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THE BOMB SHELTER SESSIONS Vintage Trouble 7竹

これはベタな音楽である。ふだん難しい顔をしてレディオヘッドとかベックとかを聴きながら分かったような分からないようなカッコつけたレビューを書いてても、ほんまはこういうんが好きなんやろ、オラオラ、身体は正直やのう、こんななっとるやないか、ひひひ、という音楽なのだ。そしてそれがまた実際いいのである。悔しいけど身体が反応しちゃうんである。プライドさえかなぐり捨てればあとはもう快楽に身を任せるだけなのだ。

音楽的には正統的なオールド・スクールのR&Bをベースにしたタメのあるロックであり、例えばレニー・クラヴィッツやテレンス・トレント・ダービーなんかにも近いものがある。だが、ここにあるのはそれらよりももうちょっと恥ずかしげのないそのまんまのR&Bでありスタックス・ソウル。悪く言ってしまえばこれはもうロックというよりある意味演歌の世界である。北島三郎に歌ってもらっても違和感のない本格的な腰の入り具合なのだ。

21世紀の現代において、これを認めるかどうか本当なら議論があってしかるべきなのかもしれない。何しろこれはレトロであり、保守反動なのだから。進歩主義者からすれば時計の針を逆に回すような音楽は、いかにトロトロにスウィートでも唾棄すべきものだからだ。だが幸運なことに僕は進歩主義者ではない。音楽の持つ原始的な力を最も効率のいい方法で解放しようとしたらこうなったという事実は謙虚に認めるべきだ。面白い作品だ。
 

 
MOTH Exlovers 7梅

このアルバムを聴くたびに何かに似ているとずっと思っているのだがそれが何なのか分からない。いや、確かにネオ・シューゲイザーに数えられるだけあって、マイブラに似ていると言えば似ている。あるいは、この現実から遊離した感じはむしろコクトー・ツインズとかラッシュとかの4ADのバンドに似ているような気もする。しかしそれよりももっと具体的に、かつてどこかで聴いた遠い記憶があるようにも思うのだ。いつか、どこかで。

そういう架空の記憶を呼び起こすバンドのひとつにベル&セバスチャンがある。ディックの『トータル・リコール』のように、こうであればよかったと思う理想の記憶を捏造し、無理やり脳みそに注入したような架空の既視感。だが、これはおそらくそんなロマンチックなものではない。要はマイブラや4AD、ライドなんかのいいとこどりを推し進めた結果、そのエッセンスを集めたようなキメラができただけなのではないのだろうかと思う。

作品としてはよくできている。単なる雰囲気ものではなく曲そのものがしっかり作られているので聴いていても飽きないし、シューゲイズがどうというような意匠の問題以前に音楽としての奥行きを備えている。耽美的というにはもう少しアクティヴな、ロックと呼ぶには少しばかり繊細な音楽。それにしてもナゾなのはこういう音楽がなぜか日本でだけ異様に受けることである。箱庭感は否めず世界の扉を開くような力はここにはまだない。
 

 
THAT'S WHY GOD MADE THE RADIO The Beach Boys 8梅

僕はビーチボーイズを聴いてこなかった。僕が洋楽を聴き始めた頃にはブライアン・ウィルソンは音楽業界からドロップ・アウトしており、ビーチボーイズは活動してはいたものの、音楽的な核であるブライアンを欠いたまま、ベテランのコーラス・グループとしてディナーショー的な「上がり」感満載のお気楽そうなツアーを行っていた。アルバムもコンスタントに発表してはいたが、とてもカネを出して買うような気は僕にはなかった。

「ペット・サウンズ」は「教養」として買って聴いたが、同時代的な体験のない僕がそのアルバムだけを単体で聴いても、そのすごさは今ひとつピンとこなかったし、復刻された「スマイル」も似たようなものだった。地獄の淵から生還を遂げたブライアン・ウィルソンのソロ・アルバムは買って聴いているし、その完成度には驚嘆することもあるが、結局のところ僕にとってビーチボーイズは歴史上の存在であり、教科書の中の音楽なのだ。

そのブライアン・ウィルソンが参加して制作されたビーチボーイズの新作である。結論から言ってしまえばどこまでも期待を裏切らないビーチボーイズのアルバムである。ファルセットを交えたさわやかなコーラス・ワークやハネた曲調のポップ・ソングは僕のような素人が思い描くビーチボーイズそのものだ。そしてこの十年一日感こそブライアンが目指したものかもしれない。そして、当たり前のことだが完成度は恐ろしく高いのだ。
 

 
CHEEKY FOR A REASON The View 7竹

最近の若いバンドの中では珍しく僕が固有名詞できちんと把握し新作をフォローしているザ・ヴューの新譜である。前作から1年という比較的短いインターバルでのリリースだが、その間にレーベルの移籍もあったようで、このバンドにとってひとつの転機、踏ん張りどころの作品なのかもしれない。プロデューサーにはアークティク・モンキーズ、レイザーライト、ジ・エネミーなどを手がけたマイク・クロッシーを起用しての勝負である。

インタビューなどを読むと、前作がプロデュース的に作り込んだ作品だったので、今作ではもう少しタイトなバンド・サウンドに回帰した、みたいなことを言っているのだが、実際に聴いてみると、確かにファーストのような身も蓋もないロックンロールもあるものの、実際にはソングライティングの成長を感じさせるおとなしめの曲も多く、全体としてはむしろスピード感においてより落ち着きを感じさせる仕上がりのようにも思える。

このバンドの生命線は緻密なソングライティングとロックンロールの初期衝動的なインパクトの高いレベルでの止揚だと思うのだが、その意味ではこのバンドはどこまで行ってしまうのだろうと心配になるくらいの規格外の弾け感みたいなものは本作では影を潜め、普通にいいバンドになっちゃったんじゃないか。耳に残るフックの巧さは相変わらずだし、それがわざとらしく響かないのは人徳だが、アルバムとしては物足りなさの残る出来。
 

 
未来はパール パール兄弟  
パールトロン パール兄弟  
 



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