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ANIMA
Thom Yorke
★★★

XL (2019)
XL987CD

■ Traffic
■ Last I Heard (...He Was Circling Thr Drain)
■ Twist
■ Dawn Chorus
■ I Am A Very Rude Person
■ Not The News
■ The Axe
■ Impossible Knots
■ Runwayaway
かつてトム・ヨークに追いかけられる夢を見たことがある。家族でクルマに乗って逃げるのだが、どこまで行ってもトム・ヨークが追いかけてくるのだ。いったい何を意味していたのか今でも分からないが、とにかく追いかけてくるトム・ヨークの不気味さがハンパなくてマジ怖かった。何かそういう種類の、夢見の悪い粘着系の息苦しさみたいなものが彼の音楽にはある。密室的というか閉鎖的というか、基本的にクローズドな表現である。

ぼ〜っと聴いていると結構ただの電子音であり、最近こういうの多いよねとか区別つかないよねというのが一般的な評価だと思うんだけど、それが曲としてひとつの有機体を形成すると、そこに確かに出来不出来とか、作り手との共時性とかが生まれてくる。同種のものの集積の中から、間違いなくトム・ヨークの作品として見つけ出すことのできる記名性を帯びてくる。トム・ヨークがそれを意図したのか忌避したのかは実際分からないが。

あまたの電子音楽の中でもそうやって「よくできたもの」と「そうでないもの」が分画して行く瞬間が面白い。ただ、この人の才能のあり方というのはすごく正しくて、音楽もまたすごく正しい。この「正しい」というモメントがロック表現において必要なものなのかというのが僕にとっては長い間の疑問。こういう音楽があっていいのは分かるし、評価されるのも分かるが、入口を見つけるのが難しい音楽であることは確か。人を選ぶ音楽。




HELP US STRANGER
The Raconteurs
★★★★

Third Man (2019)
OTCD-6764

■ Bored And Razed
■ Help Me Stranger
■ Only Child
■ Don't Bother Me
■ Shine The Light On Me
■ Somedays (I Don't Feel Like Trying)
■ Hey Gyp (Dig The Slowness)
■ Sunday Driver
■ Now That You're Gone
■ Live A Lie
■ What's Yours Is Mine
■ Thoughts And Prayers
ホワイト・ストライプスのジャック・ホワイトとシンガー・ソングライターのブレンダン・ベンソンとのプロジェクト、ザ・ラカンターズの10年ぶりのアルバム。僕の認識では、ジャック・ホワイトの数あるプロジェクトのひとつというくらいだったのだが、いろいろ調べてみると、このユニットというかバンドにはブレンダン・ベンソンの存在が大きいらしい。これまでも存在は知っていたが、配信で聴いてみて今回初めてアルバムを買った。

ジャック・ホワイトという人は、最先端なのか時代遅れなのか分からないようなブルース・ロックがその最も基本的な属性で、有無を言わさぬゴリゴリした音の塊みたいなものをぶつけて来る訳だが、それが同時に恐ろしくキャッチーでポップな大衆音楽として成立しているところが凄み。無自覚なら天賦の才というしかないし、分かってやっているのなら恐るべき自己相対化能力であり、いずれにしてもある種の天才であることは間違いない。

この作品もブルースとしかいいようのないアクの強さ、臭みが全編を覆いながら、同時に何度聴いても飽きないポップさ、カラフルさを内包している。そして、そういうポップな側面を裏打ちしているのがおそらくはブレンダン・ベンソンなのだろう。中庸を保つというよりは、思いきり両端に振り切れた結果、その熱量が奇跡的に中央で釣り合ったとでもいうようなハードとポップのバランス。レッド・ツェッペリンてこんな感じなのかな。




THIS IS NOT A SAFE PLACE
Ride
★★★

Wichita (2019)
WEBB570CD

■ R.I.D.E.
■ Future Love
■ Repetition
■ Kill Switch
■ Clouds Of Saint Marie
■ Eternal Recurrence
■ Fifteen Minutes
■ Jump Jet
■ Dial Up
■ End Game
■ Shadows Behind The Sun
■ In This Room
ライドの通算6枚目のオリジナル・アルバム。1996年にいったん解散した後、2017年に20年ぶりのアルバムを出し、それから2年のインターバルでの新作となった。ライドはデビュー時の赤と黄の2枚のEPで世界に向かって聴かせるべきものをすべて奏できってしまい、デビュー・アルバム以降は、最も美しく激しかった季節の輪郭が消え去ろうとするのを押し留めるための絶望的な後退戦を戦ったバンドである。それは再結成後の今も変わらない。

その意味では、彼らのありようはジザメリとよく似ている。ジザメリもデビュー・アルバムまでに戦いは終わってしまっており、その後のアーティストとしての活動は長い葬送曲のようなものに過ぎなかったからである。だが、ではジザメリやライドが、手に触れるものすべてがたちまち崩れ落ちて行く世界で、残されたわずかな記憶とか残像を手がかりに世界とフックしようとした作品群がすべて駄作かと言えば、もちろんそんなことはない。

むしろ、そのような思い出せない夢を必死に生きようとする営為の中にこそロックと呼び得るものがあるのであり、このアルバムもまた、そうした意味でロック以外の何者でもない。特に冒頭のインスト(その名も『R.I.D.E.』)のローレンスのドラムの音だけでもこのアルバムにカネを出す価値はあると思う。なまじ器用に曲が書ける人たちなのでその後の展開が分かりやすいところに収束してしまうのはもったいない。まだ先はあると思う。



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