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BADBEA
Edwyn Collins
★★★★

AED (2019)
AEDEC25CD

■ It's All About You
■ In The Morning
■ I Guess We Were Young
■ It All Makes Sense To Me
■ Outside
■ Glasgow To London
■ Tensions Rising
■ Beauty
■ I Want You
■ I'm OK Jack
■ Sparks The Spark
■ Badbea
エドウィン・コリンズももう還暦だ。2005年に脳溢血に倒れ、奇跡とも言える復活を果たしてからは鬼気迫るクオリティのアルバムをリリースし続けているが、6年ぶりの新譜となる本作でもいささかも退くことのない強度の高い音楽をガツンとぶつけて来る。「ロック」の名に恥じないゴツゴツしてしっかり持ち重りのする、岩塊のような手ごたえのある音楽であり、脳溢血の病歴のある還暦のおっさんが渾身の力をふりしぼった力作である。

ここにあるのは彼の現在であり、そこに日々ある「今、歌っておくべきこと」そのものである。最も近いところにある美しさとか醜さとか痛みとかもどかしさとか愛おしさとかいても立ってもいられない焦りとか、とにかくそういう手に取ることのできる心の動きに直に根差したものであり、それ故ここにある歌はどれもこれも、ロックとしてはまったくオーソドックスでクラシックですらあるのに、聴き手に強く働きかける何かを具えている。

ジャケットに写ったコリンズは、左手で杖を突き右手は不自然に曲げられている。おそらくは、脳溢血の後遺症で右半身が随意ではないのかもしれない。髪は薄くなり、カメラをにらむ視線は決して涼しげなものではない。ボーダーのロンTにサングラスをかけたかつてのスマートな美青年の面影はもはやないが、しかし彼が今奏でる音楽はむしろ当時よりも鮮明で力強く、率直だ。成長や老い、死をも表現に結実させるアプローチとして秀逸。




HYPERSPACE
Beck
★★★☆

Capitol (2019)
00602577692413

■ Hyperlife
■ Uneventful Days
■ Saw Lightning
■ Die Waiting
■ Chemical
■ See Through
■ Hyperspace
■ Stratosphere
■ Dark Places
■ Star
■ Everlasting Nothing
ネプチューンズのファレル・ウィリアムスを共同プロデューサーに迎え、11曲中7曲を共作した、事実上のコラボレーション・アルバム。どこまでをウィリアムスの仕事に帰していいものかは分からないが、ロックとしてのダイナミズムが地下鉄の中でブルートゥース・イヤホン越しに伝わってくる「分かりやすい」作品に仕上がったというのが第一印象だ。音響の広がりを感じさせるサイケデリックな手触りが強いが、本質はロックそのもの。

ここでいうロックは速いエイト・ビートにラウドなギターがジャカジャーンと乗っかるという意味でのロックではなく、日々の生活の中での自分という器の収まりの悪さ、何の役にも立たないムダな出っ張りや引っ込みにアプローチする表現という意味でのロックだ。そしてその意味でベックはこれまでずっとロックを鳴らしてきた。ベッドルームの中から、この世界は、自分は、なぜこのようであるのだろうということを歌い続けてきたのだ。

ベックの音楽は、あらゆる種類の音楽と等しい距離にある。換言すればベックの音楽はすべての音楽の中心にある。彼の音楽はどんな音楽でもありどんな音楽でもない。帰属すること、定義することを拒み、ただ「自分の都合」を歌えばそれでいいのだというロック表現の本来の自由さを彼にしかできないやり方で示してきた。彼がリスナーのみならず多くのアーティストからもリスペクトされるのはそれ故であり、本作もまたそれを裏づけた。




EVERYDAY LIFE
Coldplay
★★
いきなり大仰なストリングスのインストで始まった時点で聴く意欲が8割方削がれてしまう厳しい幕開け。そこから個々の楽曲の端正さでリカバーを図ろうとするものの、要所にナゾのピアノ・インストや合唱曲みたいなのが挿入され、ロックというのはこうやってダメになって行くという見本のようなアルバム。悪くない曲もあるにはあるが印象が薄く、17曲56分もあるのに「雰囲気モノ」の域を脱しないうちに聴き終わってしまうのが残念。


EVERYTHING NOT SAVED
WILL BE LOST

Foals
★★☆
パート1が2019年3月、パート2が10月にリリースされた二部構成のアルバム。旧譜もそうだが、それなりにきちんと中身のある音楽をやっている感じはするし実際よくできているのだが、いくら聴いても引っかかってくるところがないというか印象に残らないバンドだなと今回も思った。使えそうなフレーズが随所にあって日本のアレンジャーは狂喜するのではと思うが、いかんせん機能性が高すぎて「製品」感が拭えない。もったいない作品。



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