logo 2015年11・12月の買い物


A HEAD FULL OF DREAMS Coldplay 8竹

前作のレビューではひどいことを書いた。「出来上がったのは完全なポップ・ミュージックであり、同時に無であった。何度聴いても何も残らない完全に空っぽな音楽。非ロックの極北だ」と。そして「5松」というふだんはつけない低い評価をつけた。そんな評価をつけるならレビューしなければいいのだ。分かっていてもそういう評価をつけることで表現したい何かがそのアルバムにあった。もはやオレの聴く音楽の範疇を越えたと感じた。

だが、それでも今作は買ってしまった。そして不明を恥じた。いや、前作は今聴いてもピンとこないのだからあれはあれでよかったのだろう。完璧な作りこみとすべての隙間の塗りつぶしによる、微動の余地もないスタティックな音楽。そんなものをロックと呼びたくないのは自明だ。しかし、このアルバムでコールドプレイはまたロック的なダイナミズムを取り戻した。それも恐ろしくレンジの広いダイナミズムを。これが彼らの底力なのか。

表面上の意匠が前作とそんなに違う訳ではない。ポップとしか呼びようのない稠密かつおおらかなメロディは変わりようもない。しかし、前作できれいに塗りつぶされていた空間は、今作ではもはや塗りつぶされた上からさらに絵の具を盛られてはみ出している状態で、欠損よりは過剰によって明らかに脱規範的なダイナミズムを獲得しているのだ。飽和を超過して無理やり越境してくるような、さわやかな押しつけがましさが清々しい作品だ。

 
CURRENTS Tame Impala 8竹

夏ごろにリリースされたアルバムだが、2015年の音楽各誌の評価が軒並み高かったので聴いてみた。NMEで5位、ピッチフォークでも5位、クロスビートでは3位である(ロッキング・オンでは27位)。聴いてまず印象に残るのは、非常にオープンで風通しのいいサイケデリックだということ。そこにはいかにもドラッグぽく貧乏臭く密室的な、息が詰まり神経を削られるようなオブセッションはない。基本的な構造とトーンがすごく開放的なのだ。

しかし、もちろんそれはこれがストレートなメイン・ストリームのロック・ミュージックであることを意味しない。彼らの出身国であるオーストラリアでは、他の地域に見られない有袋類が独自の進化を遂げていることが知られるが、この音楽もそういう、実は独自に作られたが結果的に偶々ロックに似た平行進化的な何かだという気がする。おそらくメイン・ストリームで今何が聴かれているかというようなことは考えずに作った作品だろう。

特徴的なシンセの響きが、ドリーム・ポップ、ファンシー・ポップとでも呼びたくなるようないかにも桃源郷のカラフルな感じを演出している。だがそれがサイケものにありがちなボワっとした曇りを帯びず、くっきりとした輪郭を印象づけるのは、その土台にある曲そのものが真面目にきちんとしたグッド・メロディを具えているからで、サイケデリアを召喚するために何かをぼやかす必要がないということ。覚醒したまま見る極彩色の夢だ。

 
ALONE IN THE UNIVERSE Jeff Lynne's ELO 7松

微妙なアーティスト名義のアルバム。ELOのアルバムは5枚2,500円の旧譜廉価盤しか持っておらず、事実上初めて買うアルバムだが、ELOと聞いて多くの人が想起するような、ストリングスを大々的にフィーチャーしたスペース・ロックとは異なり、ここで聴けるのはビートルズ(どちらかといえばポール・マッカートニー)直系のスイートなメロディであり、ジョージ・ハリスンを思わせるスライド・ギターの効いたカントリー・ロックである。

音楽的な手ざわりとしては、1980年代後半に話題になったトラベリング・ウィルベリーズやジェフ・リンがプロデュースしたジョージ・ハリスンのアルバムに近い。ジェフ・リンがなぜこのアルバムをソロ名義のアルバムにしなかったのか、あるいは逆に「エレクトリック・ライト・オーケストラ」を堂々と名乗ることもしなかったのか、ジャケットに「例のUFO」まで登場させた割りに、その名が体を表さない的な煮えきらなさがもどかしい。

まあ、その辺は何かと大人の事情があるのかもしれないが、そうした「ELOにまつわるあれこれ」を捨象し、これをジェフ・リンのソロ・アルバムとして聴けば、当然とはいえプロの作品という他ないよくできた楽曲揃いの実に堂々とした王道のポップ・アルバムであり、ビートルズの正統な継承者と言われる所以がよく分かる。この人自身も既にレジェンドの域に達していると思うが、それだけに中途半端なELO頼み感がもったいなく感じる。

 



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