● ROCKET JUICE & THE MOON Rocket Juice & The Moon |
7梅 |
ブラーのデーモン・アルバーン、レッド・ホット・チリ・ペパーズのフリーと、「アフリカン・ミュージックの伝説的存在フェラ・クティの右腕であったナイジェリアのドラマー」トニー・アレンを中心としたプロジェクト。内容的には、アフリカンなテイストを効かせたクラブ・ミュージックとでも言おうか、ゴリラズのアフリカ版とでも言おうか、いい具合にエスニックでいい具合にポップ。チャーミングで聴きやすい作品に仕上がった。
正直、僕たちポップ・リスナーがこういうのを聴くときには、まったくのアフリカ土着音楽のような呪術的、祝祭的な「本物」を期待している訳ではなく、あくまでデーモンがそれを白人的にプロセスしポップ・ミュージックの規格に収めてウェル・プロデュースしてくれたアルバムを想定している。それは見方によっては植民地主義的な「未開」への眼差しであり周縁からの収奪である。そういうインコレクトネスをこの作品は孕んでいる。
それは、例えばポール・サイモンの「グレイスランド」やトーキング・ヘッズ、デヴィッド・バーンの一連の作品についても言えることだ。だが、ここで注意したいのは、この作品の底流にとてもハッピーなバイブレーションがあること。多弁で人なつこいトニー・アレンのドラムを中心に、どこかウェットで情緒的なメロディが語りかけるスタイルは、そうした理屈以前に音楽本来の「楽しさ」に根差していると言っていい。面白い作品だ。
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● IN THE BELLY OF THE BRAZEN BULL The Cribs |
7竹 |
前作に参加して大きな話題になったジョニー・マーがバンドを脱退、再びトリオに戻っての新譜である。考えてみれば僕もジョニー・マーが加わったということで初めて彼らのアルバムを聴いた訳だし、そういう意味ではバンドを世に出すのに彼が大きな役割を果たしたことは否定できないのだが、このアルバムを聴くと別にジョニー・マーがいなくたってこのバンドが実に骨太で実直なギター・バンドとしての芯を持っていることが分かる。
デイヴ・フリッドマン、スティーヴ・アルビニをプロデューサーに迎えた本作は、ラウドでストレートなギター・ロック。というか、もともとそういうバンドなんだと思うんだけど、イノベーションとか進歩といったようなドグマは初めから信じていないのだろう。そこにあるビートがすべてという現場至上主義みたいなものは、本来は労働者階級の音楽であるロックに似つかわしい。華はないがオトコ受けしそうなボーイズ・ロックである。
だが、何度もこのアルバムを聴いているうちに、イギリス人らしい繊細な泣きのメロディが聞こえてくるだろう。ラウドでストレートだが、決してヘヴィでもハードでもない、センチメンタルでクリアなギターの鳴りにも気がつくだろう。当たり前のロックを当たり前にやりながら、この業界でそれなりに結果を残しアルバムが発表できていることの理由が少しずつ分かってくる。とはいえ終盤に組曲的なものを導入したのはちょっと冗長…。
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● STREETS IN THE SKY The Enemy |
7松 |
2007年に生きのいいビート・パンクでデビューした彼らも既に5年選手になり3枚目のオリジナル・アルバム。前作ではより王道のスタジアム・ロック路線に踏み出そうとしたが、いかんせんソング・ライティングがついて来ず、退屈で凡庸なアルバムに仕上がってしまったと僕は酷評した記憶がある。それが聞こえた訳でもあるまいが、本作では再びファーストの頃のビート・パンク路線に回帰、思いきりのいいジャンプ・ナンバーを聴かせる。
とはいえ、ビート・パンクでも何でも曲そのものが退屈なら、いくら威勢のいい演奏でスピードだけを上げてみても聴くに値するものにはなりようもない。だとすれば、本作で聴くべきポイントは、ビート・パンク路線への回帰というスタイルの変化ではなく、彼らのソング・ライティングの進歩にこそあるのかもしれない。実際、一つ一つの曲そのもののメリハリの効いた構成力、訴求力はこのバンドが確実に成長していることを感じさせる。
同時期にデビューしたザ・ヴューに比べると、音楽的な実力において見劣りすると思っていたが、本作ではこれまで顕著に見られた勢い任せ、意気込み優先のバランスの悪さはかなりの程度解消され、ビート・パンクという得意技を生かして音楽そのものの内容も充実させてきたと言っていい。バンドとして真価を問われる年頃で、次にどういうものを作るかは課題として残る訳だが、いいアルバムを作ってまずは生き残りに成功したと言える。
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● HERE COME THE BOMBS Gaz Coombes |
6松 |
スーパーグラスのフロントマンであったギャズ・クームスのファースト・ソロ・アルバム。スーパーグラスといえばブリットポップ全盛の頃にデビューし、ハイプかと思われながらアルバムごとに確実な成長を果たして、いつの間にか王道のロックを鳴らすようになったバンド。知らなかったのだがどうも2010年に解散したらしく、ギャズはホットラッツというサイド・プロジェクトを経て今回初めてのソロを発表することになったものらしい。
結論から言えば、これは僕が想像していたものとは大きく異なっていた。僕のイメージではもっとざっくりした、ロックンロールの初期衝動に立ち返ったようなストレートなアルバムではないかと思っていたのだが、ここではギャズはそのような分かりやすい特定のモードには入らず、音楽の最前線に踏みとどまって、2012年型のロックの間口を自らの手でトレースしている。エレクトロニカやダブステップからの影響も感じさせる仕上がりだ。
しかし、その分、曲としての分かり易さが犠牲になった感は否めない。曲想はバラエティに富んでいるが、大半の曲はとっつきにくい硬質な手触り。スタジオに閉じこもってひたすら自分自身の中へ沈潜して行くような、内省的で影のあるトーンがアルバム全体の通奏低音になっている。誠実に作られたアルバムだとは思うが、正直、何度も繰り返して聴きたくなるようなチャームには欠けている。生真面目さが全体を見えにくくしてしまった。
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● ISN'T ANYTHING My Bloody Valentine |
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● LOVELESS My Bloody Valentine |
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● EP'S 1988-1991 My Bloody Valentine |
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