logo 2013年1・2月の買い物


COEXIST The xx 7松

2010年にデビューしたドラムレスの男女トリオのセカンド・アルバム。その編成からも何となく窺えるように、ミニマルで静謐な音づくりが特徴で、あのヤング・マーブル・ジャイアンツとの相似も指摘される。本国イギリスでの評価も高いようで、このアルバムも何とかプライズみたいなヤツを獲得したり、各誌の年間ベストにも軒並みランクインしたりしているようだ。何を隠そう僕も雑誌のランクを見て買ってみようかと思った訳だが。

ミニマルということは音楽から余計なもの、なくていいものを極限まで削ぎ落すということ。それはすなわち曲のコアだけで勝負することを意味する。あるいはそこで奏でられるひとつひとつの音の必然性、それがそこにある意味が厳しく問われるということを意味する。そのようなスタイルで戦いながらこれだけの評価を得ているということは、彼らの表現が、ミニマルものにありがちな単なる雰囲気ものに陥っていないということだろう。

ミニマルで静謐とはいえサウンドはエレクトロニックな契機を取り込んだ優れてコンテンポラリーなもの。小さな声で歌うことでより聞き耳をそばだてさせる手法はベルセバにも通底するものだが、そこにおける表現のベクトルはより前方に向いていると言っていいだろう。こっちのテンションが高い時でないと耳元をそのまま通り過ぎて行ってしまうきらいはあるが、機械的に奏でられるビートが心音のように聞こえるのは偶然ではない。

 
LONERISM Tame Impala 7竹

オーストラリアのサイケデリック・バンド、テーム・インパラのセカンド・アルバムらしい。まったく予備知識なくNMEの年間ベストアルバムだというだけの情報を頼りに買ってみたアルバムだ。ロッキング・オンのバックナンバーもひっくり返してみたが、通り一遍のディスク・レビュー以外にはインタビューもなかった。内容的にはサイケの中でも極彩色系とでもいうか、陽性なトリップ感のあるオーソドックスなサイケ・ロックである。

まあ、サイケにオーソドックスとかあるのかという感じもするが、プヨプヨ鳴っているシンセとか、左右に大きく振れる定位、深めにかかるリバーブや微妙にピッチをずらしたようなギターの鳴りなど、サイケデリックな音を作れと言われた見習いミキサーが作りそうな教科書的サイケ。しかし、ではそれがつまらないかといえばそんなことはまったくなく、なかなかドライでクリア、鮮度の高いサイケを爽やかかつ大らかに聴かせてくれる。

ドラッグをキメて散らかった部屋でどろ〜んとしてるようなイリーガルでイモラルな感じはまったくなく、太陽と青空の下で素っ裸になってるような屈託のないサイケ。まあ、オーストラリアというところはそういう国なのかもしれない。そのクリーンな感じは、スパスパと時代相が切り替わりながら次を急がされる現代にむしろ似つかわしいのかもしれない。ドラッグでどろ〜んとしているヒマなんかないオレたち向けのサイケデリックだ。

 
BABEL Mumford & Sons 8梅

オルタナティヴという言葉はメイン・ストリームの存在を含意として内包している。主流があって初めて「それとは違うもの」があり得るのは語義的に当然のことだからだ。ロック音楽にオルタナティヴという言葉が使われるようになったのはそんなに古いことではないが、そこには確かに意識されるべき主流が常にあり、それに代わるべきもの、サブスティテュートとして自らを規定してきたのがオルタナティヴだということになるはずだ。

だが、そのようなオルタナティヴ概念をそもそも無効にしてしまいそうなのがこのマムフォード&サンズである。イギリス出身のバンドだが、バンジョーやマンドリン、ドブロ・ギターなどを多用した音楽は、カントリー、フォーク、ケルティックなどの泥臭いルーツ・ミュージックを想起させる極めてベーシックで重厚なもの。しかしそこにあるのはあくまでコンテンポラリーなスピード感によって裏打ちされた21世紀の焦燥と赦しである。

これは果たしてメイン・ストリームなのか、あるいはオルタナティヴなのか。いや、もうそんなことはどうでもいいのだろう、たぶん。こういう音楽がイギリスから出てくるということ。そしてそれがイギリスでもアメリカでも受け入れられ大きなセールスを上げるということ。それこそがもうオルタナティヴという概念の立て方自体を過去のものにしたのだ。この音楽がなぜコンテンポラリーなものとして機能しているか、それが知りたい。

 
SHIELDS Grizzly Bear 7松

もちろん音楽に流行りすたりはある。80年代、90年代に僕が聴いてすごいと思ったものはたいてい今でもすごいと思うが、それでは今のバンドがこの2013年に同じような音楽を鳴らしたとして、それが同じようにすごいと思えるかというとそれはまた違う。どういう理屈かは分からないが、その時代に響く音楽というのはあって、その時代に最も切実な音楽を鳴らすと、自然にある種の音に収束して行く傾向は確かにある。それが時代の音だ。

このグリズリー・ベアのアルバムはまさにそういう時代の音である。ニューヨークのブルックリンを拠点に結成されたバンドらしいが、ブルックリンと言えばMGMT、アニマル・コレクティヴ、ヴァンパイア・ウィークエンドなどを輩出している土地柄で、よく聴けばそれぞれ傾向も違うのだが、そのバンドとしての佇まいには何か共通した今日性のようなものを感じる。マッチョイズムから遠く離れた誠実なポップネスとでも言うべきものを。

音作りはアグレッシヴにも思えるし、典型的なポップ・ソングという訳では決してないが、今、生真面目に世界と向き合い、その経験を音楽に定着しようとすれば自然にこうなると言わんばかりの必然性、説得力は強固なものがある。曲調や楽器の使い方はそれなりにバラエティがあるのに全体として非常に内省的に聞こえてしまうのはその真摯さのせいか。質は高いし良心的なのだが何か一つ遊びとかチャームみたいなものがあればと思う。

 
SWING LO MAGELLAN Dirty Projectors 8松

この人たちもブルックリン一派らしい。とても頭のいい音楽である。往年のトーキング・ヘッズとかを感じさせるインテリジェントでスマートなロックである。しかしもちろんインテリジェントでスマートなだけの音楽が面白いはずもなく、そこにどれだけエモーショナルで自発的なものを詰めこめるかがロック表現としてのキモだと思う。そして、彼らは、インテリジェンスとエモーションの奇跡的なバランシングに成功したと言っていい。

耳に残るのはまず音数の少なさである。ほとんどパーカッションとギターだけのように聞こえる曲もあるし、大仰なオーケストレーションとは無縁のミニマルな音づくり。その分、ひとつひとつの音の強度がしっかり試されていて、少々ゆさぶりを受けてもびくともしない体幹の強さみたいなものが備わっている。それぞれの楽器の音が手にとって確かめられるくらいはっきりと、実感を伴って伝わってくる。このリアルさは特徴的なものだ。

そして、そこに乗せられるメロディ、ボーカルの質感もまた際立っている。起伏のはっきりしたメロディや印象的なリフレインはバンドの中心人物デイヴィッド・ロングストレスのソングライターとしての高い資質を裏書きしている。また、女性コーラスを多用した「人の声」への明らかな信頼はまさにこのバンドにおけるインテリジェンスとエモーションの接点である。雑誌の年間ベストを見て聴いた一連の作品の中では出色の出来だった。

 
ARC Everything Everything 7竹

買うかどうか結構ボーダーだったが、タワレコで視聴してみたら悪くなかったのと、店頭のアオリが「現代のXTC」みたいに書かれてて納得したから買ってみた。で、今、ファーストの時の自分のレビューを見たら「この感触はどこかで聞き覚えがあると思っていたが、ようやく思い当たったのはXTCだ」とかって書いてあったので笑った。3年前のことだが聴き方、感じ方が一貫しているということか。しかも8梅とか結構いい評価つけてる。

咳き込んで始まる冒頭の『Cough Cough』がまず秀逸。3連符が印象的なリズム・オリエンテッドの意欲作だが、他の曲と同様、起伏に富んだ美しいメロディがアレンジ面での冒険を下支えしていると言っていいだろう。ミドル・テンポでまさにメロディ勝負の曲も見られる一方、ロックとしては非典型なリズム・アレンジでぐいぐい押してくる彼ららしい曲も揃っており、その意味では前作からの期待を裏切らない好アルバムに仕上がった。

XTCを連想するのはジョナサン・ヒッグスのボーカルのしゃくり方がアンディ・パートリッジを思わせるからか。トム・ヨークにも似たハイトーンだが、それもこのバンドのアクセントになっている。ただ、XTCのいくつかのアルバムがそうであるように、完成度の高さが息苦しさにつながりかねないリスクをこのバンドははらんでいる。悪くないが、生真面目さが風通しの悪さや構築主義に転化しないようにコントロールすることが必要だ。

 
HOLY FIRE Foals 6竹

ああ。ファンキーでダンサブルなロック。何かそれ以上書くことがない。僕は会社への行き帰りでiPodにぶちこんだアルバムを聴き、家で晩メシを食べてPCの前でサイトの更新の作業とかする時に横に置いたCDプレーヤーでも聴く。新譜を買ったときはレビューするまでにだいたい5、6回から10回くらいは聴くのだが、このフォールズのアルバムはいくら聴いても語るべき言葉が出てこなかった。耳では聞いているのに頭に入ってこないのだ。

どんなアルバムでも、何回か聴いているうちに何らかの印象なりレビューを書くとっかかりになるキーワードなりが自分の中に形成されてくるものだが、このアルバムは本当に何も出てこない。ズンチャカズンチャカ調子はいいのだが、曲が曲としてひとつずつ立ちあがってこないし、それならアルバム全体として何かトータルなビジョンのようなものを見せてくれるかというとそれもない。表情というか陰影というか輪郭がはっきりしない。

音作りは重厚でスペイシー。無駄に大仰な割りにそれがアルバムのスケール感として結実していない。店頭で見つけ試聴して買ったはずなんだが何を聴いていたのか自分が分からない。きっとまたあの密閉型ヘッドフォンで大きめの音にやられてしまったのだ。緻密に構築されているのは分からないでもないが、ファーストではそこにあったように思えた風通しみたいなものがなく単調で息苦しい作品になってしまっている。次作は買わない。

 
DOWNTOWN ROCKERS Tom Tom Club  
THE 99TH MONKEY The Collectors  
 



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