logo 2012年9・10月の買い物


COME OF AGE The Vaccines 8竹

昨年デビューしたバンドのセカンド。前作でもストレートなロックンロールとその奥に隠れた叙情的なソング・ライティングを評価して高い点をつけた記憶があるが、短いインターバルでリリースされた本作もファーストをさらにバージョン・アップしたような快作である。タワレコの店頭で流れているのを聴いて新譜が出ているのを知り、潔いロックンロールに改めて感銘を受けレジに直行したのだが、もちろん聴くべきはそれだけではない。

時代性とか意味性を一気に飛び越えて見せるギターという特別な楽器の特別な鳴り。僕たちの胸の中の最も柔らかいところを乱暴にかきむしるみたいなささくれだった金属製の弦の震えが電気的に増幅されて輪郭のくっきりしたメランコリックなメロディを運んでくる。それは情動の最も深いところを直接ビートするための最強のコンビネーションだ。手っ取り早くカッコつけたい中学生や高校生がいまだにギターを手に取る理由はそこにある。

シューゲイザーを初めとする80年代のインディ・ロックに憧れてその表面をなぞろうとするバンドは数多いが、パンクが終わった後で「その次に来るべきもの」を探しながら試行錯誤を続けた80年代の自由さを継承しているのはむしろヴァクシーンズのような率直なバンドの方ではないかと思う。彼らのこの後ろ盾のない身軽さは、何もかもが等価で選択できるiTunes的なるものが前提になったシーンの中でこそ貴重な属性。次作も楽しみだ。
 

 
CENTIPEDE HZ Animal Collective 8竹

実験的だと評されていたので買うのをやめようかと思ったんだけど、例によってタワレコの試聴機で聴いてみたら確かに実験的なんだけど何だかすごく楽しそうだったので思わず買ってしまったアニマル・コレクティヴの新譜。僕はもともと極めて保守的なロック至上主義者なので、そこから逸脱して行く音楽は基本的に苦手としており、例えばレディオヘッドとかも、重要なのは分かるが音楽としてはあまり楽しめないし好きになれないのだ。

そういう意味ではこのアルバムも伝統的なロックからは限りなく逸脱して行く音楽だし実験的なのは間違いない。ロックとしては非典型なリズムの反復の上にサウンド・コラージュのような音の断片が乗っかってくる。水中で歌っているかのようなボーカルが彼岸からの呼び声みたいに遠く聞こえてくる。丹波哲郎の言う死後の世界とはこういう感じかもしれないと思わせる、お花畑感満載のサイケデリックな万華鏡である。ああ、世界は回る。

だが、このアルバムがそれにもかかわらず僕に何事かを親密に訴えかけてくるのだとすれば、それは童謡にも似た明快なメロディの仕業である。そこにおいてアニマル・コレクティヴの音楽は確実にアメリカン・フォークの土壌に連なっていると僕は思う。もしこの音楽を楽しむ資格のようなものがあるとすれば、それはこの音楽の前でどれだけリラックスできるかということだ。難解な本作を読み解くカギは意外と「稚気」なのかもしれない。
 

 
MIGHTY ROSE Box 8松

杉真理と松尾清憲を中心とするボックスの3枚目のアルバム。といっても2枚目がリリースされたのは1990年だったのだから実に22年ぶり。杉と松尾といえばピカデリー・サーカスというバンドも一緒にやっているが、ピカデリー・サーカスがいかにもおじさんたちの余暇活動臭く弛緩し自閉したものだったのに対して、このボックスの新作は音楽を奏でることの率直な歓びが逆に音楽そのものを対象化して、風通しのいい作品に仕上がった。

松尾の影のあるメロディとクセのあるボーカルに対して、杉のメジャー系のメロディと陽性のボーカルはもともと好対照だが、それを意図的に一曲の中に詰め込み、曲そのものを異化して行く手法はこの組み合わせでしかなし得ないものであり、大げさに言えばひとつの奇跡。もはやビートルズのオマージュを越えワン・アンド・オンリーのデュオとして代えの利かない付加価値を勝ち得ている。ファーストに勝るとも劣らぬ音楽的達成だ。

島村英二のドラムもまた素晴らしい。ファーストではリンゴ・スターの人間臭く手数の多いドラムをドラム・マシンと飯尾芳史のミキシングで見事に再現していたが、今度はそのバシャバシャ感を島村が人間の手で再構築しているのである。正確無比なのにそこから音楽が、歌が聞こえてくるドラミングは職人芸の域を軽く逸脱しそれ自体がひとつの表現。もちろん飯尾のエンジニアリングも健在で、同窓会どころではない22年目の傑作だ。
 

 
MORE... OR LESS. THE SPECIALS LIVE The Specials  
OPUS 山下達郎  
 



Copyright Reserved
2012 Silverboy & Co.
e-Mail address : silverboy@silverboy.com