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FATHER OF THE BRIDE
Vampire Weekend
★★★★

Columbia (2019)
19075947362

■ Hold You Now
■ Harmony Hall
■ Bambina
■ This Life
■ Big Blue
■ How Long?
■ Unbearably White
■ Rich Man
■ Married In A Gold Rush
■ My Mistake
■ Sympathy
■ Sunflower
■ Flower Moon
■ 2021
■ We Belong Together
■ Stranger
■ Spring Snow
■ Jerusalem, New York, Berlin
6年ぶりとなる4枚目のアルバム。中心人物であったロスタム・バドマングリ(どこ系の名前なんだろう)が前作発表後にバンドを脱退、もうひとりのソングライターであるエズラ・ケーニヒが中心となって制作した。もともと様々な意匠の音楽をロックという大きな坩堝に投げこみ、ぐつぐつ煮込んで、あるいは敢えて生煮えで、そこからそれでもまだロックと呼び得るものを形にするアプローチのバンドだったが、本作では変化が見られる。

幅広い音楽がそのバックボーンにあることはもちろん変わらないが、アルバム全体を聴くと、とても穏やかで「歌」にフォーカスしている印象を受ける。ボーカルも楽器も近く、メロディは平易で明快だ。ステロタイプでマテリアルなメインストリームのロックに対しての「別の選択肢」として自然発生したオルタナティブが、分かる人だけ分かればいい式の自己充足的な態度を脱して、これだけのオープンさを獲得したことの意味は大きい。

何度も聴くにつれ、これが単に分かりやすいだけのアルバムではなく、あちこちに仕掛けや気づきが忍ばされていることが分かってくるのだが、そのたびに世界の意味は反転したり拡張したり遷移したりしながら、僕たちが知っている世界が世界の実相の一部に過ぎないことを残像のように見せてくれる。もちろんそれ(世界の実相の再解釈)こそがオルタナティブという考えが最初に求めたもの。「世界」を「ロック」と置き換えてもいい。




BUOYS
Panda Bear
★★★

Domino (2019)
WIGCD399

■ Dolphin
■ Cranked
■ Token
■ I Know I Don't Know
■ Master
■ Buoys
■ Inner Monologue
■ Crescendo
■ Home Free
アニマル・コレクティブの「創始者」とWikiには書かれているノア・レノックスのソロ・プロジェクト。この21世紀にあって、ロックの現在地をできる限り誠実に見定めようとするとおそらく必然的にこうなるということを示し続けるバンドのフロントマンらしい、実験的でありながら懐かしく、聴きやすいロック、ポップの最前線。この時代における直接性は、童謡のような稚気に限りなく近づくのではないかという僕の仮説を裏付ける作品。

タイトルは水間に浮かんで境界や位置を知らせるブイ、浮標のこと。その通り、この作品はロックがどこを目指すのかという方向や、それに対して今自分はどこにいるのかという立ち位置を明らかにしようとしている。しかしブイは地面に直接固定されている訳でもなく、所詮は波間に浮かんでいるだけの「揺らぎ」をはらんだ存在。今、僕たちが自分の位置を図るための水準点は、毎分、毎秒揺れ動き、僕たちの足許の地面すら危うくする。

しかしそれでも、浮標は一定の範囲から外れて行ってしまう心配はない。ロックという表現が間口を広げ、奥行きを伸ばそうとするとき、それをザクっと包みこみ、それもまたロックとして受け入れる寛容さというか自己拡張性みたいなものがロックにはある。波間に浮かびながらも何らかの目印であろうとする浮標はその象徴に似つかわしい。意外に生の楽器の音や、何より人の声が近いのが示唆的だ。全9曲、30分あまりという潔さもよい。




GEOGRAPHY
Tom Misch
★★★

Beyond The Groove (2018)
BTG020CD

■ Before Paris
■ Lost In Paris
■ South Of The River
■ Movie
■ Tick Tock
■ It Runs Through Me
■ Isn't She Lovely
■ Disco Yes
■ Man Like You
■ Water Baby
■ You're On My Mind
■ Cos I Love You
■ We've Come So Far
タワレコの店頭で大きく展開しているのを見て興味を持ち、Spotifyで聴いてみたところ意外によくて、結局CDを買ったイギリスのアーティスト。店頭ではジェイムズ・ブレイクを例に出して説明されていたので聴く気になったのだが、実際聴いてみると、これは何かちょっと説明し難い音楽だ。いや、音楽自体が難解とか複雑という訳ではなく、確かにエレクトロニカの要素もあるものの、それだけに収まらない多彩な音楽を聴かせるのだ。

それはむしろ、70年代から80年代のソウル、ブラック・コンテンポラリーとかディスコのような、スムーズで耳ざわりのいいグルーヴであり、いったいどういう文脈から2010年代の今これがメインストリームに出てくるのかという唐突感というか先祖返り感がハンパない。何かを極北まで煮詰めるとか削ぎ落すとかいう表現上のせめぎあいよりは、かなりイージー・ゴーイングで間口の広い音楽。もちろんソングライティングのレベルも高い。

ストリングスも効いているが、耳に残るのはギターのカッティングだ。ギター前出てんな〜と思ってたら本人のプレイだった。そう思って聴けば、ギターはナイル・ロジャースぽいし曲はシックぽい。曲調はジャズだったりボサノバだったりもしてよく言えば幅広く、悪く言えば節操がないが、要はギターをぽろぽろ弾くところから始まっているんだろうと思えば納得できる。脈絡とか関係なくスイスイ行く下世話な感じが潔い。意外な発見。




RAW HONEY
Drugdealer
★★☆

Mexican Summer (2019)
MEX248

■ You've Got To Be Kidding
■ Honey
■ Lonely
■ Lost In My Dream
■ Fools
■ If You Don't Know Now, You Never Will
■ Wild Motion
■ London Nightmere
■ Ending On A Hi Note
タワレコのアナログのフロアでかかってたのを聴いてSpotifyで試聴、結局CDを買ってしまった西海岸のバンド。というかマイケル・コリンズというアーティストのプロジェクトというのが正しいのかもしれない。最初に聴いたときにはいかにもアナログのフロアでかかりそうなザクっとした手触りに惹かれてShazamで音源検索した。70年代ロックをベースにしたゴリっとした音作りはレニー・クラヴィッツやクーラ・シェイカーらを思わせる。

ロックのメインストリームが停滞すると、必ずコレ系の素朴でストレートなバンドが出てきて、僕もついつい聴いてしまうのだが、本作はそうしたオールド・ロックへの回帰というよりは、よく聴いてみればむしろ、同じ70年初頭としても、もっとシンガーソングライター的なセンチメンタルでメロウな曲がメインだ。タワレコのコメントではトッド・ラングレンが引き合いに出されていて、それもまたCDを買ってしまった理由のひとつである。

レモン・トイッグスらと同じく、「バロック・ポップ」と称される一群の音楽に分類されるものらしい。クラシックの要素を取り入れたというが、そこまでのあざとさはなく、同時代の音楽として聴くことも十分できる。単なるレトロスペクティブではなく、結局のところ曲の出来不出来の問題だということなのだろう。アメリカというのはこういう「奇才」みたいなのが時折出てくるので侮り難い。それにしてもひどいアーティスト名義やな。



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