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HEY CLOCKFACE
Elvis Costello
★★★☆

Concord (2020)
UCCO-1224

■ Revolution #49
■ No Flag
■ They're Not Laughing At Me Now
■ Newspaper Pane
■ I Do (Zula's Song)
■ We Are All Cowards Now
■ Hey Clockface/How Can You Face Me?
■ The Whirlwind
■ Hetty O'Hara Confidential
■ The Last Confession Of Vivian Whip
■ What Is It That I Need That I Don't Already Have?
■ Radio Is Everything
■ I Can't Say Her Name
■ Byline
前作から2年という比較的短いスパンで発表された新作。「誰も自分を知らない場所で」とヘルシンキのスタジオで地元のスタッフを起用したセッションでのテイクに加え、その後パリでのスティーヴ・ニーヴを中心にしたセッションでレコーディングした曲、さらにニューヨークで追加のセッションでの曲を合わせて完成させたアルバムで、こうした経緯の通り多彩なイメージの曲が混在する意欲的で広がりを持った作品に仕上がっている。

ヘルシンキ・セッションからの3曲がいずれも荒々しくゴリっとした質感のロック・チューンであるのに対し、ニューヨーク・セッションからの2曲はオルタナティブなトーキング・ブルース、残りのパリ・セッションからの曲はコステロのソング・ライティングが光るバラードが中心。まるでロード・ムービーみたいに世界を移動し、曲の振幅の大きさで今のコステロの世界観、世界の輪郭のようなものを表現しようとした意欲作ではある。

全体的にはキャリアを感じさせる落ち着いたトーンの作品であるが、そこにキャラクターの違う曲を織りこんで行くことで、今ここにある現実とコミットする意識、音楽を媒介に世界と向かい合う意識がはっきりと感じられる。感染症のおかげで世界が遠くなりつつある中で、1年遅かったら作ることのできなかったアルバム。この声がある限りコステロは現役だと思わせる記名性は天与のもの。ベタなポップ・チューンもあってよかったか。




THE UNIVERSAL WANT
Doves
★★★★

Heavenly (2020)
UICY-15922

■ Carousels
■ I Will Not Hide
■ Broken Eyes
■ For Tomorrow
■ Cathedrals Of The Mind
■ Prisoners
■ Cycle Of Hurt
■ Mother Silverlake
■ Universal Want
■ Forest House
ダヴズはマンチェスター出身のスリー・ピース・バンド。マッドチェスター・ムーヴメントからデビューし、2011年にいったん解散しているが、2018年ごろから活動を再開、本作は前作から11年ぶりとなる新譜である。音楽的な成り立ちはシャーラタンズなどに近いが、独特の重たく陰鬱な熱をたたえたストイックなビート感と裏腹にロマンチックな歌メロとのコンビネーションで、全英1位のアルバムを2枚も出している実力派のアーティスト。

長いブランクからの復帰作だが、聴くなりあまりに期待通りの「ダヴズの音」が流れ出すので思わずふふふってなる。彼らの音楽のいちばんの特徴はやはりその「暗さ」であり、ビートへの没入であり、音楽への耽溺であるが、そうしたダヴズの音を決定づけるモメントは10年の歳月を経ても間違いなく表現されていて、その変わりようのない宿命的な資質というか傾きみたいなものに、「これやがな」的な納得感と説得力があるということだ。

それは過去の自分たちの音楽の輪郭をなぞったディナーショー的な単純再生産ではなく、どうやってもこうなってしまうというかこれ以外にできないというか、そういう切実なものであり、だからこそこの作品もトランプがアメリカの大統領でイギリスがEUを離脱してCOVID-19がパンデミックになった2020年にもリアルな音楽として響くのである。このどこまでも沈みこんで行くような音楽は現代の祈りであり福音。正しい意味でのゴスペルだ。



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