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THE GOOD, THE BAD & THE QUEEN The Good, The Bad & The Queen 7竹

デーモン・アルバーンとクラッシュのベーシスト、ポール・シムノンを中心としたプロジェクトのアルバムだ。もとはデーモンのソロ・アルバムの製作からスタートし、ポール・シムノンが参加したということらしい。ゴリラズではヒップホップに傾倒していたデーモンだが、このアルバムではバンド・サウンドによる歌ものが中心で、非常にオーソドックスな印象。もっとも、陽性のポップ・ソングは少なく、大半はレゲエを基調とした重く、湿り気のある曲だ。開放感、爽快感は正直あまり期待しない方がよい。

もちろんソング・ライティングの水準は高く、またアレンジを含めた音楽としての完成度も十分だ。そういう意味では安心して聴いていられる、外れのない秀作であり、その評価はおそらくデーモンが関わるほとんどの作品に共通するものかもしれない。以前にも書いたかもしれないが、デーモンの才能は残念ながらそういう制約とか仕掛けのある場所で最も幸福に開花するらしく、今回もまたポール・シムノンとのプロジェクトという「枠組み」の中でこそ有効に成立し得た作品だと言ってもいいんじゃないかと思う。

僕はそのことを責めるつもりはない。おそらくはそれがデーモン・アルバーンというアーティストの性であり業なのだろうから。だが、デーモンはもうブラーとして当たり前のポップ・ソングに戻ることはないのだろうかと思うのは僕だけじゃないはず。いや、ブラーでなくていい、ゴリラズをやり、このザ・グッドをやった後で、敢えてコマーシャルなフィールドに戻るデーモンを僕は見たい。トム・ヨークと違い、デーモン・アルバーンはどこまで行っても「ポップ」から逃れられない人のはずだと僕は思うのだ。
 

 
MAKE THIS YOUR OWN The Cooper Temple Clause 6松

4年ぶりのアルバムである。気がつけば随分普通のロック・バンドになったと思わせる堅実な仕上がりだ。もともとミクスチャー系とでも言うか、レンジの広い音楽性を評価されていたバンドのはずだったと思うが、いつの間にかイギリスらしい陰りのあるメロディをコアに、ストレートなギターを鳴らすオーソドックスなバンドになっているである。まあ、威勢のいい若手バンドがどんどん出てくる中で、2枚目、3枚目と低下して行く注目度の中で、生き残るには結局真面目に音楽をやるしかないということなのか。

曲作りにも地力というか底力のようなものがきちんと窺えるし、アルバム全体の構成にもそれなりにメリハリが効いている。トラックが始まってしばらくSEのようなものが流れなかなか曲の本編が出てこないようなもったいぶりもあったりしてちょっとげんなりするところはあるが、伝統的なブリティッシュ・ギターロックにちょっとハードロックが入ったような芸風は有効に機能していると言っていいだろう。このバンドってどんなバンドだっけと思いながら買っても、まあそれに見合うだけのものは提供できている。

ただ、ここに欠けているものがあるとすればそれはチャームだと思う。それは決して明るい曲、楽しい曲がないということではない。いや、確かに明るい曲はないのだが、明るい曲はなくても優れたアルバムはいくらでもあるだろう。そうではなく、聴き手を思わずにやりとさせるような、このバンド独特の色が出ていないように思えるのだ。妙に生真面目で悲愴なイメージがアルバム全編を覆っており、そう、これがCTCだよ、と納得する瞬間がなかなか訪れない。ていうかそれがCTCなのか。悪くはないが端的に言って暗め。
 

 
WILLOW SHE WEEPS John Power 7竹

そろそろ、元La'sの、とか、元Castの、とかいう前置きもあまり意味がなくなってきたジョン・パワーのソロ第2作。今作はまったくのアンプラグドであり、最初から最後までアコースティック・ギターがジャカジャカ鳴っているダウン・トゥ・アースな仕上がりとなった。曲そのものは骨太で、ほとんどアコースティック・ギター1本の伴奏でもしっかりロールしている。かっちりしたバンドで聴いてみたかった気もするが、ごまかしのきかないこのスタイルでも間延びしないのはやはり曲のよさとボーカルの力だろう。

決して美声ではないが聞き間違えることのない特徴のある声。ザラッと耳に引っかかり、聞き流すことのできない記名性の高い声質は、弾き語りというこのアルバムでの選択にフィットしている。リスナーから近いところでザックリ歌われるフォーク、ブルース、ロックンロールは音楽が本来持っているはずの直接性を思い起こされてくれる。La'sの再結成を経て、ジョン・パワーは自分のルーツにより近い場所へ自然に立ち帰ることができたのではないだろうか。このアルバムは彼の成長と自信の現れだと見てよい。

したがって、地味ではあるが音楽的な水準は高く玄人受けのする作品、というのがこのアルバムの一般的な評価なのだろうし、僕ももとよりそれに異論がある訳ではない。しかし、これだけのアルバムを作れる人であればこそ、僕はきちんとロックのフロント・ライン、メイン・ストリームで勝負して欲しいと思ってしまうのだ。いい音楽であればそれでいいのか。難しい問いかけだが、僕は、いい音楽ほどモンキービジネスの現場に踏みとどまり、そこでカスみたいな産業ロックと戦って欲しい。質的には文句のない作品。
 

 
PINICS Harco
MEN AND WOMEN Simply Red
NEO-ACOUSTIC DREAM V.A.
NEO-ACOUSTIC PARADE V.A.
NEO-ACOUSTIC LOVE V.A.
 



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