STORM DAMAGE
Ben Watt
★★★
Unmade Road (2020)
ROAD015CD
■ Balanced On A Wire
■ Summer Ghosts
■ Retreat To Find
■ Figures In The Landscape
■ Knife In The Drawer
■ Irene
■ Sunlight Follows The Night
■ Hand
■ You've Changed, I've Changed
■ Festival Song
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ベン・ワットは多才な人なのだと思う。もともとはアコースティックな音楽からスタートし、ゴージャスなオーケストレーションのボーカルものやジャズへのアプローチを経てドラムンベースやブレイク・ビーツ、ハウスまで、さまざまな意匠を自在に使いこなし、何ならDJもしてしまう。しかし、彼が作り出す音楽のいちばん奥にあるのはいつでも深く強固な静寂だ。そこにあるのはおそらく、誰も知らない彼だけの原風景なのではないか。
路線としては前作を承継したアコースティックで落ち着いたトーンのアルバムで、彼の声の存在感が全体をドライブする動因になっている。リズムに寄せたアプローチやアレンジの彩りも見られた前作に比べると、今作はさらにひっそりと、彼自身の中にある動かしようのない核のようなものを直接浮かび上がらせようとする抑制的な表現が際立っている。商業音楽の作品としては地味と言う外ないが、今さら小ガネを稼ぐ必要もないのかも。
生死の境をさまようような大病をしたことはトレイシー・ソーンの自伝にも書かれていたが、そのせいかどうかはともかく、最少の手順で生の感覚を確認しようとするような率直で真顔の表現がおそらくはこの人の今を最もはっきりと映し出しているのだろう。個的な領域に沈潜して行くかのような内省的なモメントが強すぎるのは少し気になるが、これまでと同じように夾雑物を丁寧に排除してそこに残ったものの響きに耳を澄ませる音楽。
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