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TRUE MEANINGS
Paul Weller
★★☆

Parlophone (2018)
0190295620479

■ The Soul Searchers
■ Glide
■ Mayfly
■ Gravity
■ Old Castles
■ What Would He Say?
■ Aspects
■ Bowie
■ Wishing Well
■ Come Along
■ Books
■ Movin On
■ May Love Travel With You
■ White Horses
前作から約1年と短いインターバルでリリースされた、ソロとしては14枚目のオリジナル・アルバム。一聴して「うわ、地味」と思わず口を衝いて出るくらい、地味で静謐で内省的なアコースティック・アルバム、あるいはフォーク・アルバムと言っていい。以前からライブでは披露されながらアルバムには収まりどころがなく収録されないままだった『Gravity』を中心に曲を作りアルバムを構成して行ったらこうなった、ということらしい。

その『Gravity』はストリングスを全面的にフィーチャーしたアコースティック・ナンバーで、確かに他のアルバムにはなかなかうまくハメこめないだろうと思わせる。何でもポール・ウェラーもいよいよ今年還暦を迎えたらしく、まあ、おそらく本人は還暦とは何か分かっていないとは思うが、ええ加減ジジイになってきたことは間違いなく、さすがのウェラーもその中で何かを少しゆっくり見つめ直したりしてみたくなったということか。

とはいえさすがにこれだけ最初から最後までゆるゆるとしたアコースティック・ナンバーを並べられると、最後まで聴き通す集中力も厳しくなってくるし、曲の区別もつきにくくなる。何しろ、ウェラーが年を取ったのと同じだけ聴き手も年を取っているのだ。ひとつひとつの曲はたぶん悪くないと思うけど、染み入るには時間がかかりそうで、それまで根気が続くかどうか怪しい。スロー・ソングが好きでないのでたぶんあんまり聴かない。




COUP DE GRACE
Miles Kane
★★★★

Virgin (2018)
CDV 3208

■ Too Little Too Late
■ Cry On My Guitar
■ Loaded
■ Cold Light Of The Day
■ Killing The Joke
■ Coup De Grace
■ Silverscreen
■ Wrong Side Of Life
■ Something To Rely On
■ Shavambacu
過去にアワードまで授与しておきながら、Spotifyで聴いてショート・レビューで済ませようかと一瞬思ってしまったオレを許して欲しい。1回聴いてすぐに悔い改め、すぐにタワレコに走ってCDを買った。5年ぶりのサード・アルバムだが、今回もこれまでと同様、いやこれまで以上に全速力のブリティッシュ・ポップ。いきなり冒頭の『Too Little Too Late』で持って行かれる。ラナ・デル・レイとの共作によるシングル『Loaded』も収録。

タイトルの「Coup de Grace」とはフランス語で「とどめの一撃」の意味らしい。多才なこの人らしくバラエティに富んだ曲調のナンバーを集めたカラフルなアルバムだが、どの曲もきちんとフックになるフレーズや印象的なメロディ、思わずにやりとさせられるようなリフを具えており、あっという間に聴き終えてしまう。まあ、確かに全10曲で32分収録なので実際すぐ聴き終ってしまうのだが、この潔さもまた彼の自信の表れなのだろう。

世間ではアークティク・モンキーズのアレックス・ターナーと組んだラスト・シャドウ・パペッツの人として知られているのではないかと思うが、この人のこの気の効き方は、逆に小器用なポップ職人という居心地のいいポジションに自らを収めてしまうリスクがあるようにも思う。実力としては大きな展開力を秘めているし、本人もそのつもりだろうが、ソロで売るにはいろんな意味でちょうどよ過ぎ。重要人物なのは間違いないのだが…。




MOVE THROUGH THE DAWN
The Coral
★★★★☆

Ignition (2018)
IGNCD148

■ Eyes Like Pearls
■ Reaching Out For A Friend
■ Sweet Release
■ She's A Runaway
■ Strangers In The Hollow
■ Love Or Solution
■ Eyes Of The Moon
■ Undercover Of The Night
■ Outside My Window
■ Stormbreaker
■ After The Fair
前作から2年半のインターバルでリリースされた、たぶん7枚目のオリジナル・アルバム。ダークでロック・オリエンテッドな仕上がりになった前作から一転し、いかにも彼ららしいひねりのあるサイケ・ロック、ハーモニーを重視したポップなアルバムになった。もう最初から最後まで捨て曲のない、どれもこれもツボをグイグイ押しまくってくるキラー・チューンばかり。グッド・メロディはすべてに勝るという真理を思い起こさせる力作だ。

前作のレビューでは「クセのあるメロディは健在だが、曲調が今ひとつ暗い上、未知の空間が一気に広がって行くような新鮮な驚き、意外性がない」と書き、「★★★」という、過去にアワードまで授与したバンドに対するものとしてはかなり厳しい評点を付けた。で、どんなアルバムだったっけと思って聴き返したのだが、それが意外に悪くないのだ。確かに暗いのだが彼らの特徴はきちんと出ているし、ロックとして普通によくできている。

今作を前提として聴くことで、前作の意味とか価値とかがようやく分かった感じのするのは興味深い。前作の冒険、挑戦が彼らの中でモードをひとつ切り換え、それが今作に結実したということなのかもしれない。きちんと前作を踏まえて成長しているからこそ、前作を聴いたときに「ああ、ここにつながっているのか」と腑に落ちるのだろう。今からでも「☆」を追加したい。ところで、ジャケットのカタカナには特に意味はないのだろうか。




AND NOTHING HURT
Spiritualized
★★★☆

Bella Union (2018)
BELLACD800Hz

■ A Perfect Miracle
■ I'm Your Man
■ Here It Comes (The Road) Let's Go
■ Let's Dance
■ On The Sunshine
■ Damaged
■ The Morning After
■ The Prize
■ Sail On Through
スピリチュアライズドは捉えどころのないバンドだ。音響とかゴスペルとかサイケとか宇宙とか、キーワードは一応あるにはあるのだが、必ずしもそれらだけで彼ら、というかジェイソン・ピアースの作り出す音楽をすべて説明できるものではないし、それらとはあまり関わりのない作品も少なからずある。ピアースがその表現の核としているものがいったい何か、それをはっきりと言語化して定義するのは難しく、つかみどころのない作業だ。

最初にアルバム「宇宙遊泳」を聴いて「おお、これが噂のスピリチュアライズドか」と思ったときの「これ」だと思っていたものが、アルバムを経るごとに希薄になり、そこには最初に思ってたのとは違うものが次第に前面に出てきたように思えて混乱した時期もあった。しかし、この作品では久しぶりに「やっぱりスピリチュアライズドはこれだよな」という「これ」、つまり僕が思うピアースの音楽の中心的なものが露わになった感がある。

それは、敢えて言葉にするなら、ある種の過剰感であり、さらに言えば誇大妄想である。超越したもの、我々の手で直接触れることのできない絶対的な存在を求めようとする心性である。そして、外宇宙と内宇宙が究極的に同じものである限り、彼が求めるものは結局のところ彼自身の中にありそこにしかない。今作で彼がこの擬似オーケストラを自宅でただ一人コツコツと作り上げたことは、それゆえ正しかった。このトンデモ感こそ正義だ、。




GO TO SCHOOL
The Lemon Twigs
★★★

4AD (2018)
4AD0094CD

■ Never In My Arms, Always In My Heart
■ The Student Becomes The Teacher
■ Rock Dreams
■ The Lesson
■ Small Victories
■ Wonderin' Ways
■ The Bully
■ Lonely
■ Queen Of My School
■ Never Know
■ Born Wrong / Heart Song
■ The Fire
■ Home Of The Heart (The Woods)
■ This Is My Tree
■ If You Give Enough
アメリカの兄弟デュオのセカンド・アルバム。何でも今作は「知能が高く学校に行くことになった猿の物語」みたいなロック・オペラ的な何からしく、まあ、控え目に言って訳が分からない。オープニング・ナンバーこそアップ・テンポのロック・チューンなので思わず聴き始めてしまうが、曲想のレンジは広く、歌曲的な何かとかボードヴィル的な何かとか、ロックとして非典型の幅広い音楽的背景を感じさせる面白い作品に仕上がっている。

この感じはどこかで聴いたことがある、誰かに似ているとずっと思っていたが、考えてみたらトッド・ラングレンだった。というのも、そのラングレンがこのアルバムに参加しており、それを知って「ああそうそう、この感じは確かにトッドだわ」と腑に落ちたのである。この、もともと確かなソング・ライティングの素養のある人が、豊かな音楽的背景を得て自在に作ったごった煮的な「ポップの神殿」感がまさにラングレンの嫡出子である。

それが決して高踏的な芸術方面に向かわず、学校へ行ったチンパンジーがいじめを受けて殺人鬼になるというコンセプトの訳の分からなさも含めたキワモノ感的な面白さ、楽しさとして結実しているところが彼らの強みだし、それがポップということの意味。本物になりすましたフェイクについてシリアスな議論が交わされるこの2018年にあって、フェイクであることのおかしみの方を真面目に可視化(というか可聴化)した才能を感じる作品。




LOOK NOW
Elvis Costello & The Imposters
★★★★

Concord (2018)
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■ Under Lime
■ Don't Look Now
■ Burnt Sugar Is So Bitter
■ Stripping Paper
■ Unwanted Number
■ I Let The Sun Go Down
■ Mr. And Mrs. Hush
■ Photographs Can Lie
■ Sidhonor The Stars
■ Suspect My Tears
■ Why Won't Heaven Help Me?
■ He's Given Me Things
すごく久しぶりな感じのするエルヴィス・コステロの新作。2013年にヒップホップ・バンドであるザ・ルーツとの共作アルバムをリリースして以来の作品で、ソロとしては2010年、インポスターズとの共演としては2008年以来の作品となる。コステロももう64歳、今年の夏にはガンの治療のためにツアーを一部キャンセルしたというニュースもあったが、このアルバムでは変わりのない元気な歌声を聴かせていて、老いてますます盛んの境地か。

バート・バカラックやキャロル・キングとの共作も盛りこまれ、曲調は多彩だが全体にオーソドックスで落ち着いた仕上がり。かつての「Delivery Man」や「Momofuku」のようなルーツ・ロック寄りのザラっとした質感ではなく、メロディ重視、歌重視のブリティッシュ・ポップ的な聴きやすいアルバムになった。コステロ自身がかつてのアルバム「Imperial Bedroom」やバカラックとの共作アルバムを引き合いに出しているのも頷けるところ。

僕としてはどちらかといえば勢い一発のロック・チューンが好きなのだが、この人の音楽的なレンジの広さと、それが拡散に向かわず音楽の中心に向かって収斂するかのような、どんなに多彩でも最終的にはすべてがコステロ印に回収されてしまうような磁場の強さはここでも健在で、このアルバムを快作と評価するのはそのような「だってコステロなんだもん」という期待を裏切らない品質の高さゆえ。やや内省的なのはさすがに年のせいか。




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