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REFLEKTOR Arcade Fire 8竹

何かのレビューがトーキング・ヘッズの「リメイン・イン・ライト」を引き合いに出しててやや腑に落ちた。あと、この非典型ロックの感じがハイチのリズムだというのも記事を読んで納得した。時には音楽雑誌も役に立つ。逆に言うとそういう予備情報なしにこのアルバムを聴いた時にはやや混乱した。何しろ冒頭がディスコなんで。号砲とともにどっち向いて走り出したのか分からない部分があって。ハードエッジなものを期待してたんで。

つか前作がどんな感じだったか正直あまりもうメモリに残ってないんだけど、ロックの今日性というテーマに中央突破的なアプローチを仕掛けながらインテリジェンスを感じさせるバンドという印象だった。特に前作のテーマがアメリカの郊外の狂気という、僕がアメリカというアホみたいな国を考えるときにいちばん気になる部分だったりしたので、スケール感とそこに潜む歪みみたいなものを具現化しているようでこれは面白いと思った。

今作ではその絞り込みが拡散した感があって、僕自身がこのアルバムへのとっかかりを見つけるまでに時間がかかったのかもしれない。ロック表現の深化とか進歩とかそういう面倒くさいテーマについて考えるとき、枝葉を茂らせるアプローチを試みるバンドは数多いが、幹を太らせることのできるのは選ばれたバンドだけ。そういうアプローチを許された数少ない選ばれし者たちのアルバム。全体感がつかめるまで聴きこむことを勧めたい。

 
WE NEED MEDICINE The Fratellis 8梅

このバンドに関しては2007年にレビュー・アルバムが出たときに完全に乗り遅れ、ジャケット・アートは記憶に残っていたものの全然どんなバンドかも知らなかったのに、翌年のセカンド・アルバムを初めて聴いて天啓に打たれ、そこから慌ててデビュー・アルバムを買いに走ったという醜態。ところがバンドはそれっきり実質解散状態に。その後、ジョン・フラテリのソロ関連作はあったが、バンドとしては5年ぶりの復活作がやっと出た。

ロックンロールの最良の部分を正統に継承しながら、その直接性で21世紀のグローバリゼーションにもきちんと足場を築くことのできた稀有なバンドというのが僕の認識だが、本作でも目新しいことは何ひとつやっていないにも関わらずこのリアルさ、圧倒的な迫真性はただごとではない。達者なソング・ライティングと60年代、70年代の音楽の鋳型を忠実に受け継いだスタイルでスクイーズなんかを思い起こさせるパワー・ポップを聴かせる。

このバンドの音楽がこんなに明快に、はっきりと聞こえてくるのはなぜなのだろう。CDで再現可能なダイナミック・レンジには当然仕様上の制約があって、どのCDもその中で作られているはずなのに、そしてボリュームそのものが他のCDに比べて大きい訳ではないのに、彼らの音楽はすごく音が大きく聞こえる。それは余計なモノを削ぎ落した最小限のバンド構成でギリギリの強い音を鳴らしているからなのか。信頼に足るバンドの復活を喜ぶ。

 
CRIMSON / RED Prefab Sprout 8竹

長く伸びたヒゲがまるでZZトップみたいになってしまったパディ・マクアルーンだが、実はまだ56歳らしい。目と耳を痛めたとはいうが、出来上がったアルバムは最初の一音からすべてを聴き終わるまで間違いなくあのプリファブ・スプラウト。メンバーは散り散りになり、実質的にはパディ・マクアルーンのソロ・プロジェクトだが、どうやったらこんなはっきりとした特徴のある音が作れるのかと思うくらい一聴して分かる明快な個性だ。

バンドでやっていた頃から考えればレコーディングはコンピュータ化して音源の多くはデジタルになったはずなのに、この男にはそんなことは関係ないようだ。だが、その手に触れるものすべてが金に変わるような、抑制的でありながら他にない華を具えたサウンドスケープにも増して凄みがあるのは、この人のソングライティングだ。そこには抗いようもなく流れて行く時間への限りない慈しみと、その上に立つオプティミズムが確かにある。

新しいアルバムが出るたびに過去のアルバムを全部引っ張り出してディスコグラフィ・レビューをやりたくなるアーティストはそう多くないが、プリファブ・スプラウトは間違いなくその数少ないバンドのひとつ。なぜならそこにはひとつの一貫した物語があり、他のだれにも作れない密度の高い音楽があり、そしてそれらが一方で惜しげもなく「ただのポップ・ミュージック」として完結しているからだ。普遍とか永遠とかを示唆する音楽。

 
SHANGRI LA Jake Bugg 8梅

ファーストで高い評価を得た若手シンガー・ソングライターのセカンド・アルバム。前作からのインターバルも短く、勢いそのままに歯切れのいいロックンロールをアコースティック中心のざっくりした手触りで聴かせる。基本的な路線はファーストから変わっていないが、曲も、アレンジも、アルバム全体の構成もよりきちんと整理され、初期衝動が前面に立っていた前作に比べればこの人のタレントがより分かりやすく提示された感がある。

ファーストの「なんじゃこりゃ」感、「エラいヤツが出てきた」感が割り引かれる分、本作で僕たちは彼の音楽的な凄みを純粋に目の当たりにすることができる訳だ。それは極めて個的な物語でありながら、グローバルな何かと確実にフックし、共振しているもの。時代性とか今日性とかを云々するのが滑稽なほど、この音楽が今ここにあること自体が説得力を内包しているというか、時代があっちからジェイク・バグにすり寄ってきた感じ。

そこにあるのは音楽的に何か実験的なものではなく、ただのロックであり、いや、ただのギターでありただの歌なのだが、すべての表現を「ただの歌」のレベルに還元しながら、その中核をなすものの強度や表現そのものとしてのプリミティヴな喚起力によって流通する音楽だからこそ、時代性や地域性みたいなものを一気に飛び越えた通用力を強引に身にまとうことができるのだ。リック・ルービンのプロデュースも抑制的でマッチしている。

 
LAUGH Terry Hall
DECEPTION The Colourfield
THE BEST OF 1981/1997 Terry Hall
ON AIR - LIVE AT THE BBC VOL.2 The Beatles
NO DAMAGE DELUXE EDITION 佐野元春
タッチ 伊藤つかさ
猫と音楽の蜜月 Various Artists
 



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