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KICKING UP THE DUST
Cast
★★★

Cast Recordings (2017)
CST001CD

■ Kicking Up The Dust
■ Roar
■ Do That
■ Further Down The Road
■ Paper Chains
■ Birdcage
■ Every Little Thing You Do
■ Baby Blue Eyes
■ How Can We Lose
■ Clear Blue Water
■ Out Of My Hands
2001年のアルバム「ビート・ルート」のあといったん解散、2012年に再結成して制作した前作から5年のインターバルでリリースされた通算6枚目のオリジナル・アルバム。とはいえその間2003年と2006年にはジョン・パワーとしてソロ・アルバムを出しており、今確認してみたがキャストもジョン・パワーも旧譜は全部持ってた。おしなべて高い評点をつけているのだが、過去のレビューでもれなくラーズに言及しているのには我ながら笑えた。

まあ、ラーズとか、デビュー曲の『オールライト』とかをとっかかりに書き始めるとやりやすいというのは確かにあるので仕方ないんだけど、本作はこれ自体としてすごくしっかりしたポップ・アルバムに仕上がっているので、それを引き合いに出す必要もない。もともとポップでオーソドックスな曲作り、音作りを得意とする人で、ブリット・ポップの文脈から出てきたバンドだが、それを思い起こさせる分かりやすさ、オープンさが特徴だ。

アクの強いメロディ・ラインや聴き違えようのないしゃがれ声など、はっきりした記名性があるのは何よりの武器であり、もちろんここでもそれは健在だが、ギター一本弾き語りみたいな作品もあったソロ時代と異なり、このアルバムでは表現としてより多くの人によりリアルに伝えたいというコミュニケーションへの意志が明確だ。古いつきあいなので買ってみたがきちんと現役感があって嬉しかった。謝辞にアラン・マッギーの名前がある。




ROCK N ROLL CONSCIOUSNESS
Thurston Moore
★★★★

Caroline (2017)
CAROL 001 CDJ

■ Exalted
■ Cusp
■ Turn On
■ Smoke Of Dreams
■ Aphrodite
ソニック・ユースのフロント・マンだったサーストン・ムーアの3年ぶり5作めのソロ・アルバム。前作に参加したメンバーと制作されているが、このメンバーはツアーにも同行しており、継続して活動を共にするバンドと考えていいのかもしれない。マイ・ブラディ・ヴァレンタインのデビー・グッギがベースを担当。プロデューサーはプライマル・スクリーム、コールドプレイ、フレンドリー・ファイアズなどを手がけたポール・エプワース。

収録曲は5曲のみだが、10分越え2曲を含む長尺の作品ばかりで演奏時間は44分と完全なフル・アルバム。サーストン・ムーアっぽいカタルシスのないコード感とか、表面はひんやりしているのにその奥に熱がこもった不穏な感じとかは、ソニック・ユースをずっと聴き続けてきた耳にはストレートに入ってくる。すごくフリーキーで先鋭的な音楽でありながら、同時にすごく真面目でインテリジェントな音楽でもあるところは変わりようもない。

しかし、本作で特に顕著なのは、そのようなエクスペリメンタルで硬質な音楽でありながら、おそろしくポップで分かりやすい、聴きやすいということである。それはポール・エプワースの手腕なのか、サーストン・ムーア自身の表現の熟成なのか、あるいは考えてみればソニック・ユースの頃から彼の書くメロディ自体はいつも外部に開かれていたのかもしれない。本質的には内省的な音楽だが、メロディをフックにコミットする名作。必聴。




HUMANZ
Gorillaz
★★★☆

Parlophone (2017)
0190295851170

■ Ascension
■ Strobelite
■ Sturnz Barz
■ Momentz
■ Submission
■ Charger
■ Andromeda
■ Busted And Blue
■ Carnival
■ Let Me Out
■ Sex Murder Party
■ She's My Collar
■ Hallelujah Money
■ We Got The Power
世界で最も有名なバーチャル・バンド、ゴリラズのオリジナルとしては4枚めとなる7年ぶりのアルバム。当初は単なるフェイクかと思っていたが、今となってはデーモン・アルバーンの活動の中でも中心的なプロジェクトになった感がある。もしかしたらブラーより有名かもしれない。本作ではヴィンス・ステープルズ、ベンジャミン・クレモンタインら気鋭のアーティストを初め多くのゲストをフィーチャー、実に26曲収録の意欲作となった。

デーモンはヴィンス・ステープルズに「トランプが大統領に当選した想定で書いてくれ」と言って曲を依頼、「そんなアホな」と言いつつ書いたらその通りになったというエピソードが紹介されているが、実際このアルバムは極めて政治的なコミットメントである。もちろん、音楽的にはカラフルであり、スタイルは現代的であり、ゲストはそれぞれエッジの効いたいい仕事をしているが、そこに通底するのはコンテンポラリーな危機感である。

かつてジョン・レノンが「人民に力を」と歌った時、そこには倒すべき敵があり、彼我の区別は容易だった。しかし、トランプやブレグジットなどポピュリズムが制御不能になりつつある世界では、主体は分断され、党派は無力だ。そんな中で政治的にコミットすることは極めてリスキーであり難しいのだが、バーチャル・バンドという仕掛けがそれを奇跡的に可能にした。一種の「劇中歌」として歌うことで現代のアポリアを露わにした快作。




SLOWDIVE
Slowdive
★★

Dead Oceans (2017)
DOC132

■ Slomo
■ Star Roving
■ Don't Know Why
■ Sugar For The Pill
■ Everyone Knows
■ No Longer Making Time
■ Go Get It
■ Falling Ashes
シューゲイザーのパイオニアということになっているスロウダイヴが22年ぶりにリリースした新しいアルバムである。この間バンドは1995年に解散、2014年にフェスで再結成して今回アルバムの発表にこぎつけたらしい。僕はこのバンドはなぜか現役の時に全然聴いておらず、何年前かに廉価版のセットで旧譜をまとめて買ったもののほぼ印象ない。まあ、シューゲイザーというカテゴライズ自体がええ加減というか便宜的なものではあるが。

僕としてはシューゲイズと言われて連想するのはマイブラ、ライドなのだが、ここ数年のネオ・シューゲイズ的な一連のバンドの音を聴いてもピンと来ず、やはりマイブラもライドも、何ならジザメリも結局唯一無二のものだったのだし、それをひとくくりにすること自体がピント外れなのだという感を強くする一方、ではそのネオのなんちゃってシューゲイズはどこから来るのかと思っていたのだが、このバンドあたりがそれだったようだ。

クリエーション出身のバンドだが、音的には4ADあたりを連想させる耽美系、きらきら系、浮遊系であり、そうか世間的にはこれがシューゲイズなのかと思わされるが、マイブラやライド、ジザメリの切った張った感に比べれば完全に雰囲気シューゲイズ。ロックというよりデパートのエレベータで流れるイージーリスニングに近いもの。もうシューゲイズというカテゴライズ自体を信用しないことにした。靴を見つめてる時代は過ぎたのだ。




A KIND REVOLUTION
Paul Weller
★★★

Parlophone (2017)
DOC132

■ Woo Se Mama
■ Nova
■ Long Long Road
■ She Moves With The Fayre
■ The Cranes Are Back
■ Hopper
■ New York
■ One Tear
■ Satellite Kid
■ The Impossible Idea
スタイル・カウンシルを始めた頃のポール・ウェラーは、やせっぽちでナイーヴそうで生意気で冷笑的で視線だけ鋭かった。その時ウェラーは25歳とかそんなだった訳で、スタカンは彼の20代後半から30代頭までのプロジェクトだったことになる。僕にとってウェラーは後追いで遡って聴いたザ・ジャムよりはスタカンの人で、そういうムダにとんがって才気走ったイメージ、つまりはある種の少年性が彼の属性としてずっと頭の中にあった。

あれから30年以上、ソロとしてのキャリアをスタートさせてからでも25年が過ぎ、ウェラーも還暦目前になった。ソロになってからのウェラーは、ソウル・ミュージックをベースにした重心が低めのギター・ロックで常にシーンに一定の存在感を示してきた。その歩みは、余計な気負いを捨てどんどん自然体になって、「結局のところ残るのはこれだ」みたいなロック表現の核にどれだけ最短でアプローチするかという試行錯誤だったと思う。

本作も当然その流れの上に位置づけられるものだが、何か最近はさらに自由度の拍車がかかってる。基本的にはソウル・ベースのおっさんロックだが、要はやりたいことをやってるだけでカッコええ状態。もちろん曲がいいのは大前提としてあるが、もはやスタイル評議会に出品するまでもなくその時にやりたいことをがっちりやれば素でここまでできるということと、それが2017年においても前衛であり得るということ。ゴツいおっさんだ。




DIFFERENT DAYS
The Charlatans
★★☆

BMG (2017)
538279092

■ Hey Sunrise
■ Solutions
■ Different Days
■ Future Tense
■ Plastic Machinery
■ The Forgotten One
■ Not Forgotten
■ There Will Be Chances
■ Over Again
■ The Same House
■ Let's Go Together
■ The Setting Sun
■ Spinning Out
通算13枚めのオリジナル・アルバム。今作ではニュー・オーダーのスティーヴン・モリスをドラムに迎えた他、ジョニー・マーが一部の曲でギターを担当するなど豪華なゲストを招いて制作された。全体としてはストレートでオーソドックスなロック。何だかんだ30年近く活動しているバンドとしての実力、地力を示すような、地に足のついた実直なグルーヴが印象に残る。少なくとも音楽的にはとても真面目でまともな作品だと言っていい。

もう少しチャームとかフックとか何かとっかかりになるものがあったり、ユーモアのセンスがあったりすればいいとも思うが、もともとハモンドを多用しダンス・フロアを意識した所謂「マッドチェスター」に連なるバンドとして、淡々とビートとグルーヴが続いて行くようなアンチ・クライマックスに特徴があるのはそもそもの持ち味か。初期の頃を思い出させるメロディの手クセが窺える曲もあったりして、聴くほどに味が出る感じする。

本国でこそ3枚のチャート1位アルバムを出すなど安定した人気を誇るがアメリカではほぼ認められず、その意味ではメガ・バンドという訳ではない。デビュー時のハイプ的な人気を堅実なソングライティングでしっかり着地させ、メンバーの死などのアクシデントを乗り越えて居場所を確保してきた。何か音楽的なイノベーションがある訳でも、才気走ったきらめきがある訳でもないが、一介のロック・バンドとしての矜持を感じさせる作品。




WEATHER DIARIES
Ride
★★☆

Wichita (2017)
WEBB510CDL

■ Lannoy Point
■ Charm Assault
■ All I Want
■ Home Is A Feeling
■ Weather Diaries
■ Rocket Silver Symphony
■ Lateral Alice
■ Cali
■ Integration Tape
■ Impermanence
■ White Sands
2017年にライドの新譜をレビューすることになるとは思わなかった。青春の出来心だったからこそ価値があったようなバンドに再結成とかあるのかというのが正直な思いだが、新譜が出れば当然買うのは仕方ない。いったいどんな作品に仕上がっているのかと怖々聴いてみたが、意外にというか当然というか、すごく穏当でまともな英系のギター・ロックというかパワー・ポップ的な感じ。期待をいい方にも悪い方にも裏切らない感じというか。

そもそも僕はライドの何が好きだったのか改めて考えてみたのだが、彼らの印象というのは最初に出した2枚のEP(所謂「赤ライド」と「黄ライド」)の、歌メロもミックスのバランスも無視した無茶苦茶なギター・ドリヴンの押し寄せる感であった。抗いようもなく暴力的に押し流される天災のように圧倒的なエネルギーの奔流であった。それはファースト・アルバムの時点ですら既に失われていた、出会い一発の瞬間芸のようなものだった。

その後のライドのアルバムはもちろん買ったが、今考えればほとんど印象にも残っていない。バンドとして、音楽としてのバランスが整うに連れて、その表現はどんどん凡庸になり、特徴を失って行くように僕には思えたのだ。このアルバムも、彼らのそうしたデビュー・アルバム以後の流れを誠実に引き継いだものだと言えるだろう。悪くはないが、そこには時代をヒットするものはもはやない。シューゲイズを期待すると失望するアルバム。




新たな方角へ
HARCO
★★★☆

witz (2017)
UVCA-5005

■ Monday Mornings
■ 東京テレポート
■ 春のセオリー
■ 北斗七星
■ TOKIO
■ 期待の星
■ Let Me Out
■ 親子のシルエット
■ 秋めく時間たち
■ ロングウェイホーム
■ あらたな方角へ
前作から2年のインターバルでリリースされたアルバム。HARCO名義では最後のアルバムとなり、今後は本名の青木慶則で活動することになるという。青木慶則とHARCOの間には、例えば小山田圭吾とコーネリアスや、ロディ・フレームとアズテック・カメラなどとはまた違った関係があった。青木慶則というソングライターの生身の存在感がHARCOというフィルタを通ることで「脱色」され、歌そのものが抽象的に立ち現われる構造があったのだ。

それは青木が意図したことだったのかどうか分からないし、また青木が「本名」を取り戻そうと考えたこととリンクしているのかも分からないが、HARCOというのは「名義」ではなく、一種の装置とか仕掛けとして機能していたと僕は思う。それはおそらく、青木自身の「息遣い」をいったんミュートすることでソングライティングを自由にする一方、青木が伝えようとする表現のコアみたいなものも一緒に「面取り」していたのかもしれない。

本作でも、丹念なソングライティングや、オーソドックスでありながら細かいところに工夫のあるアレンジなど、HARCOらしい行き届いた都会的なポップ・ミュージックに仕上がっている。山田稔明、伊藤俊吾、山崎ゆかりら仲間たちの協力も得ながら、HARCOというフィルタを通ることで獲得した表現としての自由度を、そのまんま全部ポップ・ソングとしての完成度にブッ込んだ感じ。伊藤との共作による『秋めく時間たち』が印象に残る。



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