logo 2018年7・8月の買い物




THE NOW NOW
Gorillaz
★★★

Parlophone (2018)
88985476052

■ Humility
■ Tranz
■ Hollywood
■ Kansas
■ Sorcererz
■ Idaho
■ Kake Zurich
■ Magic City
■ Fire Flies
■ One Percent
■ Souk Eye
前作から1年2カ月と短いインターバルでリリースされた新作。通勤電車で何度か聴いてみたが、ツイッター読んでたりしてあんまり集中できてない。なんでこんなに印象に残らないんだろうと思って、今、家できちんとCDをかけ居住まいを正して聴きながら書いているのだが、やはりひとことで言って地味というか内省的なアルバムに仕上がっているというのが率直な感想。否応なく鼓膜を震わせて、脳みそをビートする厚かましさが希薄だ。

もちろん、曲としても音づくりとしてもこの人たちらしい根の真面目な端正さは拭い去り難く、丁寧に聴けばきっちり作られた良質な音楽であることに変わりはない。というかむしろ端正さが際立つアルバムなのだが、それだけに、カトゥーン・バンドというギミックを通すことで、自らの生真面目さや几帳面さを相対化、対象化しようとしていたはずの試みがここでは剥落し、素のデーモン・アルバーンが見えてしまっているように思える。

もともとデーモン・アルバーンという人はバンドとかユニットとかプロジェクトとか、自分に枠をハメることで表現の外縁を固め、そこから内側に向かって音楽を作って行く人だ。ゴリラズという仕掛けもそのためのものだが、今回はどういう訳かその装置がうまく機能せず、アルバーンのインテリジェントな資質がそのまま作品として結実してしまったかのようだ。アルバーンはもはやゴリラズという物語を必要としなくなったのだろうか。




LAMP LIT PROSE
Dirty Projectors
★★★★☆

Domino (2018)
WIGCD392

■ Right Now
■ Break-Thru
■ That's A Lifestyle
■ I Feel Energy
■ Zombie Conqueror
■ Blue Bird
■ Found It In U
■ What Is The Time
■ You're The One
■ (I Wanna) Feel It All
前作から1年半という短いインターバルでリリースされたアルバム。前作は事実上一人で制作した実質的なソロ・アルバムと評されたが、本作は再びバンド編成で制作され、ヴァンパイア・ウィークエンドのロスタムやフリート・フォクシーズのロビン・ペックノルドらが参加している。不思議くんぽいささくれた音の感触は変わらないが、このアルバムでは楽器の生音や女性コーラスが効果的に使われており、「歌」としての完成度が高い。

ヴァンパイア・ウィークエンドのアルバムを聴いたときにも思ったことだが、ロック表現の常套句を周到に回避しながら、そのダイナミズムだけを2010年代に再生しようとすれば、その表現は結果として稚気とイノセントなユーモアによって定義される童謡のような音楽になって行くのではないか。このアルバムも、ロックが必然性に内包するマチズモを注意深く排除して行くことで、エレキギターの音をすら相対化することに成功している。

しかし、その稚気やイノセントなユーモアは、当然のことながら無根拠で無反省なお花畑では決してない。それはフェイク・ニュースやポスト・トゥルースといった術語で叙述される世界にあって、そういう夾雑物を表現に介入させないようにするために、歌われるべきものから最短距離で歌を立ち上げるという極めて政治的で今日的な、戦略的方法論に他ならない。ここにあるのは煉獄と向き合うための音楽であり、それ故優しく楽しいのだ。




ARTHUR BUCK
Arthur Buck
★★★☆

New West (2018)
NW6429

■ I Am The Moment
■ Are You Electrified?
■ The Wanderer
■ Forever Waiting
■ If You Wake Up In Time
■ Summertime
■ American Century
■ Forever Falling
■ Before Your Love Is Gone
■ Wide Awake In November
■ Can't Make It Without You
ジョセフ・アーサーというアメリカのシンガー・ソングライターと、元R.E.M.のピーター・バックのコラボレーション・アルバム。ジョセフ・アーサーは1997年以来既にアルバムを10枚以上リリースしている46歳の中堅アーティストで、バックとは以前から友人だったが、昨年メキシコで偶然再会し、意気投合して、最初はアーサーのアルバムに、ギターでバックに参加してもらう程度のつもりが、ガッツリと共作することになったのだという。

聴き始めてまず思うのは、やはりピーター・バックのギターの歴然とした記名性である。R.E.M.の音楽においてバックのギターが果たしていた役割がいかに大きかったかが分かる。アーサーには失礼だが、語弊を恐れずに言えば、ボーカルがマイケル・スタイプではないR.E.M.と言われても納得してしまうほどR.E.M.感ある。バックは作曲にも参加しているので当然かもしれないが、「R.E.M.的な何か」を求めて聴いても裏切られることはない。

しかし、何度か繰り返し聴いていると、そういう「話題先行」的な部分が次第に耳に馴染み、ひとつひとつの曲の表情のようなものが見えてくる。そこにあるのは、フォーク・ソングに根差した弾き語りという自作自演の最も原始的な音楽の、アメリカにおける作り手と聴き手の圧倒的な厚みだ。アーサーも、バックも、R.E.M.もそのルーツを共有しているのでこのアルバムはこんなにも自然で説得力があるのだ。地味だが聴くべきものがある。




CALL THE COMET
Johnny Marr
★★
ジョニー・マーのソロを聴いてもモリッシーのソロを聴いてもピンと来ず、ザ・スミスはやはりケミストリーという他ない一期一会のものだったのだなと思っているが、残念ながら本作も実際のところその認識を裏づける以上のものではなかった。マーらしい繊細なギターを聴かせる曲もあり、アルバムとしての出来は悪くないが、結局のところジョニー・マーという人はある種の職人であって「歌いたいこと」は特にないのではないだろうか。


SINGS OLIVIA NEWTON-JOHN
Juliana Hatfield
★★★
90年代に出た水牛のジャケットのCDを1枚だけ持っているジュリアナ・ハットフィールド。アメリカのオルタナ姉ちゃんだが声が可愛く結構好きだった。最近はまったくフォローしてなかったが、彼女のアイドルだったオリヴィア・ニュートン・ジョンのカバー・アルバムが出ているのを見つけてSpotifyで聴いてみた。曲が往年のポップスという感じでプロ的によくできているので聴きやすく、彼女の声ともマッチしてなかなか楽しめる作品。



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