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COLORS
Beck
★★★★

Capitol (2017)
00602557176797

■ Colors
■ Seventh Heaven
■ I'm So Free
■ Dear Life
■ No Distraction
■ Dreams
■ Wow
■ Up All Night
■ Square One
■ Fix Me
僕の中ではベック無謬伝説というのがあって、この人の作品はいつでも「現代において誠実にポップ・ミュージックと向き合おうとするとこうなりますよね」的なものを実にまっすぐ放ってくる。真面目で才能のある人だと思う。童顔だし。ただそうはいっても作品ごとに見ればいろいろ試行錯誤もしている。そして今作はどうしちゃったんだというくらいアッパーでポップ。もう冒頭から特急電車みたいに飛ばしまくっているのが微笑ましい。

過去の名作と言われるロック・アルバム、ポップ・アルバムと比肩し得るものを作ろうという意気込みのおかげで、本作の制作には年単位の時間がかかったという。それだけ緻密に、隙なく作り上げられた作品が、しかしこれ以上ないくらいアゲアゲのパリピ的にも聴くことのできるものになったのは示唆的だ。それはつまり本作にブチこまれた彼の時間とか熱量がすごくオープンに放射されて、その結果「普遍」に近づいているということだ。

もちろんそれは単に耳触りのいい、分かりやすくて調子のいい曲を作ればいいということではない。名作と呼ばれるアルバムは、一聴すればどれも恐ろしく簡潔で平易なのに、いざそれに近づこうとするとそれは途端に迷宮のような難事業になるとベックは語っている。本当にリスナーの深いところを強く打ち、刻印のようにずっと残って行く種類の平易さというのは、結局のところ表現の本質をどれだけ端的に示せるかということなのだろう。




ADIÓS SEÑOR PUSSYCAT
Michael Head & The Red Elastic Band
★★★

Violette (2017)
VIO-025-CD

■ Picasso
■ Overjoyed
■ Picklock
■ Winter Turns To Spring
■ Working Family
■ 4 & 4 Still Makes 8
■ Queen Of All Saints
■ Josephine
■ Lavender Way
■ Rumer
■ Wild Mountain Thyme
■ What's The Difference
■ Adios Amigo
レッド・エラスティック・バンド名義では初めてのフル・アルバム。2013年に同じ名義でリリースした実質4曲入りのミニ・アルバムを別にすれば、2006年のシャックのアルバム以来、10年以上も待たされたマイケル・ヘッドの新譜である。渋谷のタワレコをブラブラしていたら店頭にフェイス陳列されていて、我が目を疑いながらも最後の1枚を小躍りしてレジに持って行った。やはりネットだけじゃなくて実店舗に行ってみるのは重要だな。

ここしばらくのマイケル・ヘッドの作風どおり、スリー・フィンガー・ピッキングやワルツの落ち着いた曲が中心だが、リズムを前面に出した曲やピアノ・バラードもあって曲想のバラエティはある。ただ、気になるのはマイケル・ヘッドのボーカルがどれもボソボソ歌う系で盛りあがりというか華に欠けるところ。もう今さらジャカジャ〜ンのギター・ポップを求める訳ではないが、全体に曲調が暗く、地味でとっつきにくいのは否めない。

もちろん曲自体はしっかり作られているし、時間を取って聴きこめばそこに深い奥行きがあるのは分かる。マイケル・ヘッドがストランズあたりから顕著に曲本位、歌本位になって行った延長線上にこの作品もあるが、この中では静謐で美しい『Winter Turns To Spring』や珍しく楽天的な『Adios Amigo』などが印象に残る。こうやって曲の形で自分の中の何かを外に汲み出すことが、彼自身の自己療養にもなっているのではないかと思う。




SCREAM ABOVE THE SOUNDS
Stereophonics
★★☆

Parlophone (2017)
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■ Caught By The Wind
■ Taken A Tumble
■ What's All The Fuss About?
■ Geronimo
■ All In One Night
■ Chances Are
■ Before Anyone Knew Our Name
■ Would You Believe?
■ Cryin' In Your Beer
■ Boy On A Bike
■ Elevators
イギリスでは人気の高いバンドだというのだが、彼らの音楽を好んで聴くのはどういう層の人たちなんだろうといつも思う。特にイノヴェーションがある訳でもない、実存の本質に迫る訳でもない、ある意味すごくベタで分かりやすい、ロックというと多くの人が想像するようなロックである。批評的に音楽を聴く人たちやスタイルに敏感な人たちが喜んで聴くとも思えない。ある種のロック演歌的なものではないかと僕は以前から疑っている。

それでも彼らの音楽は多くの人たちの感情をヒットする。それはロックがもともと高尚なものでも何でもなく、やり場のない若いエネルギーを手っ取り早く燃焼させるためのイージーな発火剤であり、その意味で平易な、下世話な音楽であることと呼応している。彼らはそのロックの原初的な平易さ、下世話さをただただ真面目に煎じ詰め、小難しい理屈みたいなものをすべて削ぎ落としてきたからこそ、意外なほど広範な支持を得てきたのだ。

今作では曲の意匠も多様化しているし、アルバムとしてのメリハリもついて作品としてまとまっているが、何よりここで聴くべきなのはガツンと音がするほど正面からまともに鳴らされるハイ・ナンバーの数々だ。徹底して確信的で、徹底して無反省な、ただリスナーにできる限り直接響くことだけを目指した音楽だ。きちんと作られた曲を生真面目に演奏することでだけたどり着ける地点への旅、それがロック演歌ならそれはそれで構わない。




WHO BUILT THE MOON?
Noel Gallagher's High Frying Birds
★★★★☆

Sour Mash (2017)
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■ Fork Knox
■ Holy Mountain
■ Keep On Reaching
■ It's A Beautiful World
■ She Taught Me How To Fry
■ Be Careful What You Wish For
■ Black & White Sunshine
■ Interlude (Wednesday Part 1)
■ If Love Is The Law
■ The Man Who Built The Moon
■ End Credits (Wednesday Part 2)
ノエル・ギャラガーのアルバムといえばギター・オリエンテッドなグッド・メロディを中心にフィーチャーしたオーソドックスな作りのフォーク・ロック的なものを想像していて、まあ、もちろん買いはするものの、そこまでイノベイティブなものが出てくるとはまったく期待もしてなかったが、プライマル・スクリームの「More Light」を手がけたデヴィッド・ホルムズをプロデューサーに迎えて制作した本作には正直驚いた。これはすごい。

もちろん曲の骨格になっているのは間違いなくノエル・ギャラガー謹製のグッド・メロディであり、それがあるからこそ成り立っているアルバムではあるのだが、サイケデリックでダンサブルなサウンド・アプローチは、オアシス時代も含めてこれまでになかった大胆なもの。だが、それが上滑りなものにならず、ノエル・ギャラガーの曲想を深め、表現の間口を広げる方向にきちんと機能している。これはデヴィッド・ホルムズの手腕だろう。

これだけの冒険を軽々と消化してしまうノエルの力量も確かなもので、二つの才能が高いレベルでかみ合ったからこそ生まれた作品だ。できればオアシスの3作目くらいにこういうアプローチがあって、リアムがあの声で歌ってくれればと思わずにはいられないがそういうのはもうそろそろやめにする頃か。前月レビューしたリアムのソロも悪くなかったが、同じ時期にこういうレベルの違う作品をぶつけてくるノエルも人が悪い。必聴の名作。




SONGS OF EXPERIENCE
U2
★★★

Universal (2017)
5797699

■ Love Is All We Have Left
■ Lights Of Home
■ You're The Best Thing About Me
■ Get Out Of Your Own Way
■ American Soul
■ Summer Of Love
■ Red Flag Day
■ The Showman (Little More Better)
■ The Little Things That Give You Away
■ Landlady
■ The Blackout
■ Love Is Bigger Than Anything in Its Way
■ 13 (There Is A Light)
2014年にリリースされた前作「Songs Of Innocence」と対をなす作品だそうで、もとはウィリアム・ブレイクの「無垢と経験の歌」という詩集に由来しているらしい。まあ、そんなことはどうでもよろしい。もともと英系のニュー・ウェーヴ系が好きな僕としてはストライク・ゾーンに入ってくるバンドのはずなのだが、U2についてはあまり真面目に聴かないままここまで来てしまった。もちろんアルバムは持っているが思い入れは強くない。

なんでかと言えばおそらくは同じ英系のニュー・ウェーヴとはいえアイルランドの文化的に大雑把そうなところがちょっと違う感あるのと、何か大真面目過ぎて洒落っ気とかユーモアとかが決定的に足りてなくて、冗談も面白くない、要は無骨過ぎて「機微」みたいなものと無縁なところが同時代の英系のバンドととの違いだったのだと思っている。ところが20年の歳月を経てスタジアム級になり大御所として生き残ったのはこっちだったと。

今作を聴いて最初に感じたのは、ボノの声ってこんなに優しかったのかということ。すべての共感と反感に等しく「オマエもな」と言い放ってきたのがU2(You Too)というバンドの歴史だったと思うが、既に何かを指弾する必要すらなく、そこにいて歌うだけで自分が世界の一部であり得るということに彼らは気づいたのだ。ギターの切っ先を世界に突きつけなくても、世界は勝手にテンパって行く。相変わらず生真面目でユーモアはない。



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