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LIGHT UPON THE LAKE
Whitney
★★★★☆

Secretly Canadian (2016)
SC337

■ No Woman
■ The Falls
■ Golden Days
■ Dave's Song
■ Light Upon The Lake
■ No Matter Where We Go
■ On My Own
■ Red Moon
■ Polly
■ Follow
シカゴで結成された男性デュオのデビュー・アルバム。新しいアーティストに手を伸ばすのを控えている中で、信頼できそうなメディアの評価が軒並み高く、そこで引き合いに出されているバンドの顔ぶれを見て、「2016年の新しモノ」として買ってみるかと思いきった作品。もはやジャンルを形容する言葉もたくさんあり過ぎて無効になりつつあるのを承知で言えば、オルタナティヴ・フォークとでもいうか、ウィルコあたりを感じさせる音。

基本的には既存のポップ音楽のフォーマットを尊重したミニマルな表現なのだが、それが決して貧乏くさい四畳半フォークにならず、キーボードの効果的な挿入もあって、色彩豊かで着想に華のある表現になっている。特に、ジェンダーレスといいたくなるようなファルセット・ボーカルが特徴的。この、もう男でも女でもどっちでもええやんという感じの、ジェンダーすら問題ではない浮遊感、暫定感が、優れて今日的であり、ポップなのだ。

もちろん、そういういろんなものからフリーになろうとする表現がしっかり耳に届いてくるのは、それを下支えするべきひとつひとつの曲が意外にしっかり書けているから。極端なことをやっている訳でもないのに、表現の枠組みみたいなもの、ポップのパラダイムを、破壊するのではなくスルっとすり抜けて行く身軽さは、知らない間に議論が次のページに入っていたような「再読み込み」感ある。チャーミングでファンシーなのに奥が深い。




I HAD A DREAM
THAT YOU WERE MINE

Hamilton Leithauser + Rostam
★★★

Glassnote (2016)
GLS-0210-02

■ A 1000 Times
■ Sick As A Dog
■ Rough Going (I Won't Let Up)
■ In A Black Out
■ Peaceful Morning
■ When The Truth Is...
■ You Ain't That Young Kid
■ The Bride's Dad
■ The Morning Stars
■ 1959
ザ・ウォークメンのボーカリストであるハミルトン・リーサウザー(どうしてもライトハウザーと読みたくなる)と元ヴァンパイア・ウィークエンドのロスタム・バトマングリのコラボレーションらしい。ウォークメンのことは全然知らなかったが、ヴァンパイア・ウィークエンドの名前に釣られて買ってみたアルバム。収録曲の『In A Black Out』がiPhone7の世界CM曲に抜擢されたことから話題になったということだがその辺はよく知らない。

聴いてみてまず感じるのは、非常にアコースティックでクラシカルな、ドゥワップとかカントリーとかピアノ・バラードとかのロックンロール以前のアメリカ音楽、それもアーシーなルーツ・ミュージックよりはグッド・オールド・アメリカン・ポップス的な音楽を下敷きにした大らかなプロダクションになっているということ。ロバート・プラントやジェフ・ベックが結成したハニードリッパーズを思い出させるレトロスペクティブな出来だ。

とはいえここにあるのが単なるノスタルジーでないのは明らかだ。ホール・エコーを拾ったのか独特の響きをする音の作りは徹底して乾燥しており、そこに何かを懐かしむかのような「暖かな」モメントは感じられない。火をつければすぐにパチパチと爆ぜながら燃え上がるような、カラカラに脱水されたアメリカの抜け殻。意図したアメリカ文明批評ではなく、刷り込まれた批評性が図らずも表出したところが今日的でありオルタナティブだ。




DO HOLLYWOOD
The Lemon Twigs
★★★

4AD (2016)
CAD3650CD

■ I Wanna Prove To You
■ Those Days Is Comin' Soon
■ Haroomata
■ Baby, Baby
■ These Words
■ As Long As We're Together
■ How Lucky Am I?
■ Hi+Lo
■ Frank
■ A Great Snake
アメリカ人の19歳と17歳の兄弟デュオ。なぜ買ったのか自分でももう定かでないが、たぶんプロデューサーがホイットニーと同じ人だというのと、レーベルがあの4ADだからだということだったと思う。独特のルックスとメインストリームを外した音の作りはMGMTあたりを思い出させるが、MGMTがまだロックの文脈にしっかり根ざしていたのに比べると、このレモンの小枝たちの方がずっと天真爛漫で自由奔放、スタイル・フリーな印象を受ける。

しかし、それでは彼らの音楽がまったく前例のない、むちゃくちゃなものかといえばもちろんそんなことはなく、ヘンテコではあってもむしろ音楽的素養の確かさが実感できる。1曲の中に複数の曲想を詰めこむ組曲的な手法が多用されるが、その引き出しは多様であり、そこで引用されるひとつひとつのピースにはきちんとした氏素性があって、豊かな音楽的バックボーンが感じられる。この年齢でこれだけの広がりと奥行きを出すのは驚異だ。

既にいろんなところで言われているようだが、このアルバムを聴いて思い出すのはトッド・ラングレンの「A Wizard, A True Star」。そこに共通するのは曲想の多様さ、自由さを裏書きする、ひとつひとつのメロディの質の高さだ。これが周到に構築されたものか、純粋な才能のほとばしりなのかはこの先の展開を見てみないと何とも言えないが、いかにもトッド・ラングレン的なピアノ・バラードまでブッ込んでくるあたり確信的か。佳作。




流動体について
小沢健二
★★★★

Virgin (2017)
TYCT-39050

■ 流動体について
■ 神秘的
2017年突然降臨した王子。ライブ盤は買ってはいたがMCは全部飛ばして聴いたクチの僕としては、半信半疑でムダに大きいパッケージのシングルを仕事帰りに新宿のタワレコで買った。この圧倒的な「オザケン is back」的な覚醒感はどうだ。グローバリズムが何だとか言い出した時には完全に終わったと思ったが、このあまりにも屈託なくオザケン的な「神」への言及はどうだ。何だそうだこれがあったじゃないかと笑い出したくなる記念碑。

オザケンの歌はいつでも深いゴスペルだった。20世紀あるいは21世紀において僕たちが何に祈るかを問いかける太陽からの呼び声だった。生の意味が一瞬で全的に了解される特別な時間のことをオザケンは歌い、僕たちはその顕現を目を細めるように自分の生活にあてはめ続けた。夜の間に見つけたと思った「確かな約束」が朝の光に跡形もなく溶け出して消えて行く、その最後の一瞬のことを僕たちは熱心に話し続けていたのではなかったか。

並行する世界の僕、都市を変える言葉、言葉を変える意思、オザケンの視点は明らかだ。いうまでもなく僕たちは神の手の中にある。そこにおいて、神の視座からはすべての善悪は偏見に過ぎず、「良いこと」は即ち「決意」の問題に帰する。しかしだからこそ僕たちは、それが偏見に過ぎないことを恐れず良いことを決意する他ない。すべてはそこからしか始まらないのだから。無限の海は広く深く、でもそれほどの怖さはない。そんな作品。



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