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HEY VENUS! Super Furry Animals 7竹

これまで何かといえば傍流扱いというかゲテモノ扱いしてきたファリーズであるが、最近の何作かはもう主流とか傍流とかいうのもバカらしいほど彼らの音楽性を確固たるものとして違和感なく受け入れることができるようになってきた。もちろん独特の節回しとかアレンジとか妙なスペース感とか、ファリーズでしかあり得ない刻印はあちこちにあるのだが、それはもはやロックの周縁でのできごとではない。拡幅された部分もいつの間にか単なる路肩ではなくきちんと負荷を支える欠かせない道路の一部になった訳だ。

道路のその部分を走っているのがファリーズだけだという事実に結局変わりはないのだが、本作ではそのようなファリーズ専用車線を走りながらもロックの本質、メイン・ストリームにきちんと足がかりを持った作品になったと思う。前作はおとなしめでレイド・バック感が強かったが、今作では再び元気が出ているというか何というか、ポップ感、ビート感がきちんと前に出ていて、それがファリーズの持ち味である土着性とかねじれ感のようなものをより際立たせている。積極的に働きかけてくる作品であると言える。

これまで僕は、ファリーズの独自性の本質を実験的な前衛性だと思っていたが、このアルバムを聴くとむしろそれがダウン・トゥ・アースな根の張り方、ウェールズという確固たるアイデンティティを持つ彼らの「血」の濃さに由来するものではないかと思えてくる。全編をウェールズ語で歌ったアルバム「mwng」が、中身のちんぷんかんぷんさと裏腹に妙に説得力があったのもそういうことなのではなかったか。そこに足場がある限り、彼らの音楽が古びることはないし、まだまだ彼らによって奏でられるべき音楽がある。
 

 
さざなみCD スピッツ 8竹

僕がスピッツを好きなのは、だれでも彼でも部活動でもするようにバンドを始めるのが当たり前の世の中で、ロックというものに本来まとわりついている胡散臭さ、後ろ暗さのようなものを彼らが感じさせてくれるからだ。スピッツを爽やかで屈託のない「Jポップ」を歌う人たちだと思っているような人がいるなら僕はその人を信じない。このねじれ曲がったルサンチマンの塊みたいな音楽を聴いて、何かいけないことをしているような、聴いてはいけないものを聴いてしまったような気持ちになるのが正しい態度だと僕は思う。

本作でも草野にしか分からない妄想や言葉遣いがこれでもかというくらいぶちかまされる。その一方で音はますますシンプルに、コアなバンドサウンドになり、三輪のギターも快調に鳴っている。もちろん(アルバム・リリースの時点で3曲も揃っている)シングル曲はどれもポップでキャッチーだし、「P」や「砂漠の花」といったバラード調の曲も効いていてバランスは取れているのだが、初期を思い起こさせる「点と点」や「トビウオ」、「ネズミの進化」といった意外なほどワイルドな曲がしっかり自己主張しているのだ。

こんなアルバムを強引にポップとして流通させてしまうところにスピッツの底力がある。よくよく歌詞カードを読んでみれば、CDからスッと耳に入ってくる歌詞の中に本来ポップ・ソングとしてはかなり異質な言葉遣いが呆れるほどたくさん忍びこんでいることに気づくだろう。たぶん草野にとってはもうだんだん何でもよくなってきているのだろう。もうスピッツであるために配慮する必要も繕う必要もないのだ。好きなように、やりたいようにやればそれがもうそのままスピッツなのだ。今、最も信頼するに足る日本のバンド。
 

 



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