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DISTANCE INBETWEEN
The Coral
★★★

Ignition (2016)
IGNCD71

■ Connector
■ White Bird
■ Chasing The Tail Of A Dream
■ Distance Inbetween
■ Million Eyes
■ Miss Fortune
■ Beyond The Sun
■ It's You
■ Holy Revelation
■ She Runs The River
■ Fear Machine
■ End Credits
このバンドについては新譜が出る度高く評価していて、これまで当サイトのアワードでも大賞1回、次点1回、優秀賞2回を受賞している。前作からは6年ぶりの新譜になるが、そんな訳で、新譜の購入枚数を絞っている中でも悩むことなく手に取ったアルバム。勇んで家に持って帰り早速聴いたのだが、正直印象がはっきりせず、さて、オレはこのバンドのどこが気に入っていたんだっけと自問する羽目に陥った。どうも引っかかってこないのだ。

ちょっと歪んでクセのあるメロディや音作り、一筋縄では行かないシニカルで諧謔的な感覚。XTCやスクイーズなど、イギリスという風土に最適化したバンドの正統な系譜に連なる、微妙にツイストした空間認識みたいなものに魅力のあるバンドだと思っているのだが、その先入観でこの作品に入ると少し印象が違う。クセのあるメロディは健在だが、曲調が今ひとつ暗い上、未知の空間が一気に広がって行くような新鮮な驚き、意外性がない。

その代わりにここにあるのは、オーソドックスでハードなロックである。ハードなロックといってもメタリックという意味ではなく、ロックであるという以外に余計な形容詞をつけなくても成立する表現のこと。これまでの才気走ったチャームのあるポップな音楽に愛着を持つ者には違和感のある無愛想な手ざわりだが、曲そのものの強度は変わらない。どこに向かうのかは分からないが、これがひとつの誠実な現在地であることは間違いない。




CHAOSMOSIS
Primal Scream
★★★

First International (2016)
SCRMCD008

■ Trippin' On Your Love
■ (Feeling Like A)Demon Again
■ I Can Change
■ 100% Or Nothing
■ Private Wars
■ Where the Light Gets In
■ When The Blackout Meets The Fallout
■ Carnival Of Fools
■ Golden Rope
■ Autumn In Paradise
前にも書いたかもしれないけどプライマル・スクリームは音楽的実体のないバンドである。というかバンドかどうかも分からない。たぶんバンドじゃない。プロジェクトとかユニットとかいうのとも違うし、例えば小山田圭吾がコーネリアスであるような意味でボビー・ギレスピーがプライマル・スクリームだということでもない。それはアンドリュー・イネスがいるからということでもなく、プライマルズは実態不明のナゾの生命体なのだ。

そういう意味ではプライマル・スクリームは正しい意味でのメディアである。それはプライマル・スクリームという存在自体が、その内容以前にひとつのメッセージであるというマクルーハン的な意味でのマス・メディアである(つまりは表現の内容よりプライマル・スクリームという「ガワ」こそがメッセージだということ)と同時に、ボビーという「霊体」の彼岸からの声を伝える霊媒という意味でのメディアでもあるということである。

そういうことなので、もはや作品としての「音楽」の内容をあれこれレビューしても仕方ないのではないかという気さえしてくるのだが、困るのは、まあ出来不出来はあるにせよ、どの作品もそれぞれスリリングというか何か尖ったもの、切迫したものを忍ばせているということ。本作は新機軸はなく、過去作品の焼き直しというかセルフ・パロディというか想定の範囲内の作品だが、プライマルズなんだからそれはそれでいいということだ。




EVERYTHING YOU'VE COME TO EXPECT
The Last Shadow Puppets
★★★

Domino (2016)
WIGCD371

■ Aviation
■ Miracle Aligner
■ Dracula Teeth
■ Evething You've Come To Expect
■ The Element Of Surprise
■ Bad Habits
■ Sweet Dreams, TN
■ Used To Be My Girl
■ She Does The Woods
■ Pattern
■ The Dream Synopsis
マイルズ・ケインとアークティク・モンキーズのアレックス・ターナーのユニットによる2枚めのアルバム。2008年にファーストを発表した時には一時限りのプロジェクトだと思っていたが、もともと仲のよい友人同士らしく、「またアレやろうぜ」的な感じで8年ぶりにアルバムをリリースすることになったらしい。アークティク・モンキーズもマイルズ・ケインもそれぞれしっかりと自身の活動を展開する中でのこの動きは興味深いものだ。

内容的にはストリングスを導入したゴージャスかつオーソドックスなポップスであり、前作から基本的に変わっていない。逃げの効かないメイン・プロジェクトで力を入れて作った作品より、拠りどころになるコンセプトを立てたサイド・プロジェクトで面白いものができ上がるのはよくある話。そうした複数のプロジェクトを往来する中でアーティストとしての幅が広がって行く前例はいろいろあるが、成功例のひとつに連なるべき作品だ。

もともと達者なソングライティング能力と音楽センスを持った二人が、メイン・プロジェクトで成長した力と経験を持ち寄った訳だから、でき上がるもののレベルが高くなるのは当然といえば当然だが、気になるのは曲調がどれも陰鬱で暗いこと。クオリティが高くかつ陰鬱なものを聴くと体力を削られてしんどい。お楽しみのプロジェクトなんだからもうちょっとお気楽でバカバカしい曲のひとつやふたつはあってよかった。次はあるのか。




FEVER DREAM
Ben Watt
★★★

Unmade Road (2016)
ROAD007CD

■ Gradually
■ Fever Dream
■ Between Two Fires
■ Winter's Eve
■ Women's Company
■ Faces Of My Friends
■ Running With The Front Runners
■ Never Goes Away
■ Bricks And Wood
■ New Year Of Grace
31年ぶりのソロ・アルバムとなった前作から2年のインターバルでリリースされたベン・ワットの新作。今回は自らプロデュースを手がけているが、前作でも大きな役割を果たしたスウェードのバーナード・バトラーとのタッグで、基本的には前作の延長線上にあるシンプルなアコースティック・ロックに仕上がった。エレクトロニックなアプローチで商業的に成功したエブリシング・バット・ザ・ガールやDJ業からの、この展開は興味深い。

インタビューを読むと、50代前半に差しかかり身の回りのいろんなものを見直し、自分が大事な時期にいることに気づいたと説明しているが、実際、人生の半分を明らかに越え、親の世代だけではなく同世代でも亡くなる者がぼちぼち出始める頃あいで、人は立ち止まり来し方行く末を考えるのだろう。その気持ちは同世代である僕にもよく分かる。そして、そこで生まれる表現が彼にとっての初期衝動に近いものに回帰するのも理解できる。

だが、それがただの私小説的な感傷のダダ洩れに過ぎないのであれば聴く価値はない。この作品がオープンな音楽表現として、代価を取って販売するに値するものとして成立しているのは、ひとつにはベン・ワットの達者で確実なシンガー・ソングライターとしての作曲能力、もうひとつはバーナード・バトラーのギターによる異化作用によるものだ。曲調はおしなべて内省的であるが、バンドによるダイナミズムを得て、風通しは悪くない。




EVERYTHING AT ONCE
Travis
★★★☆

Red Telephone Box (2016)
PHONE014CD

■ What Will Come
■ Magnificent Time
■ Radio Song
■ Paralysed
■ Animals
■ Everything At Once
■ 3 Miles High
■ All Of The Places
■ Idlewild
■ Strangers On A Train
トラヴィスといえばセカンド・アルバムで大ブレイクを果たし、そのまま押しも押されもせぬスタジアム・バンドの仲間入りをしたものだとばかり思っていたが、その後いろいろとトラブルもあったりして本国では人気もジリ貧になり、ここ何枚かのアルバムはインディペンデントからのリリースとなるなど意外に苦労している。一時の、静謐で内省的なグッド・ソング路線から一転してワイルドなロックになるなど、迷走している感もあった。

音楽的な実力がしっかりしたトラヴィスが、U2のようなスタジアム・バンドになってしまわなかったのは、「バンドが残らなくても音楽が残ればいい」という誠実で、見方によってはナイーヴな制作姿勢によるところも大きいだろう。何しろアルバムに「目に見えないバンド」なんてタイトルをつけてしまうのだ。ロック・スターとしてのグラマラスな生活にはもともと向かないのかもしれない。まあ、生真面目なロック・バンドがいてもいい。

本作はブレイク当時を思わせるオーソドックスな「歌」志向の作品。丁寧に作られ、丁寧に演奏され、丁寧に歌われたことが分かる良質な作品であり、彼らの誠実なキャラクターがそのまま表れたようだ。路線的には前作を継承したものだが、際立っているのは作品に対する自信である。2分台の曲が5曲という潔さ。曲の本質だけをバシッと突きつけて、しかしその短さを感じさせない。ここに来て迷いが吹っ切れ、曲のよさが前に出たようだ。




CRADLE TO THE GRAVE
Squeeze
★★★★

Love (2015)
CDV 3140

■ Cradle To The Grave
■ Nirvana
■ Beautiful Game
■ Happy Days
■ Open
■ Only 15
■ Top Of The Form
■ Sunny
■ Haywire
■ Honeytrap
■ Everything
■ Snap, Crackle And Pop
オリジナル・アルバムとしては1998年の『Domino』以来実に17年ぶりとなる作品である。タワレコをぶらぶらしてて偶然見つけて買ったが、既に昨年リリースされていたのだった。誰も教えてくれなかった。買うことに躊躇はなかったが、こうした再結成モノのクオリティにはそもそも懐疑的。主要メンバーが欠けていたりすることも少なくないが、クリス・ディフォードとグレン・ティルブルックが揃っており、少なくとも看板に偽りはない。

まあ、ぬるいセルフ・パロディのような作品でも仕方ないと割りきって買ったのだが、聴いてみるとその衰えのないクオリティにむしろ驚いた。特徴的なグレン・ティルブルックのボーカル、調子よくメジャー系でグイグイ押して来ながらもどこかにひねりや湿り気のようなものをひそかに忍ばせたクセのあるメロディ、高い音楽的実力がありながら、自己満足に陥ることなくポップに開かれた風通しのいい音楽、まさにスクイーズそのものだ。

考えてみれば、彼らはもともとメイン・ストリームの流行とはかなり無縁な場所で、他のバンドにはちょっと鳴らせない、平易でありながら記名性が高く通用力のある音楽を作ってきたバンドであり、経年劣化に対する耐性は強かったのかもしれない。パワー・ポップという言葉は彼らのためにあると僕は思っているが、ここに来て届けられた新譜がその通用力を改めて確認するものであったことは嬉しい。今年のアワード対象外なのが惜しい。




DEBUT AGAIN
大滝詠一
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Niagara (2016)
SRCL 8714-5

■ 熱き心に
■ うれしい予感
■ 怪盗ルビィ
■ 星空のサーカス
■ Tシャツに口紅
■ 探偵物語
■ すこしだけ やさしく
■ 夏のリビエラ
■ 風立ちぬ
■ 夢で逢えたら
他のアーティストへの提供曲を大滝が自ら歌った、所謂セルフ・カバーのトラックを集めた企画盤。『夏のリビエラ』は「SNOW TIME」で既発表、『夢で逢えたら』も先の「Best Always」で発表されたトラックの別ミックス、さらに『怪盗ルビィ』も既知のバージョン、『風立ちぬ』は1981年のライブだが、残りの6曲はこれまで存在が知られていなかった大滝ボーカルの音源で、大滝の死後、スタジオの整理の際に発見されたという貴重なもの。

バック・トラックから新たにレコーディングされた曲もあるが、アーティストに提供したバック・トラックを使い、ガイド・ボーカルや仮歌的にレコーディングしたものも少なくない。女性用のバック・トラックを使用しているために声域が合わない曲もあるなど、発掘音源の寄せ集め的な不揃い感は払拭できない。大滝が存命であればもちろん発表されない類の作品だが、だからこそ我々はここで聴くことのできる大滝の声に耳を傾けるのだ。

「Best Always」での『恋のひとこと』もそうだったが、一人多重コーラスで完成度の高い『星空のサーカス』などよりも、声域の合わない『うれしい予感』などラフなボーカルの「近さ」にむしろハッとする。「ナイアガラ・サウンド」が語られることは多いが、大滝のボーカルもまた彼の音楽を語る上で不可欠の要素。その魅力を改めて感じる機会を没後に提供してくれるのも大滝らしいか。節度ある哀惜の意と敬意のあふれた好企画盤だ。



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