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JAKE BUGG Jake Bugg 8竹

「公営住宅のボブ・ディラン」とも称される弱冠18歳の驚異の新人、ジェイク・バグのデビュー・アルバムである。全英1位を獲得したそうで、ちょっとしたブームになっているようだ。内容的にはアコースティック・ギター主体のフォーク・アルバムで、ドラム、ベースを加えてバンド仕立てになっている曲もあるが、基本的には抑制的で素朴でシンプルなアレンジ。声も特徴的でボブ・ディランを引き合いに出したくなるのも分かる内容。

だが、実際のところ、これは決して何かを模しただけの雰囲気ものではない。ほとんどの曲は3分程度だが、このアーティストは、その長さとシンプルなアレンジでもひとつひとつの曲のニュアンスをギュッと凝縮して聴き手に伝えきってしまう明快な表現力を持っている。輪郭のくっきりした平易なメロディの浸透力が際立っており、多くの人の口から口へと歌い継がれて行く本来の意味でのフォーク・ソングとしての力を予め備えている。

しかし、何よりすごいと思わせるのは、そうした表現が老成したベテランのアーティストの経験や知恵から出てくるのではなく、18歳の少年の初期衝動として余計な手続きが一切省略されたところから直接突きつけられているということ。だから音楽の持つ力が伝わる途中でロスしたり減衰したりせずに初速のままで聴き手に伝わってくるのだ。この確信に満ちた音楽はすべてのロック表現の基礎になるもの。騒がれるだけの意味がある作品。
 

 
BIST DU DABEI? Space Kelly 7松

僕はドイツに通算8年間住んでいて、その間毎週のようにCDを買い続けたが、ドイツ人アーティストのアルバムというのは1枚も買ったことがなかった。というかドイツ人のロックというのにまったく興味がなかったのだ。僕の認識によればドイツには僕の愛好するようなギター・ポップ的なものは存在しない。そういう細かいニュアンスの機微とかが分かる人たちではないのだ。そう、このスペース・ケリーこと、ケン・ステーンを除けば。

オリジナル・アルバムとしては2002年以来10年ぶりの新作。その間、2枚のカバー・アルバムはあったがケンのオリジナル曲を聴くのは本当に久しぶりである。全編ドイツ語だが、ティーンエイジ・ファンクラブやBMXバンディッツなどのグラスゴー一派と通底するみずみずしいポップ・ソングが全開。せつないラブ・ソングを美しいメロディとシンプルなネオアコ的アレンジに乗せて歌うスタイルは、デビュー当時から全然変わっていない。

こういう「真空パックされたネオアコ」みたいなものがドイツに現存するのはそこがポップ・ソングの辺境、周縁であるが故か。状況的なモメントと無関係に、まったくケンの個人的な営みとして制作された音楽であるからこそ、このアルバムはギター・ポップのイデアみたいなものに近い。レビューしたら聴かなくなるCDが多い中で、ケンのアルバムは何度も繰り返して聴くアイテムのひとつ。大事な時期を分け合った元カノみたいな音楽。
 

 
PLATINUM COILS The Monochrome Set 7梅

これはもうハズレ承知で名前で買ったアルバム。モノクローム・セットと言えば80年代にチェリー・レッドなどから何とも言えないヨレた感じのギター・ポップのアルバムを発表していたバンドだが、名前も聞かなくなって久しかったところに、突然リリースされた新譜である。経緯とかよく知らないし正直少々ひどいものでも諦めるつもりの懐かしさ半分で買ってみたのだが、聴いてみると笑っちゃうくらいの変わらなさでまずは安心した。

ここには進歩とか発展とかそういうポジティブな右肩上がりのモメントはない。あまりにも僕が80年代から90年代にかけて聴いていたモノクローム・セットそのままの、初めからB級であることを自分に課して生まれてきたような、どこか気が抜けてどこかに余分に力が入ったような独特のバランスの音楽。だが、考えてみれば彼らの音楽は当時からやはり進歩とか発展といった資本主義的な神話とは無関係に涼しい顔で鳴っていたのだった。

B級であるということは、初めからメイン・ストリームに対してのオルタナティブであるということなんだし、それは、人は成長しなければならないというオブセッションに対する反論でもあり得るだろう。世の中がどんなにハードになり、複雑になっても、ヘロヘロのギターをベンベン鳴らして頼りない声で歌い始めることには意味があり、価値がある。そして、そういう世界ではこのバンドは間違いなく一級品だ。そう、B級のプロなのだ。
 

 
AMERICAN SOUL Mick Hucknall 7竹

シンプリー・レッドのミック・ハックネル、入魂のソロ・アルバムだが内容的にはカバー・アルバム。企画盤扱いで採点スキップしてもよかったんだけど、スルーできないのはやっぱこの人の業の深さゆえというか、単純に聴いて気分いいから。選ばれているのは古今のソウル・ミュージックということだが正直知っている曲はほとんどない。僕自身としてはもっと60年代的なコテコテのソウル、R&Bが好みだが、これはこれで全然悪くない。

黒人に憧れる白人少年の系譜というのは英米サブ・カルチャーにはあるようで、例えばヘントフの「ジャズ・カントリー」とかも感銘を受けた。ミック・ハックネルもきっと黒人になりたいのだろう。そして、そういう思いは時として黒人以上に黒人らしいソウル・ミュージックに昇華して行くことになる。決して成就することがないのを分かりながら、それでも胸に抱える渇望ほど強いものはないからだ。その渇望が思いを純化して行くのだ。

シンプリー・レッドの時は良くも悪くもコンテンポラリーなものというか、コマーシャル・ミュージックとして最前線にコミットする気負いみたいなものがあったが、ここではカバーということもあってか好きなものを好きなように歌っている感がより強い。ていうか、そのためのカバーってことかな。そして、それが趣味性に自閉することなく、むしろそれゆえコマーシャル・ミュージックとして完成しているところがこの人のスゴいとこ。
 

 
IN MOTION PICTURES Elvis Costello  
CHRISTMAS SONGS 山田稔明  
日本の恋と、ユーミンと。 松任谷由実  
TOUCH ME, SEIKO II 松田聖子  
GOLDEN BEST 40TH ANNIVERSARY EDITION 伊藤銀次  
 



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