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CONTRA Vampire Weekend 8梅

こういう作品が当たり前のように出てくる度に、僕もいい加減アメリカ派に宗旨替えした方がいいのかもしれないと本気で思う。ベックは当然として、マーキュリー・レヴやフレイミング・リップスを聴いたときもそう思った。このヴァンパイア・ウィークエンドもニュー・ヨークのバンドらしいが、恐ろしく入り組んで多様な音楽をやりながら、それをこれだけフレンドリーな表情で世界中に流通させてしまう力量はやはりただごとではない。

何もかもが過剰なほど饒舌でありながら最終的には明快なメロディだけが残響のように焼きついて行く「結局ポップ」という魔術。アフロ的要素も強く、リズムにおける展開のスリルという点ではあのトーキング・ヘッズを思わせる部分もあるが、ヘッズがどこまでも理論先行のインテリ・バンドであったことに比べれば、このバンドはインテリではありながら、そこにおける音楽との距離感はヘッズよりももう少しだけフィジカルにも思える。

エイト・ビートでジャカジャカやるのがロックだとすれば(そして僕は今でもかなり本気でそう思っているが)これはロックではない。しかし、こうして時代相としっかり噛み合いながら、それでいて万人に開かれた音楽たり得ているところはむしろロックの本質に近い。とにかく理由もなくシニカルになったりしないところが素晴らしく、それはもうシニカルになっているヒマすらない2010年最初に鳴らされる音として相応しいと言うべきだ。
 

 
SATURDAY Ocean Colour Scene 7竹

今や20年のキャリアを誇るベテラン・バンドになったオーシャン・カラー・シーンの9枚目のアルバムである。世間ではスモール・フェイセズなどに影響を受けたストレートなロック・バンドとしての地位を不動のものにしつつあるようだが、僕の中では、つきあいは長いがいまだに性格がつかめない友達のように、どこか明確な像を結ばない中途半端な存在であり続けてきた。そしてその僕の印象は今作でも大きく変わることはなかった。

もちろん世間での評判通りギミックもはったりもない、笑ってしまうくらい真っ正直なロックが奏でられていること自体は間違いがなく、そこにはいささかの揺るぎもないし、もはや「持ち味」とかを超えて「芸」の域に達しつつあるような「達者」さは見事だ。普通のことを真面目にやるのが結局は正しいのだと身をもって示しているようで、サラリーマン的には実に説得力のある作品である。ロック偏差値が高く、破綻のない佳作である。

だが、「破綻がない」ことはロックにおいて果たして評価されるべきことなのだろうか。この「分をわきまえた」感じ、決してあらかじめ想定された最後の外枠からははみ出さない感じは、抜群の安定感の源であり、彼らの音楽的実力の顕著な現れである一方、思わずジャケットに書かれた曲名を確認するような「規格外の1曲」がないのも事実。コマーシャルな土俵で勝負できるバンドなのに、「良質な音楽」に自足してしまうことが心配。
 

 
SCRATCH MY BACK Peter Gabriel 6竹

ジェネシスというプログレ・バンドを知っているだろうか。僕は知らない。てか聴いたことがない。このピーター・ガブリエル(通称ピーガブ)はそのジェネシスのフロントマンだったのだがどういう訳かあっさりバンドを抜けてしまい、ソロ・キャリアをスタートさせた人だ。ジェネシスは、ドラムのフィル・コリンズがやむなく代わりにボーカルを担当し、どうした訳かピーガブのいた頃より華々しい商業的成功を収めるに至ったのである。

さて、本作はそのピーガブが久しぶりに発表したカバー・アルバム。僕にとってピーガブは「スレッジハンマー」の人であり、86年のアルバム『So』はアナログ盤で持っていたが、その後の作品は聴いていなかったので、あんな感じのガチャガチャ楽しいカバー・アルバムを想定していた。元ネタもデヴィッド・ボウイ、ポール・サイモン、トーキング・ヘッズ、ルー・リード、ニール・ヤング、レディオヘッドと来れば期待するだろう、普通。

ところが実際に聴いてみるとこれがオーケストラをバックにした極めて格調の高いものだったので驚いた。まあ、もともとプログレの人なんだし、ソロではいわゆるワールド・ミュージックに傾倒したりするような人なので、「ロックじゃない」ことにひとつの軸があるのかもしれないけど、正直もう別世界の作品。年を重ねる、成熟するということがこういうことなら、たぶんこれが分からない僕はまだまだガキなんだろう。それで構わない。
 

 
SHIPAHEAD Tomita Lab  
RECKONING R.E.M.  
 



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