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YOUNG MAN ROCK
The Collectors
★★★☆

TRIAD (2018)
COCP-40539

■ クライム サスペンス
■ ひとりぼっちのアイラブユー
■ サブマリン
■ 限界ライン
■ セントラルステーション
■ ニューヨーク気分
■ 永遠の14歳
■ 泣かないで火星人
■ 恋のホットサマーレシピ
■ 振り返る夜
前作「Roll Up The Collectors」から2年のインターバルでリリースされた、「武道館後」第一作となるオリジナル・アルバム。前作ではサポート・メンバーとして参加していた古沢岳之が正式にバンド・メンバーとして参加した初めてのアルバムとなる。プロデューサーは吉田仁で、一部の曲でキーボードとストリングスを導入しているが、基本的にはギターの鳴りを中心にしたバンド・サウンドのシンプルなプロダクションとなっている。

一聴した印象はやや内省的でおとなしく、アルバムのコアとして中央突破を図って行くような勢いのあるキラー・チューンが見当たらない感は否めない。しかし、何度か聴きこむうちに、16ビートの『クライム・サスペンス』からスロー・バラードの『振り返る夜』まで、GS調の『恋のホットサマーレシピ』からロックンロールの『ひとりぼっちのアイラブユー』まで、多彩な曲をちりばめ丁寧に作られたアルバムであることが分かるだろう。

テーマを探してひねり出した感のある、座りの悪い歌詞が一部の曲に見られるのは気になるし、特に『ニューヨーク気分』みたいに意図が今イチ意味不明で歌詞と曲調が合っていない曲もあるが、全体としては加藤ひさしの汲めど尽きせぬ泉のような作曲能力とツボを抑えた古市コータローのギターのバランスで成り立ったコレクターズ・ワールドが永遠に不滅であることを改めて印象づける。彼ららしい音楽本位、作品本位の誠実な作品だ。




IN MIRACLE LAND
The Vines
★★★★

Wicked Nature (2018)
WNMCD03

■ Hate The Sound
■ Broken Heart
■ Leave Me Alone
■ Willow
■ Emerald Ivy
■ Sky Gazer
■ Waitin
■ Slide Away
■ Annie Jane
■ In Miracle Land
■ I Wanna Go Down
■ Gone Wonder
前作から4年ぶりにリリースされた7枚目のオリジナル・アルバム。タワレコでCDを買ったんだけど、スリーブにはペラペラの紙一枚のジャケットが挿入されていただけで、クレジットの記載は一切なし。先入観なしに音楽だけを聴けということなのか、あるいはダウンロードが中心的なメディアになる現在では、まどろっこしいスリーブのクレジットなどはない方がデフォルトだということか。さすがにCD-Rではなかったので安心したくらいだ。

ヴァインズの音楽を聴いて「あ、ヴァインズだ」と認識するポイントはいくつかあって、その一つが曲の短さである。例えば2006年のアルバム「Vision Valley」は13曲で34分だったし、2014年の前作「Wicked Nature」は2枚組で22曲入りだったにも関わらず55分という短さだった。そして今作も12曲で34分、1曲あたり3分に満たない短さ。大仰なアレンジやもったいぶった「歌い上げ」と無縁の潔さは、このバンドのひとつのキャラクターだ。

それでもこのバンドの作品が毎回きっちり耳に引っかかってくるのは、その短い時間に普通のバンドの5分の曲以上の情報量や熱量をがっつりブッ込んでくるからだし、その密度の高さが彼らの自信の源でもあるのだろう。特別に新しいチャレンジがある訳ではないが、ニコルズのハイ・トーンのボーカルも相まって部活バンド的な「じっとしてられない」感は今作でも健在。何だこれでいいんだと思わせてくれる音楽の存在は貴重だし示唆的。




青木慶則
青木慶則
★★★☆

Symphony Blue (2018)
SYBL-0001

■ 支度
■ 瞬間の積み重ね
■ 手のひらのニューヨーク
■ Time To Say Goodbye
■ どじょんこきえた
■ 花のトンネル
■ Symphony Blue
■ 働き方を考える
■ Piano, Craps, Steps #1
■ 最後のスポークスマン
■ 早春の手紙
■ 卵
「HARCO」名義で長い間活動していた青木慶則が、アーティスト名義を本名に変更し、新たに設立したインディペンデント・レーベルから発表した第一作は、セルフ・タイトルかつ全編ピアノ弾き語りのアルバムとなった。その事実だけでも彼の新しい出発への意気込みを感じずにはいられないが、アルバムの内容もまた、青木慶則としての来るべき活動のプロトタイプとなり得る、彼の表現の広がりと奥行きを印象づける意欲的な作品である。

ピアノの弾き語りなので曲想は当然ながら青木の弾くピアノ、青木の歌声、そして青木の書く曲の3つの要素のみからできており、その分、ひとつひとつの曲の骨格とかメロディがほぼむき出しで伝わってくる。最初のうちこそ全体が単調に聞こえて、バンドが入るとどんなアレンジになるんだろうと頭の中でシミュレートしてしまうが、聴きこむうちにもはやこれらの曲には何も足さなくてもこれで完結していることが分かってくる仕掛けだ。

HARCOらしいポップなものから、ジャズのテイストを感じさせるもの、まさにピアノ・バラードというしっとりしたものまで曲調はさまざまで、ピアノ一本で曲の表情を弾き分けることを自らに課した青木のチャレンジは成功していると言っていい。決意とか覚悟を秘めたような廉潔性を感じさせるボーカルもまた、彼の音楽の決定的な要素である。とはいえ、次作はこの表現に合ったバンド・アレンジで聴きたいというのは言っちゃダメかな。




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