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THE BLUETONES The Bluetones 7竹

僕はなぜロックを聴くのだろう、ということを定期的に考える。あるいは、僕が今聴いているこの音楽はロックだろうか、とか。こないだ見たサンボマスターのライブでは、山口が「これがロックだとかそんなことはどうでもいい」とガナっていたし、それはその通りなんだろうけど、僕はやはりそのどうでもいいことを考えずにはいられない。これはロックなのか、僕はなぜロックを聴くのか。なぜロックでなければならないのか。そうやって僕はいつも自分の中の出っぱりや引っこみを確認する。僕の過剰と欠損を。

そういう意味ではブルートーンズというのは不思議なバンドだ。彼らのどこに出っぱりがあるのか、どこに引っこみがあるのか、それは容易には分からない。適度に端整で適度に元気よく。ブリット・ポップという言い方がまだ有効なら(たぶん無効だろうけど)まさにそう呼ぶしかない破綻のない行儀のいいギターポップを鳴らす。だけどそれはその音楽がつるんと無表情であることを意味しない。むしろその行儀のいいギターポップが僕の中の何かと確実に呼応する。最近珍しいくらい繰り返し聴いてるアルバムだ。

行儀よく進学校を卒業し、行儀よく大学に進み、行儀よくサラリーマンになった僕が内包している破綻。だれにも見えないかもしれない歪み、だれも知らないかもしれない悪意、そういったものがもしかしたらこのポップでキャッチーなアルバムの奥底に潜む彼らの破綻と呼び合っているのだろうか。いや、そうだとしてもそれは意識下で静かに進行していることであり、僕たちには分かりようのないことだ。僕に言えるのはただ、このアルバムが半ばやけくそなくらいポップだということ。それでいい。悪くない。
 

 
OUT OF THE WOODS Tracey Thorn 5松

もう何度か書いたことだと思うが、ザ・ジャムのトリビュートに入っているエヴリシング・バット・ザ・ガールの「イングリッシュ・ローズ」は本当に素晴らしい。ベン・ワットのギター一本をバックにトレイシー・ソーンが歌うこの曲は、まるで初めから彼らのために作られたものであるかのように寸分の狂いもなくそこにある。おそらく既にドラムン・ベースだか何だかに行っちゃってる時期のEBTGであるだけに余計すごみがあったのかもしれない。一音たりとも無駄な音符のない純粋な音楽、純粋なヴォーカルだ。

このトラックを聴いてしまうと他のトリビュートものが聴けなくなってしまうくらい、カバーとはこうやるんだと言わんばかりの圧倒的なテンションと個性で軽々と他人の曲を自分たちの土俵に引きずりこむ彼らのすさまじい唯一無二な存在感に僕は言葉を失ったものだ。僕にとってEBTGはとても美男美女とは言い難いルックスの奥に秘められた異様に純度の高い音楽的イノセンスの代名詞に他ならない。アコースティックでも、オーケストラでも、ハウスでも、そこにあるのはEBTGワールドとしか言いようのない世界。

そのトレイシー・ソーンが、EBTG結成前の「A Distant Shore」以来25年ぶりのソロ・アルバムを出したと言えばそりゃ買うだろ、普通。だが、正直言ってこのアルバムはがっかりだ。曲はそれなりにいいのかもしれないが、このサウンド・プロダクション、アレンジのダメさはどういうことだ。安っぽいシンセ、おざなりの打ち込み、確実に脱力する中途半端なエレクトリック。せっかくの曲もボーカルも台無しだ。これなら全編ギター一本の方がよほどよかった。今、もっともダメなアレンジの見本になり得る作品。
 

 
MUSIC FROM BIG PINK The Band
PET SOUNDS The Beach Boys
OLD FRIENDS Simon & Garfunkel
BEAT WAVE The Bike
 



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