こういう作品が当たり前のように出てくる度に、僕もいい加減アメリカ派に宗旨替えした方がいいのかもしれないと本気で思う。ベックは当然として、マーキュリー・レヴやフレイミング・リップスを聴いたときもそう思った。このヴァンパイア・ウィークエンドもニュー・ヨークのバンドらしいが、恐ろしく入り組んで多様な音楽をやりながら、それをこれだけフレンドリーな表情で世界中に流通させてしまう力量はやはりただごとではない。
何もかもが過剰なほど饒舌でありながら最終的には明快なメロディだけが残響のように焼きついて行く「結局ポップ」という魔術。アフロ的要素も強く、リズムにおける展開のスリルという点ではあのトーキング・ヘッズを思わせる部分もあるが、ヘッズがどこまでも理論先行のインテリ・バンドであったことに比べれば、このバンドはインテリではありながら、そこにおける音楽との距離感はヘッズよりももう少しだけフィジカルにも思える。
エイト・ビートでジャカジャカやるのがロックだとすれば(そして僕は今でもかなり本気でそう思っているが)これはロックではない。しかし、こうして時代相としっかり噛み合いながら、それでいて万人に開かれた音楽たり得ているところはむしろロックの本質に近い。とにかく理由もなくシニカルになったりしないところが素晴らしく、それはもうシニカルになっているヒマすらない2010年最初に鳴らされる音として相応しいと言うべきだ。
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