ You Don't Know What Love Is
■ Self-Crowned King Of Nothingness
■ You Can Trust Me Now
■ Living A Lie
■ Sunk In Reverie
プライマル・スクリームのボビー・ギレスピーがフランス人の女性ボーカリストであるジェニー・ベスとともに制作したデュエット・アルバム。ベスはサヴェージズのフロント・パーソンでもあり、ソロとしても実績のあるアーティストだ。アルバムのプロデュースはブレンダン・リンチとギレスピー、プライマルズのアンドリュー・イネス。ベスのパートナーであるジョニー・ホスタイルがソングライター、ベーシストとして参加している。

プライマルズは音楽的変遷の激しいバンドだが、どんなスタイルのときでもアルバムにはだいたい泣き系のバラードがひとつかふたつは入っていて、こういうのが結構好きなんだろうなと思ってしまうのだが、このアルバムはそういう感じのメロウで泣きの入った無反省なバラードを集める形で作られており、まあひとことでいえば歌謡ロックである。尖った実験を続け何度もロック臨死体験を繰り返してたどり着いた先がここなのは興味深い。

ベスのことはよく知らないが一線で活躍する人であることは間違いなさそうで、むしろ彼女の側からしたときにギレスピーとの共作がこういう感じのベタな歌ものでいいのかと心配になる。ギレスピーやイネスのデタラメでヤクザな音楽スタイルのとっかえひっかえはいつものことで、それが歌謡ロックに触れたとてもはや驚きもないが、次世代のトップランナーを巻きこんで、昼ドラみたいに大仰で湿っぽいアルバムを作るのはやめてあげて。



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