老いてますます盛んというか何というか、休むことを知らないかのようにアルバムを発表し続けるエルヴィス・コステロの新譜。作品ごとに目まぐるしく作風が変わるのもいつものことだが、今回はカントリーのカバー集だったアルバム「ALMOST BLUE」に連なる、作品はオリジナルだが中身はベタベタのカントリー・アルバム、なのだそうだ。プロデュースはかつてアルバム「KING OF AMERICA」を手がけたTボーン・バーネット。そういえばあのアルバムも素晴らしくダウン・トゥ・ジ・アースだった。
確かにそう言われて聴けば間違いなくカントリー・アルバムなのだが、そういう事前情報なしにこのアルバムを買ってきていきなりオーディオにセットしたら、流れ出すのはカントリーではなくコステロの歌声だ。もはやこの声、この節回し、この手クセはエルヴィス・コステロというひとつの独立したジャンルであり、今作はたまたまその中でもカントリー編であるに過ぎない。これまでも弦楽四重奏編とかオペラ編とかいろいろあったが、今作もコステロにしてはささやかな振幅のひとつに過ぎない。
この程度のカントリー臭い曲はどのアルバムにも入っていたりするし、何か今までと違うことをやっている訳ではまったくない。それより聴くべきは、どんな趣向で歌われても決して失われることのないコステロの類まれなソングライティングの力とボーカルの表現力だ。カントリーって地味だしとか思ってこの作品を敬遠するとしたらそれは間違いなく大きな損失だ。カントリーを知らなくても、カントリーが嫌いでもこのアルバムは聴ける。なぜならこれはカントリーである以前にコステロだからだ。
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