logo 2010年11・12月の買い物


MAN ALIVE Everything Everything 8梅

ちょっと前にブリットポップとかいう盛り上がりがあった。ああいうハイプ的な盛り上がりというか盛り上げ自体にはあまり言うべきこともないが、イギリス人にはちょっとひねりの入ったアレンジとかどこか記憶の片隅を突くようなメロディとか、そういう大陸的な力勝負の場では細かすぎて伝わらない芸風を重んじる伝統的な気風のようなものがあるのだろうか。僕が英系の音楽を好んで聴くのはまさにそうした島国の遺伝子のせいである。

ブーム的なものは別にしてもそういうバンドがきちんと継続的に現れてくるのがイギリスのいいところで、このエヴリシング・エヴリシングも僕のツボにはまった。バンド名やジャケットにはあまり食指は動かなかったのだが、音楽誌での高い評価を見て騙されたつもりで買ってみたら当たりだった。起伏がはっきりしてちょっとクセのあるメロディと、ロックの定型を敢えて少しだけ逸脱してみせるアレンジは島国遺伝子の系譜に連なるもの。

この感触はどこかで聞き覚えがあると思っていたが、ようやく思い当たったのはXTCだ。リズムやアレンジでの冒険がしっかりしたソングライティングに下支えされているところやエキセントリックなボーカルなんかはそっくりだが、もちろん音楽的な文脈としては2010年のシーンに属していて、イギリスのシニカルさの10年代的展開と言っていいだろう。聴く度に新しい発見があり次が楽しみ。難解な方面に行ってしまわないことだけを願う。
 

 
IT'S WHAT I'M THINKING Badly Drawn Boy 7竹

昨年テレビ番組のサントラを出していたらしいが聞き逃していた。オリジナルとしては4年ぶりとなるアルバムは、これまでのEMIを離れインディペンデントからのリリースとなったようだ。この人の場合、オーケストレーションが結構分厚かったりするのでインディペンデントでの制作はきついのではないかなどと邪推してしまうのだが、作品としての仕上がりはメジャーからのアルバムと遜色なくゴージャス。彼らしさがきちんと出ている。

丁寧に、端正に作りこまれた楽曲を、大事なものを守る繭のように深みのある音像で包みこむ手法はこれまでと変わりない。達者なソングライティングも健在で、ひとつひとつ手に取り、息を吹きかけて磨きたくなるような、それぞれ深い滋味をたたえた曲に彼の声が生気を吹きこんで行く。華麗なオーケストレーションも決して歌を邪魔することなく、全体として非常にバランスの取れた、率直で実直なシンガー・ソングライター・アルバム。

もっとも、この音楽がコミットすべきモメントは、ロンドンから遠く離れた極東の島国で毎日満員電車に揺られて通勤する僕たちとどこかで共通しているのだろうか。心地よく聞き流すこともできるが、本当はおそらくこのオーケストレーションの奥に大事に守られた表現の核のようなところまで分け入ることを求めている音楽であり、そのために僕たちは「忙しい」という言い訳をいったんどこかに置いてくるだけの覚悟が必要だのだと思う。
 

 
HALCYON DUGEST Deerhunter 7松

音楽各誌の年間ベストに軒並みランク・インしているのを見て後づけで買ってみた今年唯一のアルバム。2009年発表のアニマル・コレクティヴに始まり、2010年のヴァンパイア・ウィークエンド、アーケード・ファイアなど、僕としては新しい世界が開けたようなここ1年だったが、本作も僕の中ではそれに連なる作品。ふわふわと浮遊するようにサイケデリックな仕上がりで、夢の中で聴いた音楽のように桃源郷を幻視させるトリップ感満載。

だが、僕がこのアルバムを聴いて印象に残ったのは、むしろジーザス&メリー・チェインあたりからの影響を感じさせるギター・ナンバーなど、比較的ストレートに聞こえる曲で見せる普通の顔のすごみである。そこにおけるロック基礎体力とでもいったものの確かさがあってこそのサイケデリックであり、我に返った酔っ払いの鋭い眼光のように彼岸から聞こえてくるオーソドックスなエイト・ビートのロックに僕は聴き入ってしまうのだ。

すべてが終わってしまったところから始めるしかない2010年代のロックは、ひとつ間違えばただの屍体愛好に堕するリスクを常に孕んでいる。何もかもがバーチャルに経験できる環境の中で、僕たちは音楽を通して自分がまだ確かに呼吸していることを確かめなければならないのだが、それは果たして可能なのか。浄土へと続くお花畑に生気を吹き込んでいるもののことを問題にするべきアルバム。現実への帰還の意志こそがここでのポイント。
 

 
BUTTERFLY HOUSE ACOUSTIC The Coral  
STRAWBERRY JAM Animal Collective  
SONGS ABOUT JANE Maroon 5  
IT WON'T BE SOON BEFORE LONG Maroon 5  
THE FREEWHEELIN' Bob Dylan  
HIGHWAY 61 REVISITED Bob Dylan  
THE NIGHTFLY Donald Fagen  
THE LONG ROAD HOME John Fogerty  
AN INTRODUCTION TO SYD BARRETT Syd Ballett  
UPSIDE DOWN THE BEST OF The Jesus And Mary Chain  
 



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