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RIGHT THOUGHTS, RIGHT WORDS, RIGHT ACTION Franz Ferdinand 7竹

買ったはいいがその時だけ聴いてレビューしてあとはラックにしまいこみ、おそらくはもう一生聴かないだろうというCDがもう何百枚もあるので、さすがにそろそろ買うCDを減らそう、オレの人生もたぶん半分以上過ぎたんだから、と最近思っているのだが、その意味で買うかどうかかなりボーダーライン上にあったアルバム。リリースされてしばらく見送っていたのだが、タワレコの店内で流れてきてヤられた。思わずレジに持って行った。

その時流れていたのはおそらくオープニングの「ライト・アクション」だったと思うのだが、とにかくその軽妙さというかキャッチーさというかこの異様な調子よさは何なんだ。このシンセの涙が出るくらい軽薄で下世話でベタでありながら一回聴いたらもう避け難く意識下に刷り込まれてしまうリフの恐るべき破壊力は何なんだ。これはロックではない。歌謡曲でありポップ・アートである。僕たちの快楽中枢に直接訴えかける音楽である。

もはやダンサブルとかいう形容すらこの恐るべき音楽の本質を伝えるには不十分だ。大きい、色がきれい、数が多い、反復するといった過剰性は特別な修練を経由しないで多くの人の美意識を直接刺激する重要なポイントであり、ポップ・アートの本質である訳だが、彼らの音楽の中核にあるのはそのような種類の過剰性であり弱いところを容赦なくぐいぐい突いてくる節操のなさである。情報資本主義が必然的に帰結したひとつの終着点だ。

 
AM Arctic Monkeys 7梅

アークティク・モンキーズってどんなバンドかと訊かれてもちょっとうまく説明できないんだけど、2006年にデビューして7年めで5枚目のアルバム。子供が大きくなるのは早い。何か元気のいいやんちゃ坊主みたいな気がしてたのにな〜。でもまあ、正直言ってファースト以外のアルバムは今ひとつ印象に残っておらず。今作も例によって「もう買わない」という選択肢もある中で、音楽誌の評価が高かったこともあって一応買ってみたが…。

確かに正統派、オーソドックスなロック・アルバムという世評はあながち間違ってはいまい。「ロック」というテーマに正面から挑んだような本作は、しかし彼ら独自の流儀でそこに気負いとか使命感みたいなものは一切なく、ごく当たり前の成長過程として「確かこんな感じだよね」くらいのイメージでガシャっとやったのがこれだけのアルバムになっているというか。そういう意味ではこの天性のロック感覚みたいなものはやはりすごい。

だが、こぞってこのアルバムを持ち上げるメディアに敢えて逆らうとすれば、このアルバムは面白くない。あまりに強面、あまりにストロングすぎて、ニコニコした顔で楽しめない。ムダに真面目でムダに辛気くさい。中学の文化祭でツェッペリンとかやって、演奏は悪くないのに一般生徒はしらけちゃってるみたいな。もう何でも選び放題、ワンクリックで音楽が宙を飛んでくる時代に、これがどれだけ選ばれるのかちょっと分からないな。

 
WHERE YOU STAND Travis 7松

考えてみればトラヴィスがセカンド・アルバムで大ブレイクを果たしたのは20世紀のこと。その静謐で緻密な音楽で一時はビッグ・ネームの地位を不動のものにしたかにも見えたが、バンド・メンバーのケガによる活動休止や、シリアスに振れたその後のアルバムのセールスが伸び悩んだことなどもあって、人気は徐々に落ち着き、前作は自主レーベルからのリリース。内容的にもワイルドなロック路線になりリスナーを驚かせたものだった。

今作はその前作から5年ぶりのアルバム。静謐で緻密なアコースティック・ロック、バラードというパブリック・イメージを自らぶち壊した前作から一転し、再び注意深く丁寧に構築した「歌」の世界に回帰する作品となった。しかし、ブレイク後の数作に顕著だった強迫観念的な構築度の高さからくる息苦しさに比べれば、本作ではきちんと風の通る余白が残されており、「歌」が「歌」として素直にリスナーの胸に落ちてくるように思える。

これは前作での「リセット」を受けた結果なのか。むやみに高踏的なハイ・テンションをこちらの都合とは関係なく迫ってくるかのようだったかつての作品に比べれば、ここには僕たちの日常生活から手の届く世俗の美しさがある。語りかける目線は等身大で、嘆きたくなる毎日の中にあってこそ輝くささやかな光のことを、フラン・ヒーリーは歌っているかのようにも思える。買うか買わないか当落線上のアルバムだったが買ってよかった。

 
SNAPSHOT The Strypes 7松

これは面白い。というか単純にカッコいい。平均年齢16歳の新人バンドだというが、いかにも60年代、70年代のロックンロール、R&B、ブルース・ロックなどを下敷きにしたストレートな音づくりは堂に入ったもので、切れば血が滴りそう。ノエル・ギャラガーやポール・ウェラーら大物もこぞって肩入れしているというがそれも理解できる明快でオープンなロックンロール。カバーも何曲か収録しているが、オリジナルのクオリティも高い。

プロデューサーはセックス・ピストルズの唯一のスタジオ・アルバムを手掛けたクリス・トーマス。バンドの初期衝動的な勢いを生かしたダイナミック・レンジの広そうなプロダクションでザラッとしたテクスチャーに仕上げている。とはいえ、この手の音楽をこういうやり方すればカッコいいというのはある意味分かっていることで、それを余計な配慮とか文脈に関係なくガツンと鳴らすところに価値がある。16歳でないとやれない特権だ。

まあ、こういうのに対して次はどうするんだとか今後の成長が楽しみだとか言いだすのは気の毒。そういう大人目線で論評するのはやめて、キャーキャー言いながら聞くのがこの手の音楽には一番正しいんだろう、きっと。だってカッコいいんだもん。それ以外の意味を見つけようとすること自体が不純だし不要。これ一作で消えてもまったくおかしくないバンドだがそれならそれでいい。この一作に価値があるのだから。成長しなくていい。

 
MGMT MGMT 8梅

何年か前にハイプ的にもてはやされたポップ・デュオの第三作。デビュー・アルバムで現代的なサイケ・ポップをやったかと思うと前作ではバンド的なアプローチで現代的なサーフ・ロックを聞かせ、今作では再びサイケデリックなお花畑に帰ってきた。実際、このアルバムも買うかどうか迷ったもののひとつ。というのも、この人たちのやりたいことというか音楽的な核みたいなものが僕には今ひとつはっきりイメージできなかったからだ。

しかし、このアルバムを聴けば彼らの本質が少しは分かったような気になる。もともとサイケデリック・ロックというのは定義しにくいアイデアで、いろいろなものがその名前で語られる傾向があるのだが、僕はそれを、閾値を越えて知覚を拡張する音楽の総称だと思っている。その意味でこのアルバムは正しくサイケであり、シド・バレットあたりを思い起こさせる正統派の過剰感が印象的。XTCが変名バンドでやったサイケデリアに近い。

ただ、それが優れて現代的なのは、以前アニマル・コレクティヴのレビューでも書いたと思うが、極めて覚醒した明晰な意識の中で鳴らされる過剰であるということだ。そこには60年代、70年代のサイケに不可避的に付属していた貧乏くさいヒッピー感みたいな反体制的、社会忌避的モメントはほとんど見られない。アート・スクール出身の東海岸の若者から気負いなくストレートに出てきた自然さが好ましい。正直このユニットを見直した。

 
WISE UP GHOST Elvis Costello And The Roots 8梅

クエストラブ率いるヒップホップ・バンド、ザ・ルーツとエルヴィス・コステロのコラボレーション・アルバム。ザ・ルーツがハウス・バンドを務めるテレビ番組にコステロが出演したのが縁で共演に至ったらしい。ザ・ルーツという人たちについては僕は何も知らないが、どうもバンド形式でヒップホップをやる人たちらしく、言われてみれば確かにヒップホップってスクラッチとかサンプルをループしたバック・トラックが普通なんだよな。

で、そのザ・ルーツとコステロのコラボなのだが、だからといってヒップホップ、ラップになっているかといえば決してそんなことはない。ここにあるのは広義のファンクとでもいうか、重心の低いビートに乗せてコステロの多弁なボーカルが機関銃のように掃射される極めてオリジナルなミクスチャー・ロックである。確かによく聴けばラップと言えそうな曲もあるが、むしろトーキング・ブルース。ライムというよりはポエトリーって感じ。

もともと語数が多く詰め込み型のコステロのボーカルにはこのスタイルは相性がいい。しかし何より達者なソング・ライティングと聴き違えようもない無二の声のせいで、結局のところこれもまたコステロ印としかいいようのないアルバムになっている。90年頃のアルバムのダーティ・ダズン・ブラス・バンドをフィーチャーした一連の曲に近い感触かもしれない。いささかシリアスに過ぎるきらいはあるものの質の高い作品なのは間違いない。

 
THE THIRD EYE CENTRE Belle & Sebastian
小さな生き物 スピッツ
 



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