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REST
Charlotte Gainsbourg
★★☆

Because (2017)
9029575560

■ Ring-A-Ring O' Roses
■ Lying With You
■ Kate
■ Deadly Valentine
■ I'm A Lie
■ Rest
■ Sylvia Says
■ Songbird In A Cage
■ Dans Vos Airs
■ Les Crocodiles
■ Les Oxalis
オレのシャルロットももう46歳。あの可憐な少女もええ感じのオンナになっている訳だが、ベックのプロデュースでリリースした前作から8年、今回はフランスのSebastiAnなるアーティストのプロデュースでアルバムを制作した。2009年にはラース・フォン・トリアー監督の「アンチクライスト」でカンヌ映画祭女優賞を受賞、2013年には同じトリアー監督の「ニンフォマニアック」に出演して大胆な性表現で話題となった(まだ見てない)。

ジェーン・バーキンとセルジュ・ゲンズブルの娘という出自からして普通の人ではないのだが、少なくとも彼女自身に音楽的な何かがある訳ではない。前作はまったくもってベックのアルバムにシャルロットのボーカルが乗っかっただけという代物だったし、本作でもまあ凡庸なポップスとしか言いようのない退屈な音楽がだらだらと流れて行くだけである。SebastiAnという人はよく知らないが、曲やアレンジは正直言って大したことない。

それにも関わらず僕がシャルロットの作品を結局買ってしまうのは、やはりその声の力のせいである。いや、声などという生やさしいものではなく、音域以上の発声を強いられて息も絶え絶えにヒィヒィ言わされるその「息」こそがシャルロットのボーカリストとしての本質。その意味では本作は彼女の力がよく生かされており、凡庸な音楽もあるいはその「息」を邪魔しないために極力無記名性に徹したということかも。だとしたらすごい。




WOODLAND ECHOES
Nick Heyward
★★★☆

Gladsome Hawk (2017)
HYCA-3065

■ Love Is The Key By The Sea
■ Mountaintop
■ The Stars
■ Beautiful Morning
■ Who?
■ Forest Of Love
■ Baby Blue Sky
■ I Can See Her
■ Perfect Sunday Sun
■ New Beginning
■ I Got A Lot
■ For Always
ニック・ヘイワードと言えばネオアコの定番『Favourite Shirts』で有名なヘアカット100のフロントマンだが、アルバム1枚を残してソロ活動に移行し、本作が7枚目のソロ・アルバムになる。前作「Apple Bed」が1998年の作品だから、実に19年ぶりの新譜だ。僕は彼の3枚目のソロ・アルバムをマンハイムのCD屋の1マルク品(日本円で約70円)のワゴンで見つけて買ったのが自慢なのだが、アーティストとしての実力はもとより破格である。

とにかくソングライター、メロディメーカーとしての才能がハンパなく、ヘアカット100の頃からポップとしか呼びようのない作品を連発してきたある種の天才。それがあまりにオーソドックス過ぎて、ヘアカット100以降は市場でガツンと売れることもないまま地味な存在だったが、ひっそりと聴くに値するアルバムを出し続けてきた。21世紀になって音信が途絶えていたが、久しぶりの本作でも聴き違えようのない美しいメロディは健在だ。

このポップ・センスはポール・マッカートニー直系か。もともとネオアコというよりはエバーグリーンなメロディ重視のポップスからの影響を強く感じさせる人であり、その音楽は非常に練られたプロフェッショナルなもの。このアルバムが、終わりを迎えつつある2010年代とどうフックするのかは別として、こういう音楽は間違いなく世界に必要なもの。『Perfect Sunday Sun』の決然としたたたずまいは何か普遍的なものを示唆している。




THE WILD RIVER
The Blow Monkeys
★★

P-Vine (2017)
PCD-24688

■ Crying For The Moon
■ What In The World
■ On The Wings Of The Morning
■ The Wild River
■ Landslide Comin'
■ Fortune's Wheel
■ God's Gift
■ An Act Of Faith
■ I Keep Getting In The Way
■ Nothing To Write Home About
ブロウ・モンキーズと言えば80年代後半にスタイリッシュでコンテンポラリーなブルー・アイド・ソウルでスタイル・カウンシルと並び称されたバンドであり、ヒット曲もあったが、正直ベストを持っているだけであまり真面目に聴いていなかった。90年代に入って一度解散したらしいが、2008年に再結成、以後、コンスタントにアルバムも発表してきたようだ。今作はたまたま何かのディスク・レビューで見てよさそうだったので買ってみた。

聴いてみたが笑っちゃうくらい変わってない。というか、「オレ的ブロウ・モンキーズ像」をそのまま純粋培養した感じで、スムーズでオシャレでメロウなソウル・ナンバーが惜しげもなく連打される感じ。埋もれていた80年代の未発表音源だと言われてもおそらく何の違和感もないし、むしろそう言ってもらった方が理解というか納得しやすい感じ。もしかしたら80年代の彼らですらここまで徹底してはいなかったのではないかと思うくらい。

だが、ではそれが古くさいかというと必ずしもそうでないところが興味深い。もちろん僕自身こういうのを聴いて育ってきたというかこういうところから洋楽に入った面があるので違和感ないというのもあるが、比較的古くなりやすいスタイルの割りにそう聞こえないのは曲がきちんと作られているからか。今から新しく何かにがっつりコミットしに行く音楽ではないかもしれないが、以前より割りきって得意科目に特化した感じして悪くない。




LET'S DO THIS AGAIN NEXT WEEK...
Deaf School
★★★☆

CAava? (2017)
HYCA-3066

■ Tap To Snooze
■ The Fabulous Miss Susan Jones
■ Top Man Top
■ Bed & Breakfast
■ Bob The Lodger
■ The 4th Of September Street
■ Come On Archie!
■ Skylon
■ Fantastic Fish
■ Loving You
■ Dr. Vodker
タワレコ・ウェブに「イギリスのロック史において、リヴァプール出身のバンドとして、ビートルズとエコー&ザ・バニーメンの間を埋める伝説のバンド、デフ・スクール」と書かれていて笑った。僕的にはアラン・ウィンスタンレーとのチームでコステロやアズカメやプライマル・スクリームやロイド・コールやマッドネスなどの名盤をプロデュースしたクライヴ・ランガーのバンド。フル・アルバムとしては約40年ぶりの新作になるそうだ。

音楽的にはXTCやスクイーズに近いひねりの効いたパワー・ポップ。その意味でビートルズのある一面を継承しているのは事実。とにかくソングライティングが達者でよくできているが、どの曲にも何かしら一筋縄では行かない仕掛けやちょっとしたユーモア、悪意のようなものがあり、モンティ・パイソンやその音楽版であるラトルズにも通じる、シニカルな外し方がいかにもイギリスっぽい。頭がよくないと書けない、聴き手を選ぶ音楽だ。

最近でこそアメリカ音楽の大ぶりな表現の力みたいなものを正面から聴くことができるようになった気がするが、もともとイギリス独特の湿り気とか、密かな毒を含んだ表現の方が性に合っているように思っていた。久しぶりにそういうのを全身に浴びた感じで悪くない。何より「でも実は本当に聴いて欲しいのはこのバラードです」みたいなのが一切なく、ええおっさんらが最初から最後まで人を食った音楽で飛ばすのがいい。大人の音楽だ。




HOW TO SOLVE OUR HUMAN PROBLEMS
Belle And Sebastian
★★★★☆

Matador (2017)
OLE-1123-2

■ Sweet Dew Lee
■ We Were Beautiful
■ Fickle Season
■ The Girl Doesn't Get It
■ Everything Is Now
■ Show Me The Sun
■ The Same Star
■ I'll Be Your Pilot
■ Cornflakes
■ A Plague On Other Boys
■ Poor Boy
■ Everything Is Now (Part Two)
■ Too Many Tears
■ There Is An Everlasting Song
■ Best Friend
「失われた青春の悔恨」ことベルセバの2年ぶりの新譜。昨年末から5曲入りのEPを3枚連続でリリース、それを1枚にまとめる形でリリースされたアルバムだ。スチュアート・マードックの声は相変わらず細く、頼りないのだが、その心許なさが無二の記名性になるところがいつもながらすごい。もう今となっては癒しようもない傷に毎回チクチクと触ってくるやり口は変わっておらず、こっちも毎回それを期待しているという倒錯した世界だ。

用心深く、周到に構築された、本当はどこにもなかった青春の悔恨。パラレル・ワールドのように、もしかしたらこうであったかもしれない架空の世界。しかし、それらがすべて、卓抜なソングライティングの上に成り立つものであることは間違いない。どの曲もしっかりとしたフックを持ち、印象に残るフレーズを具えているし、曲想はバラエティに富んでおり、マードックの音楽的な素養と引き出しの豊富さを示していると言えるだろう。

特徴的なのは、そうした音楽的な振幅の広さにも関わらず、アルバム全体があるひとつのトーンに貫かれていることだ。彼らのアルバムのジャケットはどれも単色で印刷されてきたが、その単色の景色のようにすべてを自らの世界に回収してしまうその吸着力は他には見られないもの。ここにあるのは音楽というよりひとつの世界観であり、「我々の人間性の問題の解決法」というタイトルはまったく冗談ではなく真摯なもの。聴くべき音楽。



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