もう何度か書いたことだと思うが、ザ・ジャムのトリビュートに入っているエヴリシング・バット・ザ・ガールの「イングリッシュ・ローズ」は本当に素晴らしい。ベン・ワットのギター一本をバックにトレイシー・ソーンが歌うこの曲は、まるで初めから彼らのために作られたものであるかのように寸分の狂いもなくそこにある。おそらく既にドラムン・ベースだか何だかに行っちゃってる時期のEBTGであるだけに余計すごみがあったのかもしれない。一音たりとも無駄な音符のない純粋な音楽、純粋なヴォーカルだ。
このトラックを聴いてしまうと他のトリビュートものが聴けなくなってしまうくらい、カバーとはこうやるんだと言わんばかりの圧倒的なテンションと個性で軽々と他人の曲を自分たちの土俵に引きずりこむ彼らのすさまじい唯一無二な存在感に僕は言葉を失ったものだ。僕にとってEBTGはとても美男美女とは言い難いルックスの奥に秘められた異様に純度の高い音楽的イノセンスの代名詞に他ならない。アコースティックでも、オーケストラでも、ハウスでも、そこにあるのはEBTGワールドとしか言いようのない世界。
そのトレイシー・ソーンが、EBTG結成前の「A Distant Shore」以来25年ぶりのソロ・アルバムを出したと言えばそりゃ買うだろ、普通。だが、正直言ってこのアルバムはがっかりだ。曲はそれなりにいいのかもしれないが、このサウンド・プロダクション、アレンジのダメさはどういうことだ。安っぽいシンセ、おざなりの打ち込み、確実に脱力する中途半端なエレクトリック。せっかくの曲もボーカルも台無しだ。これなら全編ギター一本の方がよほどよかった。今、もっともダメなアレンジの見本になり得る作品。
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