HARCOこと青木慶則の、フル・アルバムとしては5年ぶりの新譜。元キリンジの堀込康行、杉瀬陽子との共作『口笛は春の雨』や、オリジナルを歌ったあがた森魚をゲスト・ボーカルに迎えてのカバー『つめたく冷やして』(原曲はプレスリー)、インストの『TIP KHAO』など多彩な曲が収録されているが、もともとソングライティングには定評のある人なので仕上がりにはまったく不安がない。全編にわたって質の高いポップ・ソングが聴ける。
だが、僕がこの人の作品を聴いてまず耳に残るのはその声の力だ。世の中にはどうしようもなく決定的な声というのがあって、例えばジョン・レノンとかルー・リードとか、トム・ウェイツとかボブ・ディランとか、だいたいはザラついた引っかかりのある声が、その声の力だけで何かを伝えてしまうということなのだが、青木の声にもこれらの声とはまた異質の吸引力があり、この細いけれどもまっすぐな声が確実に何かを訴えかけてくる。
その声の本質はおそらくは少年性であり、どうしようもなく達成されなかった憧憬であり、頼りなく細い肩でとぼとぼと歩いた夕暮れの帰り道であり、初めてのキスであり、要は真空パックされた僕たちの情けない十代のすべてである。青木の声、ボーカルは、僕のそうした「悔恨」をありありと喚起する。もちろんそれは架空の悔恨なのだが。軽快なスリー・フィンガー・ピッキングで聴かせる『カメラは嘘をつかない』が特に素晴らしい。
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