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IN BETWEEN
The Feelies
★★★☆

Bar/None (2017)
BRN-CD-250

■ In Between
■ Turn Back Time
■ Stay The Course
■ Flag Days
■ Pass The Time
■ When To Go
■ Been Repleced
■ Gone Gone Gone
■ Time Will Tell
■ Make It Clear
■ In Between (reprise)
おさらいしておくと、フィーリーズは1980年に伝説の名盤「Crazy Rhythms」でデビューし、1991年までに4枚のアルバムを残したが解散したアメリカのバンドだ。その後、2008年に活動を再開し、2011年に20年ぶりになる5枚めのアルバムをリリース、今作はそれから6年ぶりになる6枚めのアルバムである。ドラマーにアントン・フィアを擁して制作したデビュー作は性急なビートが特徴的で、その後のアーティストに与えた影響も大きかった。

ドラマーが替わったこともこともあってか、セカンド以降は比較的穏やかでオーソドックスなギター・ロックに傾斜して行ったが、本作も前作同様、その延長線上にあるアルバムだ。とはいえ、枯れたおっさんらが弛緩したギターをベンベン鳴らしているだけのレイド・バックしたアルバムではない。枯れてはいるが生枯れではなくカラカラに乾いている。火をつければパチパチとはぜながらすぐに燃え上がるような、不穏な極度乾燥感がある。

それは、彼らの音楽がありふれた情緒やマチズモとは異なった種類の燃料であることを示している。最後に収録されたタイトル曲のリプリーズで展開される狂ったようなインプロビゼーションがおそらくは彼らの根っこにあるもの。このバランスのおかしさを秘めたまま枯れてしまったので、可燃性は高まり、気温が上がるだけで自然発火しそうなのがヤバい。枯れるならこういう枯れ方をしたいというロックの年のとり方を提示した意欲作だ。




DIRTY PROJECTORS
Dirty Projectors
★★★★☆

Domino (2017)
WIGCD325

■ Keep Your Name
■ Death Spiral
■ Up In Hudson
■ Work Together
■ Little Bubble
■ Winner Take Nothing
■ Ascent Through Clouds
■ Cool Your Heart
■ I See You
変調され、歪められ、切り刻まれた声。極めてエレクトリックでありテクノロジカルな音楽なのに、それを構成するひとつひとつの元素はどこまで行っても声であり、「人の声」に対するここまでの執着がどこから来るのかがこのアルバムの最も重要な問いだ。自分の声をサンプリングしてあらゆる楽器の代わりにしたトッド・ラングレンの怪作『ア・カペラ』を思い出さずにはいられない。楽器も使用されてはいるが、聞こえてくるのは声だ。

前作から4年、バンド・メンバーでもあった女性との別離を経て、本作はデイヴ・ロングストレスのソロ・アルバムと言ってもいいような成り立ちだ。そういえば前作でも「声」への傾倒は明らかだったが、そこには男声と女声が互いに呼び合うインタラクティブなモメントがあった。今作では女声を失い、ロングストレスがただ月に吠える犬のような切ない自らの声を、変調し、歪め、切り刻んで音楽に仕立て上げた。極めて個人的な音楽だ。

しかし、これが単に失恋を歌った奇妙な音楽という狭い箱庭に自閉していないのは、ひとつひとつの楽曲デザインの達者さ、ソング・ライティングの質の高さゆえだと思う。最終的には言葉とメロディに帰着する「歌」としての切実さや普遍性が、この作品の意匠の今日性をむしろ裏書きしているのは興味深い。その意味ではボン・イヴェールの最新作とも同期する手ざわりがある。前作とはまったく異なる手法で前作以上の高みに達した作品。




I SEE YOU
The xx
★★★☆

Young Turks (2017)
YTCD161

■ Dangerous
■ Say Something Loving
■ Lips
■ A Violent Noise
■ Performance
■ Replica
■ Brave For You
■ On Hold
■ I Dare You
■ Test Me
これは密度の高い音楽である。コントレックスというミネラル・ウォーターがあるが、無味無臭の水なのにすごく口あたりが「濃い」感じがして飲みにくく、一気にゴクゴクやることができない。無味とは言ってもミネラルが大量に溶けこんでいる硬水なのでそれが「濃さ」として感じられるのだが、このアルバムを聴いてそれを思い出した。一聴すると爽やかなポップなのだが、イヤホンで聴くと耳あたりがとてつもなく「濃い」のである。

それでは、そこに詰めこまれた「ミネラル」に相当するものとは何だろうか。それはおそらく音楽としての情報量なのではないかと思う。歌詞、メロディ、アレンジ、それらすべての総体としての表現が伝えようとするイメージそのものが、とても比重の高いものなのだ。だが、耳あたりが濃いのにも関わらず、この音楽を聴くのは不思議としんどくない。それはダンス・トラックという機能性を持ちこんだことによる表現の対象化のせいか。

ファンファーレのようなオープニングから、このアルバムは一貫してポップでオープンである。それが、異様なほどの密度の高さ、耳あたりの濃さにも関わらず、表現自体の風通しとか多義性とかを保障し、リスナーにこのアルバムをどう聴くかの最終決定権を委ねている。ある種の緻密な音楽が解釈の余地を残さないほどガチガチの厳格さで表現を構築するのに対して、ここにあるのは緻密ではあっても鷹揚で自由な音楽。それが同時代的。




DAMAGE AND JOY
The Jesus And Mary Chain
★★★

Artificial Plastic (2017)
APR001CD

■ Amputation
■ War On Peace
■ All Things Pass
■ Always Sad
■ Song For A Secret
■ The Two Of Us
■ Los Feliz
■ Mood Rider
■ Presidici
■ Get On Home
■ Facing Up To The Facts
■ Simian Split
■ Black And Blues
■ Can't Stop The Rock
彼らのディスコグラフィをレビューしてすっかり完結した気になっていたら唐突にリリースされた19年ぶりの新譜。店頭で見つけて「どうせまた適当なコンピレーションだろう」と手に取ったら、オリジナル新作でのけぞった。半信半疑で買って帰ったが、聴いてみてまた大爆笑。あまりに無反省で何も変わっていない典型的なジザメリ節が、これでもかと聞こえてくるのだ。彼らにとって、僕にとって、いったいこの19年間とは何だったのか。

ここにあるのは甘く切ないメロディをドスの効いたギターに乗せて淡々と歌う、古き良きUKギターポップ。しかし驚くべきなのは、シューゲイザーの始祖と言われるこのスタイルが21世紀初頭の今日にあってもまったく古びていないことだ。おそらくこの人たちには成長とか成熟とかいう考え方はないのだろう。成長しないものは永遠に古くならない。成長を止めてブリキの太鼓をたたき続ける少年のように、彼らは音楽を垂れ流し続けるのだ。

もともと聴き手を必要としない、表現の産業廃棄物みたいな音楽だからこそ、徹底して無自覚にロマンチックであり得るのだし、20年経ってもまるでネバーランドのテーマ・ミュージックみたいにイノセントでいられる。そのような彼らの音楽の本質がよく分かるとともに、そうした方法論が現代においても、いや、このグローバリズムとポピュリズムの時代にこそ有効であることを示した作品。プロデューサーのユースがいい仕事をしている。



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