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MELLOW WAVES
Cornelius
★★★★☆

Warner (2017)
WPCL-12660

■ あなたがいるなら
■ いつか / どこか
■ 未来の人へ
■ Surfing on Mind Wave pt 2
■ 夢の中で
■ Helix / Spiral
■ Mellow Yellow Feel
■ The Spell of a Vanishing Loveliness
■ The Rain Song
■ Crépuscule
僕にとってコーネリアスは、どんどんあっち側に行っちゃって、音楽的なレベルはどんどんアップしちゃってるんだけど、日常に聴ける歌ものの世界からは遠ざかって、アルバムも買った時には聴くけどその後あまり聴き返すこともない、教養として、情報として押さえておく系の音楽のカテゴリーに完全に入っちゃってた。11年ぶりの新譜となる本作でも、一応買ってはみるものの、僕の日常とどの程度フックするのかはすごく懐疑的だった。

ところが実際に聴いてみるとアルバム全体が意外なほどすんなりと耳に入ってきた。もちろんアンビエントだったりエクスペリメンタルだったりして、当たり前の歌ものじゃないのは変わっていない。しかし、その向こうにある小山田の肉声とか、シンプルで耳に残るメロディとか、鮮やかで明快なイメージとかが示唆するものは、明らかに僕たちのモータルな生へのコミットメントであり、歌というものがどういうものであり得るかの問いだ。

さらに言えばそれは、フリッパーズ・ギターから25年が経ち、フジロックで小沢と小山田が同じ日に別々のステージに立つ21世紀初頭の世界にあって、彼らの、僕たちの子供たちが聴く音楽のプロトタイプを探す試みであり、これらはすべてグローバリズム時代の童謡再興運動に他ならないのだ。究極のポップは、不要なものをできる限り削ぎ落とし、ミニマルに、身軽になって、コアだけを最短距離でデリバリーする方法論を要求する。名作。




CRACK-UP
Fleet Foxes
★★★

Nonesuch (2017)
7559-79373-3

■ I Am All That I Need / Arroyo Seco / Thumbprint Scar
■ Cassius,-
■ - Naiads, Cassadies
■ Kept Woman
■ Third Of May / Odaigahara
■ If You Need To, Keep Time On Me
■ Mearcstapa
■ On Another Ocean (January / June)
■ Fool's Errand
■ I Should See Memphis
■ Crack-Up
フリート・フォクシーズの6年ぶり3枚めのアルバム。このバンドについては多くを知らないが、シアトル出身で「アメリカの至宝」と評されているらしい。セカンド・アルバムには微妙なレビューを書いた記憶があるのだが、その後、ファースト・アルバムを遡って買ったりもしているのでそれなりに気に入っていたのか。ともかく、大ぶりでオーソドックスなフォーク・ロックというのが一般的な説明で、今作もそんな感じに仕上がっている。

ジャケットは福井県の東尋坊、収録曲には奈良県の大台ケ原の名を冠したものもあり、日本がテーマになっているらしい。琴の音も取りこまれているらしいがよく分からない。一般に、海外のバンドが東洋やら禅やらにかぶれて作った芸術作品にロクなものはなく、特にこのバンドのようにオーガニックなヤツはヘンな方へ行ってしまうリスクが高い。同じ日本でも渋谷、秋葉原じゃなくて東尋坊、大台ケ原となればかぶれ方も筋金入り感ある。

前作のレビューで「僕の嫌いな言葉のベスト・スリーは『エコ』『オーガニック』『ヘルシー』である」と書いた通り、大自然とお友達的な音楽は嫌い。このアルバムも「壮大で」「美しいハーモニーが」「牧歌的な」と僕的にはNGワードで形容したレビューが多いが、それでもここに「エコもの」特有のインチキ臭さが感じられないのは、求道的な自然観が、分断と憎悪の時代に対する危機感を仲立ちに接地しているからか。牧歌的とは違う。




TOGETHER AT LAST
Jeff Tweedy
★★★☆

dBpm (2017)
7534-2

■ Via Chicago
■ Laminated Cat
■ Lost Love
■ Muzzle Of Bees
■ Ashes Of American Flags
■ Dawned On Me
■ In A Future Age
■ I Am Trying To Break Your Heart
■ Hummingbird
■ I'm Always In Love
■ Sky Blue Sky
ウィルコのフロントマン、ジェフ・トゥイーディのソロ・アルバム。ギターによる弾き語りのスタイルで、ウィルコやその他のサイド・プロジェクトの楽曲のセルフ・カバーを中心に収録している。純粋なオリジナル・アルバムとは言えないかもしれないが、ぎりぎりまで装飾を取り払うことで、彼の音楽の根底にあるものが顕わになった作品だということができるのではないか。地味ではあるが、曲そのものに内在する力でドライブして行く。

オルタナ・カントリーなどと呼ばれる通り、ウィルコの音楽はカントリーをベースにしていながらも常にどこか歪んだ不穏な雰囲気をたたえており、決して牧歌的なカントリー&ウェスタンには回収されない訳だが、ここではその理由がそもそものソングライティングにあるのだということがよく分かる。そこには確実に予定調和を拒み、世界に対して「オレは今ここにいる」ことを申し立てずにいられない差し迫った焦燥のようなものがある。

これを聴いて2014年に出たトゥイーディ名義のアルバムを改めて引っ張り出してみた。これはジェフが息子と共に制作したプロジェクトだが実質的にはソロ・アルバム。聴いたときにはいいなと思いつつも2枚組20曲1時間12分のボリュームにさすがに集中がもたない感があったのだが、改めて聴くと曲のよさが際立つとともに、誠実でオーソドックスな演奏にも好感が持てる。セットで聴くことをお勧めする。音楽の力を強く感じるアルバムだ。




EVERYTHING NOW
Arcade Fire
★★★☆

Sonovox (2017)
7534-2

■ Everything_Now (continued)
■ Everything Now
■ Signs Of Life
■ Creature Comfort
■ Peter Pan
■ Chemistry
■ Infinite Content
■ Infinite_Content
■ Electric Blue
■ Good God Damn
■ Put Your Money On Me
■ We Don't Deserve Love
■ Everything Now (continued)
4年のインターバルでリリースされた5枚めのアルバム。前々作で初めて聴いたのだが、正直あまりはっきりした印象がないまま今回も取り敢えず買ってみた。とにかく頭からアゲアゲのディスコ・ナンバーで、いったい何が起こったのか分からないがおそらくはヤケクソではないのかと思われるくらいの勢い。ポップというより病的な躁状態とでも言った方がいいのではないかという曲が次から次へと押し寄せてくるのがマジ容赦ない感じだ。

それはまるでテレビから間断なく流れるコマーシャル・メッセージを思わせる。内省を許さずひたすら情報の密度とスピードを上げることだけを目的にした極限まで機能的な音楽を彼らは模しているのであり、それはそのような思考のオーバーフローによって社会を要領よく「A」と「Aでないもの」に分断して行く情報資本主義への痛烈な批判だ。いや、それはむしろ悲鳴に近いものかもしれない。そうでなければこの暑苦しさは出せないわ。

それでもこれが有効なのは、ここにロックとして、表現としての強度があるからであり、シリアスな批評性があるから。毎秒分断されて行く世界にあって、そのことを的確に告発するためにはもはやシリアスな顔をしている余裕すらない。そこにある音楽に合わせてダンスする以外の選択肢はない世界で、彼らは遠くまで声を届けるための通用力こそが批評であることを看破したのだ。「アゲアゲかよ」と笑いながら聴くのが、たぶん正しい。




PAINTED RUINS
Grizzly Bear
★★★☆

RCA (2017)
88985-43579-2

■ Wasted Acres
■ Mourning Sound
■ Four Cypresses
■ Three Rings
■ Kosing All Sense
■ Aquarian
■ Cut-Out
■ Glass Hillside
■ Neighbors
■ Systole
■ Sky Took Hold
彼らの音楽を初めて聴いたのは5年前の前作「Shields」だった。ここ数年、僕の聴く音楽が英系のインディペンデント、ギター・ロックから、どちらかといえばアニマル・コレクティヴあたりを筆頭とする米系のオルタナティブにシフトして行く中で聴いてみたのだったが、その時に感じたことは、ひとことで言って分かりにくく地味で生真面目。現代という時代に誠実に向き合おうとすれば必然的にそうなるということなのだろうかと思った。

本作でもその印象は変わらない。人類がとっくに克服したとばかり思っていた核兵器の恐怖がにわかに現実味を帯びる意味不明な2010年代にあって、いったいそうした状況が僕たちの意識のどこに根差しているのか、まるでリアルな夢判断のように解き明かそうとするのがこのアルバムだ。混濁した意識の海をたゆたうように、遠くから聞こえてくる旋律が自分の中の以前からある何かと呼応するのを見るように、彼らは現実の在処を探るのだ。

その営みは真摯なものであり求道的なものですらある。ポップ音楽として聴くにはいささか息苦しいのが憾みだが、その生真面目さは決して退屈なものではない。なぜならそこには、それを大衆音楽としてマスに届けなければならないという認識があるからだと思う。難解な実験ではなく、共通の危機感を持つ人に広く共有され得るポップ音楽のフォーマットを借りて、この状況が僕たちの意識と繋がっていることを彼らは伝えようとしている。




THE ECHO OF PLEASURE
The Pains Of Being Pure At Heart
★★★

Painbow (2017)
OTCD-6009

■ My Only
■ Anymore
■ The Garret
■ When I Dance With You
■ The Echo Of Pleasure
■ Falling Apart So Slow
■ So True
■ The Cure For Death
■ Stay
■ Violet & Claire
僕は大学生の頃からネオアコ、ネオサイケ、パンクなど、おもにイギリスのインディペンデント系の音楽を偏愛してきた者であり、特にジーザス&メリー・チェインとかマイ・ブラディ・ヴァレンタインとかプライマル・スクリームとかのクリエーション・レーベル系のアーティストを好んで聴いていた。そういう魂の遍歴を経た者だけが「それな」とつぶやいてニヤリと笑うことのできる音楽、それがこのペインズ・オブ・ビー何とかである。

今月のレビューでも、フリート・フォクシーズ、アーケイド・ファイア、グリズリー・ベアと来てこれを聴くと、何か懐かしい故郷に帰ったようにホッとする。そうそう、こういうギターの感じ、こういう曲の作り、この若気の至り感、これがオレの青春だよという感じがする。しかしこのアルバムは2017年の作品であり、アメリカ人キップ・バーマンのプロジェクトだ。コンテンポラリーな音楽であり、何かのパロディやオマージュではない。

デビューの頃にはネオ・シューゲイズ的な評価のされ方もあったが、さすがに5枚めのオリジナル・アルバムともなる本作では、決して伊達や酔狂ではなく、これがこの人の骨身に沁みついたひとつの業なんだろうと思わせる。ここにあるのはいかにも80年代英系インディーズをプロトタイプとしながらも、決して実際には鳴らされなかった架空のC86であり、だからこそ純度が高く現代にフックするのだろう。それにしてもバンド名何とかしろ。



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