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別世界旅行
〜A Trip in Any Other World

The Collectors
★★★★

Triad (2020)
COZP-1693-4

■ お願いマーシー
■ 全部やれ!
■ ダ・ヴィンチ オペラ
■ 人間は想い出で出来ている
■ さよならソーロング
■ 夢見る回転木馬
■ オートバイ
■ 香港の雨傘
■ 旅立ちの讃歌
■ チェンジ
前作から2年のインターバルでリリースされた通算24作目(当社算定)となるアルバム。長年の盟友であるザ・クロマニヨンズの真島昌利をゲストに迎えた『お願いマーシー』をリード・シングルに、ギターの鳴りがグイグイ引っ張るビート・ポップを燃料にしたポップなアルバムに仕上がった。閉演した遊園地「としまえん」をテーマにした『夢見る回転木馬』や香港の雨傘革命を取り上げた『香港の雨傘』など話題への目配りも抜かりない。

しかしこのアルバムの核になるのはやはり何より先述の『お願いマーシー』だろう。「世界中の街から突然音楽が消えて/踊りたいのにどこへも行けない」というラインは、COVID-19の影響でヴェニューが軒並み閉鎖され、ライブが行えなくなったことを指している。「ぼくの部屋をライブハウスに変えて」とマーシーにお願いする仕立ての曲だが、ここでは音楽をめぐる過酷な状況が加藤ひさしの独特なイディオムでロックに昇華されている。

深刻に沈みこんだり誰かを指さしてつるし上げたりすることなく、ただ平易な歌詞をビートに乗せて歌うだけで僕たちが直面する大きな問題をはっきりと描き出し、それに立ち向かう力が僕たちにあることを改めて思い起こさせる。世界と僕たちの不整合の仲立ちをするというロックンロールの最も基本的な機能を、この曲、このアルバムは果たしているのだ。ザ・コレクターズが信頼できるバンドだということを再確認できる作品。聴くべし。




FLYING HOSPITAL
青木慶則
★★★★

Symphony Blue (2020)
SYBL-0005

■ Flying Hospital
■ In Tempo, On Time
■ 冬の大六角形
■ Hazel Eyes
■ Broken Signals
■ 秋を待たずに
■ Wonder Wonder
■ 分水嶺
■ インドアプレーン
■ 水のなかの手紙
2018年からアーティスト名義をHARCOから本名に変更して活動している青木慶則の、変更後2枚目のアルバム。前作は全曲自身のピアノだけをバックに歌われたある意味野心的というか挑戦的というかモード・チェンジを印象づける特徴的な作品だったが、本作は通常のスタジオ・アレンジでオーソドックスなポップ・アルバムとなった。ステージではHARCO時代の作品の封印も解き、再び大らかなポップ・ソングを歌う青木にちょっと安心した。

とはいえ、もともと同じ人なので作品自体は前作においてもそれまでの活動との連続性はきちんと見て取ることができたし、そこに音楽として何かの断絶がある訳ではない。それはスタジオ・アレンジになった本作において一層顕著であり、何よりちょっと鼻にかかったような独特の甘いボーカルはHARCOであれ青木慶則であれ、そこにはっきりとした記名性を刻印したもの。スムーズなのに耳に残り聞き違えようのない声は大きな魅力の一つ。

そして達者なソングライティングはもちろん言うまでもない。技術とインスピレーションが明確な意志の下に音楽として統合されて行くプロセスは彼のすべての作品に共通のもの。美しい起伏を描く印象的なメロディと平易でありながら繊細で多義的な歌詞、レンジの広い音楽的素養がなければでき得ない多彩なアレンジ、そして上述のボーカル。奥は深いが単純なポップスとしても聴けるアルバムであり、それがこの人の自然体なんだと思う。



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